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ホンマタカシ 東京と私 TOKYO AND ME (intimate)

Vol.23 加瀬亮(俳優)
PLACE/東松原(世田谷区)

写真:ホンマタカシ 文:加藤孝司 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)

加瀬さん
東松原の風景
東松原の風景
東松原の風景
東松原の風景
東松原の風景
東松原の風景
東松原の風景
東松原の風景
東松原の風景
東松原の風景
東松原の風景

Sounds of Tokyo 23.(Hanegi Park in December 2021)


実家を出て一人暮らしをはじめた時、最初に住んだのは川崎側の多摩川沿いの町でした。
その後東京に出て世田谷区内を転々としてきましたが、今までで一番長く住んだのが東松原です。もう10年以上前のことですが。

それまで住んでいたのが賑やかな町だったので次は静かなところがいいなと思って探していたところ、友人から「この辺りは他の町よりも夜が暗いから、都心のわりには星がよく見える」という話を聞きました。

実際に歩いてみたら確かにすごく静かで暮らしやすそうだと思いましたし、基本的に大きな店が無くて小さな商店が軒を連ねる商店街がある感じも、親しみが持てそうで好きになりました。

道なども入り組んでいるというか、車がすれ違えないほど狭い一方通行が多いんです。
ある時、タクシーに乗って行き先を“東松原”と伝えたら、運転手さんの反応が「困ったなぁ」という感じで思わず「どうしたんですか?」と尋ねたことがありました。
そうしたら、東松原の辺りはタクシー仲間の間では「陸の孤島」と言われていて、細く入り組んだ道が多くて一度入ったら抜け出しにくいから、積極的にこの地域には入りたがらないドライバーが多いんだよ、と教えてくれて。それを聞いた時、「それはいいな」と思ったのを憶えています。

自分にとって、東松原は夜のイメージがとても強いんです。
当時、役者仲間が暮らしていた明大前まで裏道を散歩しながら通ったり、お互いの家の中間にあった「松原公園」に集合して、近くのコンビニでコーヒーを買って深夜まで話し込んだり。
また近所の役者の先輩に誘われて、ただひたすら夜道を散歩して、他人の家を見ながら「こういうところに住みたい」とか色々話していました。

越してきた当時はちょうどテレビドラマなんかもやりはじめた忙しい時期だったのですが、現場はどちらかといえば職人気質で目まぐるしいので、役者同士でゆっくり本音を話すことって意外と出来なかったりするんですね。だから今考えると、公園で過ごしたりした何気ないひと時やそこで交わした会話が自分にとってすごく貴重だった気がします。

他の町に越してからも時々ここを訪れるのですが、好きだったうどん屋さんが閉店したり、通っていた喫茶店がリニューアルしたり、友達が住んでいた家が今は取り壊されていたり……変わった部分は色々あります。でもその一方で今でも健在の店もあるので、近くに来たら寄ったりしていますね。離れた今も変わらず、馴染みのある町という感じです。
ここに住んでいた時はとにかくよく歩いていたので、今でもどこに何があるのか記憶しているんです。あとにも先にも、どの通りの角に何の花が咲いているかまで細かく把握している町は東松原だけかもしれません。

自分にとっての「東京」ですか? 
そうですね。そう言っていいと思います。
東京で暮らすようになって、はじめて落ち着いて暮らせた場所だと思います。これから先もずっと自分が東京にいるのか分かりませんが、小さい頃から色々な場所を移り住んできたから、そういうことは特に決めこまないでその時々の流れにまかせていきたいなと思います。


加瀬亮 Ryo Kase

1974年、神奈川県生まれ。生後まもなく渡米し7歳までアメリカ合衆国のワシントン州で過ごす。2000年にスクリーンデビュー。2004年公開の『アンテナ』(熊切和嘉監督) で映画初主演を果たして以降、周防正行監督『それでもボクはやってない』、クリント・イーストウッド監督『硫黄島からの手紙』、北野武監督『アウトレイジ』、アッバス・キアロスタミ監督『ライク・サムワン・イン・ラブ』、ホン・サンス監督『自由が丘で』、森崎東監督『ペコロスの母に会いに行く』、山田太一脚本『ありふれた奇跡』、堤幸彦監督『SPEC』シリーズなど映画を中心にテレビドラマ、CM、舞台等、メジャー、インディペンデントを問わず、国内外の作品に出演。主な受賞に第31回日本アカデミー賞優秀主演男優賞、第50回ブルーリボン賞、第32回報知映画賞、第14回アジア・フィルム・アワード最優秀助演男優賞がある。
http://ryokaseoffice.com/

東松原の風景

東京と私


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2022/01/31

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