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TOKYO BUCKET LIST. 都市の愉しみ方 お菓子から建築、アートまで歩いて探す愉しみいろいろ。

第31回:パリと音楽/ドアノー 、コルビュジエ、クセナキス

Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、東京在住。武蔵野美術大学卒業後、女性誌編集者を経てその後編集長を務める。現在は気になる建築やアート、展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。


展示会場に入るとシャンソンが聴こえてくる。
『写真家ドアノー/音楽/パリ』展は、2018~2019年にかけてパリ19区に2015年に設立されたコンサート・ホールや劇場を備えた文化的複合施設「フィルハーモニー・ド・パリ」内にある音楽博物館で開催されたもので、1930年代から90年代にかけて写真家のロベール・ドアノーによってパリで撮影された様々な音楽にまつわる被写体を構成した写真展だ。

『写真家ドアノー/音楽/パリ』展
©Yuya Furukawa
ロベール・ドアノーのセルフポートレート
ロベール・ドアノー 《ロベール・ドアノーのセルフポートレート》ヴィルジュイフ 1949年 ゼラチン・シルバー・プリント ©Atelier Robert Doisneau/Contact

冒頭の「街角」という章では、街に溢れ歌い踊る「パリ祭」の人々の写真が続く。
それは1940年から44年までナチス・ドイツによって占領されていたパリがようやく解放され、自由を謳歌する市民の姿を捉えたものだ。

ロベール・ドアノー 《パリ祭のラストワルツ》
ロベール・ドアノー 《パリ祭のラストワルツ》パリ 1949年7月14日 ゼラチン・シルバー・プリント ©Atelier Robert Doisneau/Contact

その章に、作曲家エリック・サティの住んだ三叉路に建つ家の写真もあった。
彼の不遇時代であった19世紀末、サティは芸術家の集まるcafé-concert (キャバレー)「Le Chat Noir(黒猫)」でピアノ弾きをしていていた。
その頃に作曲したのが「Je te veux(ジュ・トゥ・ヴ)」。
アコーディオンを抱えて“流し”でビストロやキャバレー、街角で歌う歌手の写真も続く。彼らも「Je te veux」を歌っていたのだろうか。

Erik Satie "Je te veux" (Gilles Chevalier Accordion)
https://www.youtube.com/watch?v=BoTo7tfXb9A

Je te veux
https://www.youtube.com/watch?v=t8BLYbVelU4

ロベール・ドアノー 《流しのピエレット・ドリオン》
ロベール・ドアノー 《流しのピエレット・ドリオン》パリ 1953年2月 ゼラチン・シルバー・プリント ©Atelier Robert Doisneau/Contact
右からアルクイユのエリック・サティの家(1945年)。中はアルクイユの”小さなカフェ”(1948年)。左は”日曜日の朝”アルクイユ・カシャン(1945年)
右からアルクイユのエリック・サティの家(1945年)。中はアルクイユの”小さなカフェ”(1948年)。左は”日曜日の朝”アルクイユ・カシャン(1945年) 写真:筆者提供

後にサン=ジェルマン=デ=プレのミューズと呼ばれるジュリエット・グレコのまだデビュー前の写真。

Juliette Greco sings Sous le ciel de Paris
https://www.youtube.com/watch?v=oieG0DHfISEv

Juliette Gréco * Chanson pour l’auvergnat * 1956
https://www.youtube.com/watch?v=jL-FrqN54oQ

Bonjour Tristesse (1958) - Juliette Greco
https://www.youtube.com/watch?v=kjNkrlLiJQg

ロベール・ドアノー 《サン=ジェルマン=デ=プレのジュリエット・グレコ》
ロベール・ドアノー 《サン=ジェルマン=デ=プレのジュリエット・グレコ》 1947年 ゼラチン・シルバー・プリント ©Atelier Robert Doisneau/Contact

マルセル・カルネの映画『夜の門』(1946年)で主題歌「枯葉」を歌いヒットさせ一躍スターになった頃の若いイヴ・モンタン。

Yves Montand - Les Feuilles Mortes
https://www.youtube.com/watch?v=JWfsp8kwJto

ロベール・ドアノー 《イヴ・モンタン》
ロベール・ドアノー 《イヴ・モンタン》 1949年 ゼラチン・シルバー・プリント ©Atelier Robert Doisneau/Contact

フランソワ・トリュフォーの映画『ピアニストを撃て』(1960年)の主役を演じている撮影現場のシャルル・アズナブールもいる。

Charles Aznavour - La Boheme - B&W - HQ Audio
https://www.youtube.com/watch?v=hWLc0J52b2I

Charles Aznavour - La bohème (Official Lyrics Video)
https://www.youtube.com/watch?v=fVfnEyLOkrM

右からフランソワ・トリュフォー監督、アズナブール、共演のマリー・デュボワ

右からフランソワ・トリュフォー監督、アズナブール、共演のマリー・デュボワ。映画『ピアニストを撃て』の撮影現場で。1960年2月4日。 写真:筆者提供

タバコを指に挟んで頬杖をつくバルバラのポートレート。
バルバラの映画『バルバラ~セーヌの黒いバラ~』は、2018年に「Bunkamuraル・シネマ」で上映されていたのを思い出す。

『バルバラ~セーヌの黒いバラ~』予告
https://www.youtube.com/watch?v=DwSkM7U83FA

ロベール・ドアノー 《レクリューズのバルバラ》

ロベール・ドアノー 《レクリューズのバルバラ》パリ6区 1957年12月 ゼラチン・シルバー・プリント ©Atelier Robert Doisneau/Contact

詩人のジャック・プレヴェールもくわえタバコだ。
彼は、マルセル・カルネの『天井桟敷の人々』『夜の門』のシナリオも書いているし、『枯葉』も彼の作詞だ。
プレヴェールは、古き良きパリが残っている様々な場所をドアノーに教えたという。

ロベール・ドアノー 《ポン・ド・クリメのジャック・プレヴェール》
ロベール・ドアノー 《ポン・ド・クリメのジャック・プレヴェール》パリ19区 1955年 ゼラチン・シルバー・プリント ©Atelier Robert Doisneau/Contact

録音中のマリア・カラス、バレエ『カルメン』の衣装合わせをするジジ・ジャンメールとイヴ・サン=ローランなどの写真も。
ここから感じるのは、オペラ座が象徴するようにパリは最高峰の舞台芸術が結集しているところだということだ。

ロベール・ドアノー 《録音中のマリア・カラス、パテ・マルコーニ・レコードのスタジオにて》
ロベール・ドアノー 《録音中のマリア・カラス、パテ・マルコーニ・レコードのスタジオにて》 1963年5月8日 ゼラチン・シルバー・プリント ©Atelier Robert Doisneau/Contact
ロベール・ドアノー 《バレエ「カルメン」の衣装合わせ、イヴ・サン=ローランとジジ・ジャンメール》
ロベール・ドアノー 《バレエ「カルメン」の衣装合わせ、イヴ・サン=ローランとジジ・ジャンメール》 1959年 ゼラチン・シルバー・プリント ©Atelier Robert Doisneau/Contact

パリはシャンソンやオペラ、バレエだけが特出している街ではない。
サティを筆頭に優れた現代音楽が育まれたところでもある。
「スタジオ」という章では、パリ国立高等音楽院で学生たちを指導しているオリヴィエ・メシアン、メシアンに師事したピエール・ブーレーズとヤニス・クセナキスのポートレートも発見した。
ベルナール・バシェの音響彫刻の製作風景もあってこれは圧巻だ。日本では大阪万博で公開されて以来、昨年は岡本太郎美術館でも展示されたオブジェとしても美しい楽器だ。

Erik Satie : Gnossienne n°1 Cristal Baschet
https://www.youtube.com/watch?v=8cmzjIkx6b8&list=RD1g6i7KUu2Lg&index=2

『写真家ドアノー/音楽/パリ』展の展示風景

左)スライド・プロジェクションで見られるフランソワ・バシェとジャック・ラズリーのクリスタル・オルガン(1957年3月3日)。中)ピエール・ブーレーズ(1961年11月7日)。1976年に現代音楽に特化した室内オーケストラ アンサンブル・アンテルコンタンポランを創設した。右)ヤニス・クセナキス。撮影年不詳。確率的手法を創造し、はじめて作曲にコンピューターを使った作曲家。 写真:筆者提供

クセナキスといえば、昨年末家の大規模な片付けをした時に古い小さな封筒を発見した。中にははじめてパリを訪れた時のメトロのカルネや、オペラ座やいろいろな美術館のチケットが入っていた。
1972年の大晦日に「クリュニー美術館」で行われたクセナキスの「POLYTOPE DE CLUNY(ポリトープ ド クリュニー)」のチケットやフライヤー、その時の印象を書き留めたメモもあった。

『写真家ドアノー/音楽/パリ』展の展示風景

写真:筆者提供
クリュニー美術館

クリュニー美術館の敷地は1世紀から3世紀にかけてつくられたローマ時代の浴場のあったところで、「POLOTOPE DE CLUNY」はその浴場跡=Thermes de Cluny で行われた。 写真:筆者提供
クリュニー美術館

クリュニー美術館は15世紀末の「貴婦人と一角獣」の6枚の連作タピスリーでも有名だが、裏庭は中世の修道院の薬草園や菜園を再現していて見事。 写真:筆者提供

クリュニーはローマ時代の浴場跡に様々な時代の建築物が集合した場を美術館にしたところで、当時も、そして今でもローマ時代の遺跡がそのままに残されている。
クセナキスはその壁面と天井にストロボのように点滅する無数のライトとレーザー装置を取り付け、いくつものスピーカーから流れる音=音楽と呼応して変化させていくというインスタレーションを行った。
鑑賞者は床に寝そべり、天井を見上げて次々に変化する音と光を体験する。
ガラスか金属の破片がぶつかり合って生まれるような音とノイズ、星座のような光が目まぐるしく動き回り、レーザービームが暗闇を裂く。はじめて目の当たりにするものばかりの、風変わりな美しさに満ちた時間だった。

チケットを改めて見ると「FESTIVAL D’AUTOMNE A PARIS」の催しの一つだったことが最近になってわかった。
これは毎年9月から12月にかけてパリで行われる、音楽・演劇・映画・ダンス・シンポジウムなど斬新で刺激的な内容のアートのフェスティヴァルだ。
そしてそれは、1972年のこの年からスタートした。新しい創作がはじまる時と場所に居合わすことができたことは幸運だ。
想像を超えたこういう出会いがあるのも、パリならでは。
パリは、何かがはじまり、その萌芽が開花するまでの培養器のようなところだと思う。

Iannis Xenakis - Le Polytope de Cluny
https://www.youtube.com/watch?v=XK1KjtetCsg

クセナキスはギリシャでナチス・ドイツに対するレジスタンス運動に加わり、戦後はギリシャの独裁政権から逃れ、パリでル・コルビュジエの弟子となった建築家で、数学者でもあった人だ。
彼は、ル・コルビュジエの名建築「ラトゥーレット 修道院」を担当したことでも有名。
彼のデザインとされている“光の波動面”と呼ばれるこの回廊のガラス窓の垂直線の連続は、反転と反復という音楽的手法でつくられたとも、数学的な確率論を用いてデザインされたとも言われている。

ラトゥーレット 修道院の回廊

連続する垂直線がリズムを生む回廊。このスロープの先に礼拝の行われる聖堂がある。中庭を囲む回廊はロマネスク修道院建築の極致「ル・トロネ」からの影響がある。 写真:筆者提供

ラトゥーレット 修道院

リヨン郊外の丘の上にある1956年着工、1960年竣工のル・コルビュジエ後期の代表的作品。丘の斜面からピロティによって持ち上げられたような構造。 写真:筆者提供

ドアノー展の最初の展示作品は、この2点のコラージュだった。左はドアノーの手による「共同住宅」(1962)で、古いアパルトマンに住む人々の日々の営みを収めている。
右は2018年の展覧会のために再構成されたもので、ジプシー・スイングのジャンゴ・ラインハルトや「フランス6人組」の一人であったプーランクなどアーティストの写真がル・コルビュジエ設計設計の共同住宅「ユニテ・ダビタシオン」に嵌め込まれている。

左はドアノーの手による「共同住宅」(1962)、右は2018年の展覧会のために再構成されたもの

写真:筆者提供

ユニテ・ダビタシオンは、コルビュジエが1952年から60年までフランスやベルリンに建設した集合住宅で、人体の寸法と黄金比からつくったモデュロール(基準寸法の数列)に基づいて設計された。
1階はピロティ、屋上には幼児のための幼稚園や庭園もある。戦後最も新しい考え方の共同住宅のかたちを具現化したものだ。
昨年、竹橋の「国立近代美術館」で開催された「ピーター・ドイグ展」にも、ユニテ・ダビタシオンの絵があった。

マルセイユのユニテ・ダビタシオンの屋上

マルセイユのユニテ・ダビタシオンの屋上。 写真:筆者提供

ユニテ・ダビタシオン

全337戸8階建ての巨大な集合住宅。一戸は2階を有するメゾネット形式で、開口部のバルコニーは吹き抜けになっている。バルコニーの仕切りにはそれぞれ違う鮮やかな色が使われている。 写真:筆者提供

2020年に開催された東京国立近代美術館の「ピーター・ドイグ展」で展示された「Concrete Cabin」

2020年に開催された東京国立近代美術館の「ピーター・ドイグ展」で展示された「Concrete Cabin」。ブリエ=アン=フォレのユニテ・ダビタシオンを描いたもの。 写真:筆者提供

展覧会の帰りにBunkamuraの「ドゥ マゴ パリ」に寄っていつものカフェオレを頼んだ。
ここでは、サン=ジェルマン=デ=プレ教会の真向かいにある本家のカフェ「Les Deux Magots」でのCafe Cremeと同様にミルクとコーヒーが別々のピッチャーに入れられて出てくる。
2つのピッチャーを両手に持ってミルクとコーヒーを同時に注ぐのが正しいと聞いた。ミルクとコーヒーの比率が同じになるかららしい。
クセナキスはギリシャから、イヴ・モンタンはファシズムを逃れイタリアから、シャルル・アズナブールの両親はグルジアやアルメニアから戦禍を逃れてパリへ来た人たちだ。
スイスの田舎町出身のル・コルビュジエも建築家を目指して、ベルギー出身のオーギュスト・ペレのパリの事務所にやってきた。
サティの生きていた時代のエコール・ド・パリの画家たちの多くもスペイン、イタリア、ロシア、ポーランド、そして藤田嗣治は日本からパリを目指した。
多種多様な民族が混ざり合い影響を与え合うことで、新しい豊かな文化が生まれたのだ。
白いミルクと褐色のコーヒーが混ざり合うカップの中を覗き込んで、そんな当たり前のことを思った。

パリの「Les Deux Magots」

パリの「Les Deux Magots」。サン=ジェルマン=デ=プレ教会に面した席。 写真:筆者提供


<関連情報>

□展覧会『写真家ドアノー/音楽/パリ』
https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/21_doisneau/#intro
https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/21_doisneau/
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
開催期間:2021年3月31日まで(会期中無休)
開館時間:10:00-18:00(入館は17:30まで)
3月6日まで金・土曜日は20:00まで(入館は19:30まで) ※3月12日以降の夜間開館については決定次第HPで案内される。 
問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
詳細はこちら
http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/21_doisneau/topics/yakan.html

□Philharmonie de Paris (フィルハーモニー ド パリ)
https://decouvrir.philharmoniedeparis.fr/fr/
https://decouvrir.philharmoniedeparis.fr/en/?_ga=2.123403339.1599762513.1613114031-118569470.1613114031

□Baschet Association of Japan バシェ協会
https://baschet.jp.net

□Musée national du Moyen âge - Thermes et Hôtel de Cluny クリュニー国立中世美術館
https://www.musee-moyenage.fr/en/home.html
https://www.musee-moyenage.fr

□Festival d'Automne à Paris パリ・フェスティバル・ドートンヌ
https://www.festival-automne.com
https://www.festival-automne.com/histoire-missions

□Couvent de La Tourette ラ・トゥーレット修道院
http://www.couventdelatourette.fr

□Unite d’habitation ユニテ・ダビタシオン
http://www.fondationlecorbusier.fr/corbuweb/morpheus.aspx?sysId=13&IrisObjectId=5234&sysLanguage=en-en&itemPos=58&itemCount=78&sysParentId=64&sysParentName=home

□Les Deux Magots レ・ドゥ・マゴ
http://www.lesdeuxmagots.fr


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2021/02/16

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