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ホンマタカシ 東京と私 TOKYO AND ME (intimate)

Vol.17 塩塚モエカ(ミュージシャン)
PLACE/裏原宿(渋谷区)

写真:ホンマタカシ 文:加藤孝司 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)

塩塚モエカさん
塩塚モエカさん
原宿の風景
原宿の風景
原宿の風景
原宿の風景
原宿の風景
原宿の風景
塩塚モエカさん
原宿の風景
原宿の風景

Sounds of Tokyo 17.(Takeshita Street)


幼稚園の年長で東京に引っ越してくるまでは、親の仕事の関係で茨城と仙台で過ごしました。

目立つことをするのが好きで、幼稚園では「劇の主役をやりたい」とひたすら思い続けていたり、通っていたバレエ教室ではいつも“うるさい”と言われていたような子どもでした。

誰しも小さな頃にケーキ屋さんやお花屋さんになりたいといった夢を持っていたと思うのですが、私にとってのそれは「歌手」でした。
とにかく歌って踊ることに憧れていて、10歳の時に行われた2分の1成人式のアンケートに「私は歌手になる」と書いたことを覚えています。

都心にある中高一貫校に、片道1時間以上かけて通っていました。遠かったしつまらなかったから学校が嫌になっちゃって、中学の時は携帯電話や雑誌ばかり見ていました。
そんな時、裏原宿でクラブを借りてファッションショーのようなことをしている高校生の集団がいることを知りました。当時から洋服が好きだったこともあって、中3でバンドをはじめるまでの間は、高校生たちに混じって裏原でずっと遊んでいました。

その頃の集合場所はラフォーレ原宿の交差点そば、表参道に面したローソンの前でした。
私たちはそこを「ロー前」と呼んでいて、ロー前に集合してプリクラを撮りに行って、代々木公園でウォーキングの練習をしたり……ものすごく楽しかったですね。

当時よく行っていたお店は、古着屋さんだと「KINSELLA」や「OTOE」、それと雑誌『Zipper』のモデルさんたちも働いていた「NADIA」、「6%DOKI DOKI」。
ゴスロリやロリータに憧れていた時は、竹下通りの「BODY LINE」という店で派手なピンクのウィッグを買ってつけていました。
はじめてピアスの穴を開けたのも原宿で、ふわふわのパニエを履いて紫のスカジャンを着たり、とにかく派手な恰好をしていましたね。
当時一緒に遊んでいた子たちは、その後美容師やデザイナーになったり。しょっちゅう会うというわけではないけど、ライブを観に来てくれたりして今も繋がっている子もいます。

私が通っていた学校はいわゆる進学校で、将来はいい大学に通っていい就職をすることを目標にしていた子も多かったと思います。でも裏原にいる子たちは「将来よりも今」という感じで……。
そういうタイプの子は学校にはいなかったから面白くって。学校よりも裏原で、今に続く沢山のことを学んだ気がします。

裏原という街には、いろんな“色”があると思います。
モヒカンの長さでギネス記録を持っている人、信じられないくらい派手な服を着ている人。学校と家の往復だけでは絶対に出会うことができない人たちと繋がることができました。
学校生活に行き詰まっていたし、もし学校と家を往復するだけの毎日だったら、たぶん心が病んでいたんじゃないかな。あの頃に感じたアンダーグラウンドな空気感は今の自分に確実に影響していて、裏原で過ごした時間があるからこそ私は今もハッピーに生きていられるんだ、と思っています。

一人暮らしをするようになってからは、次に暮らす街を考えるという意味もあって、いろんな街を見るのが趣味の一つになりました。

東京って、「小さな遊園地」みたいで面白い。
街から街へ、少し移動するだけで全然違う世界が広がりますよね。
自分の地元では見たこともない派手な恰好をした人たちが闊歩する裏原は、まるで大きなステージのように感じていたし、大学卒業後、短期間通勤していた新橋の駅前に建ち並ぶ雑居ビルにもわくわくしました。
サラリーマンが一人で美味しいご飯を食べられる小さな店が、ギュッと詰まっている感じが面白くて。

音楽だけで食べられるようになったのは最近のことだし、もともとの性格もあって「何故、何をしてもこんなに生きづらいんだろう」と思うこともよくあります(笑)。
でも、結局は自分次第だと思えるようになってきたし、少し立ち止まってみたり、日々目の前のことに感謝をする心の余裕もできてきました。

「流れに身を任せてみる」というシンプルなことが、今までできていなかったなぁと。
何かと不自由な時代ではあるけれど、普通にクラブに行ったり友だちと飲み会をすることができていたら、こういうことは考えなかったかもしれません。こんな時だからこそ自分と向き合うことができるようになったのかな、と思います。


塩塚モエカ Moeka Shiotsuka

1996年生まれ。羊文学のギター&ボーカル。全楽曲の作詞・作曲を務める。2020年8日19日にF.C.L.S.より『砂漠のきみへ/Girls』を配信しメジャーデビュー。12月にNEWアルバム『POWERS』をリリース。リリースワンマンTour 2021”Hidden Place”を3/14online公演を皮切りに、9/3@大阪CLUB QUATTRO、9/10@名古屋BOTTOM LINE、9/24@東京USEN STUDIO COASTにて開催予定。並行してソロでの音楽活動、映画・ドラマ音楽、CM歌唱、そしてファッション・カルチャーシーンと、活動の枠を拡げている。
HP:https://www.hitsujibungaku.info/
Instagram:@hitsujibungaku @hiz_s

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2021/05/31

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