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ホンマタカシ 東京と私 TOKYO AND ME (intimate)

Vol.27 仁村紗和(俳優)
PLACE/中野寄りの高円寺(杉並区)

写真:ホンマタカシ 文:加藤孝司 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)

仁村紗和さん
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仁村紗和さん

Sounds of Tokyo 27. (Nakano Four Seasons Forest Park)


大阪の枚方市出身です。
高校卒業後19歳の時に上京したので、東京での生活も今年で9年目になります。

子どもの頃、ときどき家族で東京旅行をしていました。
父が運転する車で6時間くらいかけて東京に。首都高に入った瞬間に父が「紗和ちゃん、ここがトキオやで~」とか言いながらカーステレオで東京っぽい音楽をかける、というのがいつものパターンでした(笑)。

もともと東京に対して憧れの感情はなくて、“自分のやりたいことが実現できる場所”という印象を持っていました。
上京して最初に住んだのは、明大前の甲州街道沿い。大阪の実家は色々なルールがある家だったから「これからは何でも自分で決められるんだ!」と、わくわくしたのを覚えています。

でも最初はなかなか新しい友達ができず、淋しい思いをしていました。
そんな時、仕事でご一緒した方に、とある“ごはん会”に誘われたことがきっかけで出会ったのが、中野寄りの高円寺にあるシェアハウス「つばきハウス」の住民の方々です。

昭和初期に建てられた小さな庭に面した縁側がある古民家で、1階と2階を合わせて10世帯くらいだったと思います。
当時の自分にとっては、まず“シェアハウス”というもの自体に興味津々でしたね。つばきハウスは建築物としても貴重というか珍しいものだったようで、住民の多くは建築や映像関係などの仕事をしている方たちでした。

プロジェクターのある15畳の和室が1階にあってそこが皆の居場所だったのですが、とにかく居心地が良くて、仕事が終わったら明大前の自宅へ向かうより先につばきハウスに帰っていたくらい。
ほぼ毎日、と言っていいくらい入り浸っていましたね。部外者の私が住民のみんなが帰ってくるのを「お帰り!」と迎えていたという(笑)。
自分には一人暮らしが向いていると思っていたけれど、どこかで人の温かみを求めていたのかな。誰かがそばにいるのが心地良かったのかもしれません。

つばきハウスから歩いて行ける距離にある高円寺の商店街は学生時代によく遊んでいた地元の商店街の雰囲気に似ていて、街自体もすごく居心地が良くて好きでした。
学生時代から古着が大好きで、つばきハウスの住人の方に教えてもらった古着屋さんには暇があったら遊びに行っていましたね。
中でも、駅前にある「深緑」という店にはよく通っていました。店長さんが話好きな方で、行く度にパワーを頂いて。中野駅前にある「中野セントラルパーク」前にある芝生の公園も、みんなとフリスビーをして遊んだ思い出がある好きな場所のひとつです。

当時住んでいた友人たちが引っ越してしまってからは足を運ぶことが無くなってしまいましたが、つばきハウスに通った19歳からの約2年間は、私にとってとても大切な時間でした。

嵐が過ぎ去った翌日、中野駅近くにあるJR線の陸橋の上からみんなと一緒に見た嘘みたいに綺麗な空は、今でもよく覚えている光景です。
学生時代にも友人たちとの一体感に幸せを感じることは幾度となくありましたが、大人になってから出会った人たちと自分の感性をもって何かを共有した体験は、みんなと離ればなれになった今も大切な思い出として自分の中に残っています。

今思えば、当時の私は何でも吸収する“スポンジ”のようだったなと思います。
確たる自分というものがわからないのはもちろん、自分が好きなものは何なのか? それすらもあやふやでした。

でもみんなと色々話しているうちに自分自身の新しい一面がどんどん浮かび上がってきて、だんだん「私」という人間の輪郭がくっきりとしてきた感覚があって。
つばきハウスは、“私ができた場所”と言えるのかもしれません。

役者は、“自分ではない人”になる仕事。「世の中にはいろんな人がいる」ということを知らなければ、演じ続けることは難しいと思うんです。
東京で生活する中で時々「こういう人を演じてみたい」とか思える面白い人たちと出会うこともあって、その度にこの街での暮らしは自分がしたいこと、つまり演じる仕事に直結しているんだなぁと実感しています。

上京当初、東京の人はみんな忙しそうで大阪の人と比べるとなんだか冷たく感じたりして、人との距離のとり方が難しいと思っていました。
でも今となっては、その“距離”があることで肩肘張らずに自分をキープすることができて、逆にいい感じです。
今は愛犬の“とろろ”と暮らしているのですが、散歩コースの途中にある公園でよく顔を合わせる犬仲間の方たちは、お互い名前は知らないけどみんな優しくて。
“とろろちゃんママ”としての日常も、楽しんでいます。

そういえば最近、運転免許を取得したばかりなんです。
シェアカーを借りてドライブをするのも楽しみだし、移動手段が一つ増えたことで自分と東京の距離感もまた変わっていきそうな、そんな気がしています。


仁村紗和 Sawa Nimura

俳優。1994年大阪府枚方市出身。今年の夏、放送がスタートするNHK夜ドラ「あなたのブツが、ここに」で連続ドラマ初主演を務める。

Instagram: @sawa_nimura

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2022/05/31

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