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TOKYO BUCKET LIST. 都市の愉しみ方 お菓子から建築、アートまで歩いて探す愉しみいろいろ。

第47回:見る音楽、聴く形 サウンド&アート展

Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、東京在住。武蔵野美術大学卒業後、女性誌編集者を経てその後編集長を務める。現在は気になる建築やアート、展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。


広い空間に不思議な作品ばかりが置かれている。
既存の楽器では出せない「音」を求めて創作されたアートの展覧会で、見たこともないものがほとんどだ。

金沢健一「振動態ー正方形 900」
バシェの教育音具。 2021年 サウンド&アート展 見る音楽、聴く形 Photo:Yuya Furukawa/
宇治野宗輝「The District of Plywood City」
2021年 サウンド&アート展 見る音楽、聴く形 Photo:Yuya Furukawa

まずルイジ・ルッソロの「イントナルモーリ」の展示へ。
ルッソロは20世紀初頭のイタリアの未来派のアーティストで、従来の音楽の領域を乗り越えようと、雑音や騒音のもつ多彩な音色に着目。音楽的な騒音を可能にするような装置「イントナルモーリ Intonarumori」を制作する。
これはノイズを発生させる楽器で、27種類の音をそれぞれが“奏でた”そうだ。

Intonarumoriという名は「調律(intonare)」と「騒音(rumore)」の合成語で、「調律された騒音楽器」という意味だという。これは写真でしか見たことがなかった。展示されているものは、1914 年にミラノで発行された特許証やテクニカル・スケッチなどをもとに、1986年に音楽評論家・秋山邦晴の監修によって多摩美術大学で再現制作されたもの。
その中のスコッピアトーレ「Scoppiatore(爆発音楽器)」、クレピタトーレ「Crepitatore(パチパチ楽器)」、ストロピッチャトーレ「Stropicciatore(こすり楽器)」の3体だ。
一体どんな音がしたのか想像を巡らすだけでも楽しい。彼はノイズ・ミュージックの始祖といえる人だろう。

YouTube > Intonarumori : ululatore (hooter) ウルラトーレ(うなり楽器)

YouTube > Intonarumori : crepitatore (crackler) クレピタトーレ(パチパチ楽器)

YouTube > Intonarumori : ronzatore (buzzer) ロンザトーレ(ブンブン楽器)

フランソワ・バシェ「勝原フォーン」
1986年秋山邦晴の監修によって多摩美術大学で再現制作されたルイジ・ルッソロのイントナルモーリ。 写真:筆者提供

次はフランソワ・バシェの「勝原フォーン」の展示へ。

彫刻家志望であったフランソワ・バシェは1950年代から音響工学を学んだ兄ベルナールと共に音響彫刻作品を数々つくり上げ、実験的オーケストラで演奏活動も行ったアーティストだ。
これは1970年の大阪万博に招聘された際に制作された中の1点で、解体され倉庫に眠っていた部材を2017年に「東京藝術大学バシェ音響彫刻修復プロジェクト」により修復されたものだという。

YouTube > Baschet Sound Sculpture “KATSUHARA PHONE” Performance:「Ensemble Sonora」Jyoji Sawada Ryo Watanabe

これも映像でしか見たことがなかったものだ。オブジェとしても楽器としてもすごく美しい。

フランソワ・バシェ「勝原フォーン」
フランソワ・バシェ《勝原フォーン》(大阪府 万国博覧会記念公園事務所/修復:東京藝術大学バシェ音響彫刻修復プロジェクト)
フランソワ・バシェ「勝原フォーン」
1970年大阪万博の時に作られたフランソワ・バシェの音響彫刻17点の作品のうちの1点を修復したもの。ジュラルミンのコーン(スピーカー)と鉄のフレーム、縦弦はステンレス、横弦はピアノ線でできている。勝原の名は万博当時の助手を勤めた人への感謝の意を込めてバシェが命名したもの。 写真:筆者提供
フランソワ・バシェ「勝原フォーン」
写真:筆者提供

そして明和電機の「ナンセンス・マシーン」が独特の世界を醸し出している。
中央の「セーモンズⅡ」が、花型木琴「マリンカ」と手のひらが壁面を連打する「ザ・スパンカーズ」(バイバイワールドとの共作)を従えてアンサンブル演奏をするセッティングだ。

セーモンズⅡは、ゴムでできた人工声帯に風船の肺から空気を送り、張力をコンピューター制御して歌を歌う装置で、明和電機の作品群の中でも「ボイスメカニクスシリーズ」に分類される声帯楽器だ。
楽器が弦楽器、管楽器、打楽器、鍵盤楽器などに分類されるとしたら、セーモンズⅡは「声」を追求した「声楽器」になるのだろうか。
初期のセーモンズは、風船でなくアコーディオンのような鞴(ふいご)の蛇腹が開閉し声帯に空気を送り込む3体のトリオだった記憶がある。

明和電機「ナンセンス・マシーン」
明和電機「マリンカ」(2001年)「セーモンズⅡ」(2014年)明和電機×バイバイワールド「ザ・スパンカーズ」(2012年)  2021年 サウンド&アート展 見る音楽、聴く形 Photo:Yuya Furukawa
明和電機「ナンセンス・マシーン」
左)明和電機《セーモンズⅡ》 Photo:三橋純、右)明和電機《マリンカ》 Photo:三橋純
明和電機「ナンセンス・マシーン」
写真:筆者提供

invisi dirの「KO-TONEスパイラル木琴」もある。
森の中に設置された長く続く44メートルもある木琴の上を木製の球が転げながらがバッハのカンタータを奏でるテレビCM「森の木琴」を覚えている人は多いだろう。
YouTube > 「森の木琴」 TOUCH WOOD SH-08C NTT docomo CM

木琴の音板1枚が楽曲の音符の一音に相当するこの構造をスパイラル状に組み上げたものだ。
以前、1日だけ恵比寿で開催された「Perfumery Organ Exhibition in Tokyo」でスパイラル木琴に球を転がす体験をしたことがある。
その時はバッハの「カンタータ」だったが、今回の曲はエルガーの「威風堂々」。
一曲のためだけにつくられているこの大掛かりな作品の動力は、球が落下するための重力だけだということにも気づく。

invisi dirの「KO-TONEスパイラル木琴」
invisi dir《KO-TONE スパイラル木琴》 Photo: Masahiro Oku
invisi dirの「KO-TONEスパイラル木琴」
写真:筆者提供

一柳慧や武満徹の図形楽譜もあるが、はじめて知る作家の作品の方が圧倒的に多い。

マーティン・リッチズ「Thinking Machine」
マーティン・リッチズ《Thinking Machine》(東京大学駒場博物館、Photo:Kenichi Hagihara、Creative Commons-license (attribution + non-commercial + no derivitive works)
フィル・ダドソン:フロム・スクラッチ「PVC ロング・パイプ・ステーション」
フィル・ダドソン:フロム・スクラッチ《PVC ロング・パイプ・ステーション》 Photo:Philip Dadson
宇治野宗輝「The District of Plywood City」
テーブル・ライトやミキサー、ターンテーブルなどが美術作品の梱包のような木箱に取り付けられて、“演奏”をはじめる作品。その意図を作者の宇治野宗輝は「世界中を旅する美術作品のクレートをビルディングに、電化製品によるサウンド・システム『The Rotators』の鼓動を近代都市の生命に見立てている」と語る。
宇治野宗輝《The District of Plywood City》
©UJINO Courtesy of ANOMALY、Photo by ただ(ゆかい)
藤田クレア「Invisible soundscape ~version 1 : (1 + √5)/2+x~ 」
貝殻をなぞり、かたちを電気信号に変えて鉄琴の音に変換する作品。 藤田クレア《Invisible soundscape ~version 1 : (1 + √5)/2+x~ 》 Photo:加藤健
ハンス・ライヒェル「ダクソフォン/タング」
ハンス・ライヒェル《ダクソフォン/タング》 Photo:Hans Reichel
西原尚「勤奮機械」
西原尚《勤奮機械》 Photo: 台南市美術館

アンプラグドのパーカッションやモーターの動力で自動演奏する楽器、工芸品のように精密に磨き上げられた木製品もあれば、ラフなつくりのものもある。
突然動き出し不思議な音を響かせるそれら作品群の中にいて、2016年にオランダ・アムステルダムの「Stedelijk Museum(ステデリック・ミュージアム)」で開催されたジャン・ティンゲリーの大回顧展へ行った事を思い出した。

YouTube > JEAN TINGUELY - MACHINE SPECTACLE (Mini Documentary)

ジャンクを複雑に組み立てた巨大な動く彫刻群は、ある時間になると突如動き出し、金属音を盛大に館内に響かせる自動演奏装置になった。
美術館に展示された166作品の内62点は機械彫刻。その中の42台のマシンを作動可能にさせるために18カ月を修復作業に費やしたそうだ。
キネティカルなアートはメンテナンスが大変だということがよくわかった。

ジャン・ティンゲリー大回顧展
アムステルダム・ステデリック・ミュージアムでのジャン・ティンゲリーの大回顧展。 写真:筆者提供
ジャン・ティンゲリー大回顧展
ジャン・ティンゲリー「Elément Détaché Ⅲ」(1954年) 写真:筆者提供
https://vimeo.com/90849180
ジャン・ティンゲリー大回顧展
ジャン・ティンゲリー「Requiem pour une feuille morte」(1967年) 写真:筆者提供
https://vimeo.com/218619720
ジャン・ティンゲリー大回顧展
ジャン・ティンゲリー「Gismo」(1960年) 写真:筆者提供
https://www.youtube.com/watch?v=x32VDxRaZQM
ジャン・ティンゲリー大回顧展
写真:筆者提供

ティンゲリー展では自転車を漕いでその動力でティンゲリー作品を動かすこという子どもも参加可能なこんな装置もつくられていた。

ジャン・ティンゲリー大回顧展
写真:筆者提供

「サウンド&アート」展にも演奏可能な展示作品があるが、体験ルーム内では「バシェの教育音具」をはじめ全ての作品が演奏できるようになっていて楽しい。
既存の楽器とは異なる想像を超えた音の発生に、驚く喜びが加わるからだと思う。
個々の作品はこれまで公開されてきたものだが、20世紀初頭から現代まで時代や国を超えて音と格闘してきた作家たちの作品が一堂に会することに出会ったのははじめてだ。
ルッソロの騒音楽器での初演奏は、観衆を激怒させたらしい。
ストラビンスキーのバレエ「春の祭典」も、ジョン・ケージの実験音楽もそうだった。社会の既存の価値観を超えたものは常に遭遇することだ。
それらが消滅しなかったのは再生しキュレイションする人がいるからこそで、そうでなければ私達はフィジカルに作品に出会うことはできない。
貴重な体験に感謝。

ベルナール・バシェ「バシェの教育音具」
ベルナール・バシェ(考案者)「バシェの教育音具」(京都市立芸術大学、Photo:SHINOBU ANZAI)
ベルナール・バシェ「バシェの教育音具」
金沢健一「音のかけらテーブル(57 memories)」(2007年)  写真:筆者提供

<関連情報>

□「サウンド&アート展 見る音楽、聴く形」
https://muse-creative-kyo.com/caec/soundandart/
会期:2021年11月21日(日)まで
営業時間:12:00~18:00 入場は17:00まで/会期中無休
会場:アーツ千代田 3331 1Fメインギャラリー
住所:東京都千代田区外神田6丁目11−14

様々なアーティスト・トークやデモンストレーション、ワークショップが行われている。
https://muse-creative-kyo.com/caec/soundandart-event-info/

※新型コロナウイルス感染症予防の観点から日時指定予約制を導入。事前に予約サイトより予約を。
https://www.e-tix.jp/soundandart/

 「サウンド&アート展 見る音楽、聴く形」ビジュアル

□MUSICA FUTURISTA THE ART OF NOISES
「未来派の音楽:騒音芸術」。1909-1935年のイタリア未来派の芸術家の音楽と朗読などの音源のコンピレーション。
マリネッティの未来派宣言、ルッソロのオリジナル録音も収録されている。
Amazon > Musica Futurista: The Art of Noises 1909-1935

 「Musica Futurista「The Art of Noises 1909-1935」

□Perfumery Organ Exhibition in Tokyo
https://tasko.jp/news/20151120-gardenh/
https://tasko.jp/news/perfumery-organ/

□JEAN TINGUELY - MACHINE SPECTACLE Exhibition 1 Oct 2016~4 Mar 2017
https://www.stedelijk.nl/en/exhibitions/jean-tinguely-machine-spectacle

□バシェ協会~大阪万博EXPO70 フランソワ・バシェ音響彫刻の世界~
http://baschet.jp.net/about/

□バシェ音響彫刻修復プロジェクト「勝原フォーン」東京藝術大学
https://geidai-factory.art/baschet-info/

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2021/11/13

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