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TOKYO BUCKET LIST. 都市の愉しみ方 お菓子から建築、アートまで歩いて探す愉しみいろいろ。

第26回:石岡瑛子 Never seen before

Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、東京在住。武蔵野美術大学卒業後、女性誌編集者を経てその後編集長を務める。現在は気になる建築やアート、展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。


“Never seen before” とは、“かつてない”という意味だ。
「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」展が「東京都現代美術館」で開催されている。
この展覧会を一言で表すなら”Never seen before” ではないかと思う。
石岡瑛子が生涯にわたって表現してきた仕事の追求の姿勢も、この言葉に重なる。

エントランスはEIKO REDの赤が視界を覆い、こんな言葉からはじまる。

「血がデザインできるか、汗がデザインできるか、涙がデザインできるか。
別の言い方をするならば、”感情をデザインできるか”ということです。 
私の中の熱気を、観客にデザインというボキャブラリーで
どのように伝えることができるだろう。」(2003年世界グラフィックデザイン会議での講演より)

「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」展示風景 東京都現代美術館 2020 年 Photo: Kenji Morita
写真:筆者提供

続く第1章は「TIMELESS」をテーマに、1960年代の資生堂宣伝部時代から独立後の’70年代〜’90年代までのグラフィックデザインを網羅した部屋だ。
PARCOとの仕事など既視感のあるグラフィックがほとんどだが、その中に「国際サイテックアート展:エレクトロマジカ 1969」のポスターを発見!
これは数寄屋橋交差点にあった芦原義信設計の「SONYビル」で行われた「光・運動・音 国際サイテック・アート展 エレクトロマジカ」(1969)のビジュアルで、今全盛のデジタル・アートの日本における先駆けのような展示だった。

「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」展示風景、東京都現代美術館、2020 年 Photo: Kenji Morita
左は「国際サイテックアート展:エレクトロマジカ 1969」(1969)のポスター、右は「POWER NOW」(1968)ポスター 写真:筆者提供
石岡瑛子 ポスター『西洋は東洋を着こなせるか』(パルコ、1979年) アートディレクション

SONYの肝いりで伊藤隆道や高橋士郎、海外からの作家も多く参加。今思うとプリミティブなキネティック・アートのような作品なのだが、当時の最先端が集結していた印象がある。
展示より強烈に記憶に残っているのは、メタルのシートにMICR(磁気インク文字認識)のタイポグラフィーでELECTROMAGICAの文字が印字されたチケットだ。当時美大生だった私は「未来のデザイン」はこうなるのだと、妙な確信をした覚えがある。
これが石岡瑛子の手によるものだったとは今まで知らなかった。

展示では、メタルシートに印刷された「POWER NOW」(1968)のポスターがその手法に近い。

第2章は「FEARLESS」。
6mもある天井高一杯の赤い壁面に映えるのは、一冊の本『石岡瑛子 風姿花伝 EIKO BY EIKO』。
この本が引き寄せたマイルス・デイヴィスとの仕事や、M. バタフライの舞台などが続く。
圧巻はポール・シュレイダーの「MISHIMA-A Life in Four Chapters」の床も壁も黄金の部屋に再現された金閣寺だろう。なんと贅沢な。
https://www.youtube.com/watch?v=QS25_IF1l4o
https://www.youtube.com/watch?v=LzaXtBr5210

写真:筆者提供
M.バタフライの舞台写真と衣装。 写真:筆者提供
石岡瑛子 映画『ミシマ―ア・ライフ・イン・フォー・チャプターズ』(ポール・シュレイダー監督、1985年) プロダクションデザイン Mishima ©Zoetrope Corp. 2000. All Rights Reserved. / ©Sukita

続いてアカデミー賞を受賞したフランシス・F・コッポラ監督「ドラキュラ」の衣装。
YouTube > Bram Stoker’s Dracula – Official® Trailer

「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」展示風景 東京都現代美術館 2020 年 Photo: Kenji Morita
石岡瑛子 映画『ドラキュラ』(フランシス・F・コッポラ監督、1992年)衣装デザイン
©David Seidner / International Center of Photography

そこから階下に降りると第3章「BORDERLESS」。
ターセム・シンとの仕事「ザ・セル」YouTube > The Cell (2000) – Red Band Trailer (R)、「落下の王国」YouTube > The Fall (2006) BEST SHOTS
そして 「シルク・ドゥ・ソレイユ」など石岡瑛子の晩年まで続く衣装デザインの世界だ。

石岡瑛子 映画『落下の王国』(ターセム・シン監督、2006年)衣装デザイン
©2006 Googly Films, LLC. All Rights Reserved.
石岡瑛子 コンテンポラリー・サーカス『ヴァレカイ』(シルク・ドゥ・ソレイユ、2002年)衣装デザイン
Director: Dominic Champagne / Director of creation: Andrew Watson / Set designer: Stéphane Roy /
Courtesy of Cirque du Soleil

そして、デサントと組んだソルトレイクシティオリンピックのアスリートウエアの部屋へ。当時このウエアを取材したので、2002年にデサントの展示で見たことがある。
デサントからの依頼に、まず石岡はアスリートとのコミュニケーションを望みカルガリーにルメイ・ドーン(スピードスケーター)を訪ね、選手の心理と勝敗への作用、ウエアに求めることを把握したという。

「装苑」2002年5月号 EIKO ISHIOKA AND THE ATHLETE  写真:筆者提供

初期に石岡が提示した膨大な数のアイディアの中から、デサントの開発したテクノロジーとの融合がいくつかの伝説的なウエアを生んだ。
祝祭を意味する「ガーラ」は世紀の祭典を祝うための内側が真紅のシルバーコート。ボルテックスを使用したスピードスケートのウエアは筋肉の構造を際立たせた「マッスル」。
そして「コクーン」はアスリートの集中力を高めるため外部と遮断する「繭」のような構造のコートで、内部はマイナスイオンで満たされている。
ジッパーをひらくと赤いハートが現れるのはコーチ用の「オープンハートスーツ」。
石岡は「競技場は劇場よ」と言ったと言う。

ソルトレイクシティオリンピック展示風景 写真:筆者提供
写真左)並んだ2002年ソルトレイクシティオリンピックのウエア。左から「コクーン」コート。アルペンスキー用上下の「バブルスーツ」。スピードスケート用のウエア「マッスル」。コーチ用スーツ「オープンハートスーツ」。手前がスイスチームの銀色のコート「ガーラ」。入場行進時には全員統一した着こなしを指示した石岡だが、実際には選手団は個々に思い思いの着こなしをした。衣装が一瞬にして着る人間のアイデンティティや個性を表現して輝くことに石岡は感動したそうだ。 写真:筆者提供

私は「ニーベルングの指環」の部屋が、この全14室にも及ぶ展示室の中で最高峰のように感じた。
ピエール・オーディ演出のネーデルラント・オペラ「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」の4部による構成で、全て通して観ると15時間にも及ぶワーグナーの代表作だ。

石岡瑛子 オペラ『ニーベルングの指環』(リヒャルト・ワーグナー作、ピエール・アウディ演出、オランダ
国立オペラ、1998-1999年)衣装デザイン ©ruthwalz

舞台装置はゲオルギー・ツィーピン、照明はヴォルフガング・ゲッベル、そして我らが石岡瑛子が衣装を担当。この「圧」はどうだ。
4つの島は4章を表し、神々を頂点とするヒエラルキーはその高さで表現したと会場デザインを担った阿部真理子は言う。

入り口にあったまるで映画のエンディング・ロールのようなスタッフ名を再び確かめに行った。
企画・構成、会場デザイン、衣装の展示、映像も音響も照明も、展覧会に関わった人々の力の結集の凄さを思う。
まるで石岡瑛子が追求した“いまだ見たこともないもの”を可視化しようとした途方もない熱量が、すべてのスタッフに乗り移ったのではないかと思えた。

「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」展示風景、東京都現代美術館、2020 年 Photo: Kenji Morita

最後の部屋には石岡が学生時代につくった「ECO’S LIFE STORY」(えこの一代記)という絵本が展示されていた。
まるでメアリー・ブレアのようなカラフルな切り絵で誕生から大学時代までのエピソードを綴り、最後に自分でデザインした世界9カ国の切手を配して「いつの日か外国に旅立つことが夢」と記している。

<えこの一代記>1957年頃 写真:筆者提供

この絵本を見ていて、ある子どものための本と、’70年代の終わりに石岡瑛子もブックデザインで関わった1000人を超える20世紀を生きた女性たちを編んだ本を思い出した。
『21世紀を孕む女のカタログ スーパーレディ1009 上下巻』(木幡和枝+松本淑子 編集 工作舎刊 1977〜1978)。

上巻は“阿部定からスーザン・ソンタグまで”、下巻は“ローザ・ルクセンブルグから山口小夜子まで”がキャッチコピー。
100人以上の女性執筆者と女性スタッフがつくった本で、もちろん石岡瑛子も石井好子と石垣綾子に挟まれて上巻に載っている。石岡を分析して書いたのは芸術評論家の木幡和枝。

「自分をむき出しにして広告作ってるんじゃないかと思うんだけど、ようするに、まつりあげられて孤立しちゃったアートと、私たちの手あかで汚されてしまったコマーシャルを、美意識に支えられた主張で出逢わせた、アッパレ快挙だと思うわ」

この後、’80年代からNYに拠点を移した石岡瑛子、その後も“アッパレな快挙”は快進撃を続けていたのだ。

石岡瑛子 1983年 Photo by Robert Mapplethorpe
©Robert Mapplethorpe Foundation. Used by permission.

この本の子どもバージョンとも言えるのが『世界を変えた100人の女の子の物語』で、原題は『Good Night Stories for REBEL GIRLS 100 TALES of EXTRAORDINARY WOMEN』。

自分の力を信じて道をきりひらいた100人の女の子のお話が見開きごとに一人、斬新なイラストレーションと共に紹介されている。大統領も科学者もスーパーモデルも芸術家もいる。
英語版はアルファベット順に並んでいて、数学者エイダ・ラブレースから建築家ザハ・ハディットまでを網羅。現存する日本人はオノ・ヨーコが掲載されている。

2016年にクラウド・ファウンディングによって刊行されたこの本の最初のぺージには
 「世界中のおてんばな女の子たち(Rebel Girls)に
 大きな夢をもち
 高いところをめざして
 がんばろう」
とあった。

石岡瑛子のこの展覧会は、この本と同様に女の子に勇気と力を与えると思う。


<関連情報>

□展覧会 「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」
会場:東京都現代美術館(MOT) 住所:東京都江東区三好4丁目1−1
会期:2020年11月14日(土)~2021年2月14日(日)
開館時間:10:00~18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(11月23日、2021年1月11日は閉館)、11月24日、12月28日~2021年1月1日、1月12日
観覧料:一般1800円、大学生・専門学校生・65歳以上1300円、中高生700円、小学生以下無料 http://www.mot-art-museum.jp

□『ドラキュラ」/フランシス・コッポラ監督
https://www.sonypictures.jp/he/1097
https://www.youtube.com/watch?v=_smVQFEMops

□『Mishima』/ポール・シュレイダー監督
https://www.amazon.co.jp/Mishima-Life-Chapters-Criterion-Collection/dp/B07K138X6H

□オペラ『ニーベルングの指環』
Götterdämmerung – Trailer De Nederlandse Opera0: Stage Director: Pierre Audi Stage Designer: George Tsypin Costume Designer: Eiko Ishioka
https://www.youtube.com/watch?v=n7yyp3gDiNQ

□『Der Ring Des Nibelungen/DVD』
https://www.amazon.co.jp/Ring-Nibelungen-DVD-Netherlands-Opera/dp/B009RXGBPE

□ターセム・シン「落下の王国」
映画『落下の王国』(2006)が、2020年12月8日の1時59分から日本テレビ「映画天国」(関東ローカル、月曜深夜)で放送される。
https://tsutaya.tsite.jp/item/movie/PTA000085JVJ

□ターセム・シン「ザ・セル」
https://www.dnpfcp.jp/CGI/gallery/schedule/detail.cgi?l=1&t=1&seq=00000761

□ギンザ・グラフィック・ギャラリー第381回企画展 「SURVIVE – EIKO ISHIOKA 石岡瑛子 グラフィックデザインはサバイブできるか」
会場:ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg) 住所:東京都中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル1F・B1F
会期:前期 2020年12月4日〜2021年1月23日(広告・キャンペーン)、後期 2月3日〜3月19日(グラフィック・アート)
開館時間:11:00〜19:00
休館日:日、祝、2020年12月28日〜2021年1月5日(冬期休館)
料金:無料
https://www.dnpfcp.jp/gallery/ggg/

□『世界を変えた100人の女の子の物語』
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309279312/


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2020/12/03

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