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つくる人 私たちの暮らしを豊かにする「もの」を生み出す「つくる人」とのトークセッション。

Vol.9 藁谷真生(HAU デザイナー)
閃きは日常の景色の中にある

「大人のための日常着」をテーマとしたアパレルブランド「HAU(ハウ)」。
いまの自分にとって必要なものをしっかりと見据え、
生活者としての視点を洋服に落とし込む。
家を、仕事を、家族を愛するひとりの女性の
強くしなやかな、ものづくりの話。

写真:HAL KUZUYA 文・編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)

アパレルブランド「HAU(ハウ)」デザイナー 藁谷真生の自宅風景
アパレルブランド「HAU(ハウ)」デザイナー 藁谷真生の自宅風景
アパレルブランド「HAU(ハウ)」デザイナー 藁谷真生の自宅風景

Profile
藁谷真生(わらがい・まお)
デザイナー。1980年、東京生まれ。エスモード・ジャポンを卒業後、アパレルメーカーにて約8年にわたり数ブランドのデザインを担当。2011年、自身のブランド「BLANKET(ブランケット)」を設立。2019年より、CLASKA発のアパレルブランド「HAU(ハウ)」のデザイナーを務める。コンセプトは「大人のための日常着」。「HAU」は、ポリネシア諸語のひとつであるマオリ語で、「風、呼吸、生命力」などを意味する言葉。
Instagram @hau_clothes

あなたには“生きる力”がある

藁谷さんがデザイナーを務めるブランド「HAU」が2019年にスタートしてから1年半が経ちました。始動してすぐのタイミングで、ブランド設立にあたっての想いをインタビューさせて頂きましたね。

藁谷:
そうでしたね。なんだかあっという間の1年半でした。

改めて、「つくる人」としての藁谷さんについて色々とお伺い出来たらと思っています。今回はご自宅にお邪魔させて頂きましたが、とても気持ちのいい空間ですね。

藁谷:
私自身もとても気に入っています。東京生まれ東京育ちで、4年前に越してくるまではずっと都心で暮らしていました。ここは“静けさ”が桁違いなんですよ。車が走る音も聞こえないし、早朝には鳥の鳴き声が嘘みたいに綺麗に聞こえたり……。私は主に家で仕事をするのですが、暮らす場所としてはもちろん仕事をする場所としても最高の環境ですね。
アパレルブランド「HAU(ハウ)」デザイナー 藁谷真生の自宅風景

藁谷さんは企業デザイナーとして活躍されたのちに独立されて、その後「BLANKET」そして2019年にスタートした「HAU」と長らく洋服づくりに携わっていらっしゃいますが、将来の仕事として洋服を意識したのはいつ頃からだったのでしょうか。

藁谷:
高校生の後半からですね。もともと、小学生の頃から手を動かして何かをつくることが大好きでした。3年生で手芸部に入って、6年生の時は図工クラブで部長を(笑)。お小遣いでフェルトを買うような子どもでした。小学校半ばを過ぎたくらいから「将来、美術関係やものづくりに携わる仕事ができたらいいな」と漠然と考えるようになって、美術大の付属中学を受験しました。

それはご自分の意思で?

藁谷:
両親も私がつくることが好きだと理解してくれてくれたので、相談したんです。「だったらこういう学校があるよ」とアドバイスしてくれて。結局、第一志望の学校には行けなかったのですが、高校から美術専攻がある別の中学校へ進学しました。

当然、美術大学を目指す流れになりますね。

藁谷:
そうだったんですけど、だんだん洋服への興味が強くなってきて。もともと洋服は趣味のひとつとして好きだったんですけど、ある時に「このまま美大に進めたとして、その後どういう仕事ができるんだろう?」という疑問がふと沸いてきたんです。受験に向けて美大専門の予備校にも通っていたんですけど、私より上手な人はたくさんいるし、このフィールドでは勝てないなって。「仕事」という視点で考えた時、洋服の方が具体的なイメージが湧いたということもあり、急遽進路を服飾専門学校に切り替えたんです。高3の秋に。

ご両親の反応はどうでしたか?

藁谷:
それがですね、親が何も反対しなかったんです。数年前に母から聞いたんですけど、当時私が相談をした時に「真生は、卒業した大学の名前とか学歴に頼らなくても生きていけると思う」って言ってくれたらしいんですね。

うわぁ、すごく嬉しい言葉。信頼してくれていたんですね。

藁谷:
ね、嬉しいじゃないですか。でも覚えてなかったんですよ、私。母に言われて、「あ、そうだったんだ!」って(笑)。
アパレルブランド「HAU(ハウ)」デザイナー 藁谷真生の自宅風景

気持ちよく、対等なものづくり

服飾専門学校卒業後は、そのままアパレル会社に就職したんですか?

藁谷:
いえ、就職試験に全然受からなくて少しだけフリーター期間がありました。思えば人生ではじめての挫折だったかもしれません。卒業してから半年過ぎたくらいに、何度か作品を送っていたアパレル会社に中途入社しました。
アパレルブランド「HAU(ハウ)」デザイナー 藁谷真生の自宅風景

以前のインタビューで、会社員生活はとてもハードだったとおっしゃっていましたね。

藁谷:
いやぁ、本当に大変でした。いわゆる“モーレツ社員”で、今振り返るとかなり仕事に身を捧げていたなって思います。とても風通しのいい会社で、上司とも対等に会話ができる雰囲気の職場環境で……だからこそ、熱くぶつかってしまったりして。

会社には何年在籍されたんですか?

藁谷:
通算でいうと8年ですね。入社4年目に結婚を機に一度辞めたんですけど復職したんです。その後4年務めて、一人目の娘を出産するタイミングで退職しました。

出産後、しばらく休んで職場復帰するという選択肢もあったんですか?

藁谷:
ゼロではありませんでした。でも娘を産んで思ったのは「自分がストレスを感じていると、子どもに優しくできないだろうな」ということでした。きっとお母さんが機嫌良いのが家庭にとっては一番だな、と。そう思ったら、スパッと辞められたんです。

私自身も、出産後に産休・育休を経て職場復帰をしましたが、そのことにうっすら気が付いたのは復帰してから2年後くらいでした(笑)。

藁谷:
ふふふ(笑)。でも会社を辞めた理由はそれだけではないです。ちょうどその頃は、リーマンショックだったりファストファッションの流行だったり、アパレル業界を取り巻く環境が激変した時期でもありました。そういう状況の中で、会社が目指すものづくりの方向性と自分の想いが違ってきてしまったことも理由のひとつです。いずれは独立したいという気持ちも、ぼんやりとですがありましたし……。

いろいろなタイミングが重なったのですね。

藁谷:
そうですね。あくまで子育てに軸を置きながら、自分で納得するかたちで小さな規模でいいから服づくりを続けよう、と。こういう思いが原動力になって、娘が1歳を迎えた頃に「BLANKET」をスタートしました。

その“自分が納得するかたち”というのは、具体的にどういうものですか?

藁谷:
一言でいうと、「関わってくれる皆が幸せになるものづくり」ということですね。服づくりはひとりでは出来ません。パタンナーさんや工場など、サポートしてくださる方々にしかるべき対価をお支払いして、自分も含めて関わってくださる皆が良い気分でかつ対等な気持ちで働けるように。これは、自分でブランドをはじめるにあたって一番大切にしたことでした。
アパレルブランド「HAU(ハウ)」デザイナー 藁谷真生の自宅風景

小柄な人のため、にこだわる理由

BLANKETをはじめてから数年して、第二子を妊娠・出産されましたね。それまでとは、だいぶ生活のペースも変わったのではないでしょうか。

藁谷:
そうですね。やはりそれまでのペースでものづくりを続けることがむずかしくなってしまい、一旦ブランドをお休みすることになりました。

もともとCLASKA Gallery & Shop “DO”ではBLANKETの商品を扱わせていただいていましたが、ブランド休止後もDOディレクターの大熊健郎と「またいつか、何か一緒にできたら」というやり取りをされていたそうですね。

藁谷:
はい。今思えば、ご挨拶の一つにそういった言葉があったのだと思うのですが……。その後ご縁があって具体的な動きをはじめたのは、2人目の娘が1歳を過ぎた頃です。デザイナーとして入らせていただき準備を進め、2019年にCLASKA発のアパレルブランドとしてHAUがスタートしました。

ブランドとしては3シーズンめに入りましたが、気持ち的に変わってきた部分はありますか?

藁谷:
「大人のための日常着」というコンセプトに変わりはありません。もともと、ファッション性ばかりを重視するのではなく、着心地やケアのしやすさといった“日常目線”を大切にしたブランドでありたいという思いがありましたが、よりその思いに磨きがかかってきた気がしますね。

HAUをはじめた頃、藁谷さんは“ファッション過渡期”の真っただ中にいるとおっしゃっていましたね。30代後半から40代にかけてライフスタイルや自身の体形などが変化していく中で、それまで好きで似合うと思っていた服が急にしっくりこなくなった、と。

藁谷:
私がそうであったように、30代半ばを過ぎて「この先、どういう服を着たらいいのかな」と戸惑っている方って結構多いと思うんです。自分自身もそういう気持ちを経験したことで、「おしゃれをすることは、これからもずっと楽しいよ」ということをものづくりを通して伝えたいと思いました。デザイナーとしての使命感もあったと思います。
アパレルブランド「HAU(ハウ)」デザイナー 藁谷真生の自宅風景

「着ることでスッと背筋が伸びたり、気持ちが高揚する感覚を味わえる服をつくりたい」ともおっしゃっていました。HAUのファーストコレクションで登場して好評を得たワークパンツは、生活者としての藁谷さんの想いがかたちになった一着でしたね。

藁谷:
BLANKETをお休みしてHAUの準備に入るまでの間は、ひとりの消費者として純粋な気持ちで洋服に対峙することができました。たくさんの洋服を見る中で「いまの自分に“ちょうどいいもの”がないな」「すごく良いけど、ちょっと惜しいな」と思うことが何度かあったんです。そういう気持ちが、HAUを立ち上げる原動力になりました。ワークパンツは、HAUの基本の一本としてこれからもアップデートをしながらつくり続けたいと思っています。

ブランドの特徴のひとつとして、サイズ展開へのこだわりもあげられると思います。基本的にワンサイズ展開で、身長が160cm以下の小柄な方の体型をベースにデザインされていますよね。今後サイズ展開を増やすのかどうかという話になった時に、藁谷さんが「サイズはあえて絞りたい。そういうブランドがあってもいいと思います」とおっしゃったという話を聞いて、なるほど! と思いました。

藁谷:
若い時は多少自分の身体に合っていない洋服も“若さ”で着こなすことが出来たけれど、年齢を重ねてくるとそうはいきません。やはりサイズが合ってないとだらしなく見えてしまうんですよね。ここ数年で“サイズ感”の重要さを実感する機会が増えたことと、私自身、小柄ゆえの洋服選びの苦労に心当たりもあったので、「だったら、あえて小柄な方へ向けたブランドにしようかな」と思ったんです。

なるほど。

藁谷:
サイズ展開を絞ることもデザインのひとつ。でも、そこに頑なになるつもりもなくて、定番のパンツや小さめなつくりのトップスは2サイズ展開にするとか、少しずつ実験的なトライはしています。あくまで「小柄な人のためのブランド」という軸に変わりはないのですが。
アパレルブランド「HAU(ハウ)」デザイナー 藁谷真生

つくるものに責任を持つ

アパレル会社を退職される時に、家族中心の生活をしていこうと思ったとお話されていましたが、やはり藁谷さんの人生において「家」あるいは「家族」は、大切なキーワードなのでしょうか。

藁谷:
そうですね。叔母や祖父が建築関係の仕事をしていたこともあって、昔から家には恵まれていたというか、小さな頃から“家で過ごす時間を楽しむ”術を無意識のうちに身に着けていた気がします。

日々の暮らしの中に、ものづくりの閃きを見出すことも多いのでしょうか。

藁谷:
そう……ですね。自宅をベースに仕事をしていると、心と身体がリラックスしている分発想が研ぎ澄まされるというか、いいアイデアが浮かぶ気がします。働いているお母さん皆がそうじゃないと思いますし職種にもよるかもしれないけれど、自分には家を中心とした働き方が合っているみたいです。
アパレルブランド「HAU(ハウ)」デザイナー 藁谷真生の自宅風景
私がデザインする服は、いままで自分が見てきた色々な風景や体験してきたこと、「こういうものが欲しいな」というイメージがかたちを変えたものなんですね。だから自分としてもすごく自然な作業なんです。デザインをひねり出すのではなくて、生活者としての自分が必要としているものをつくっている感覚なので……。HAUに関しては、それがより色濃い気がします。

生活との距離が近い服ということでいうと、コロナ禍における自粛生活を経て、“もの”と自分の関係性を見つめなおしている方も多いと思います。「新しいから買う」とか「新作だから素敵」といったことにピンとこない人が、今後ますます増えていくのではないかと。

藁谷:
わかります。かといって古いものが最高! ということでもなくてね。

洋服に関していえば「自分の手元にあるものを大切に着ていこう」あるいは、そういう気持ちにさせてくれる服を選んでいきたいなという気分です。

藁谷:
私もこの春は巣ごもり生活で、外におしゃれして出かけることがほとんどありませんでした。改めて実感したのは、“洋服って、気持ちを切り替えてくれる道具なんだなぁ”ということ。メイクとかも似たところがあると思うんですけど、好きな服を着ると気持ちが明るくなるじゃないですか。心が満たされるというか。

個人的には、洋服というものがより“自分自身”に近いものになった気がしています。洋服には少なからず“或る自分を演出するための道具”という側面もあると思うのですが、自分が着ていて無理のないもの、自分の肌が気持ちいいと思えるものを選びたいという思いが強くなりました。

藁谷:
そうそう、私も先日友人とそういう話をしたところです。買うもの一つひとつに対して責任をもつというか、色々考えるようになりますよね。買い手としての自分がそうなのであれば、つくり手としての自分も当然、ものをつくるということに対して責任を持って向き合うべきなわけで。本当にいるもの、いらないものを見きわめて、責任を持ってかたちにしていけたらと思います。
アパレルブランド「HAU(ハウ)」デザイナー 藁谷真生の自宅風景

“売れるもの”に頼らない

6月下旬に、横浜駅の「ニュウマン横浜」に「HAU&SUNDRY」がオープンしました。ブランドがスタートしてから2年目、もともと「ゆくゆくは独立店舗を」をいう構想はあったのでしょうか?

藁谷:
ありましたけど、まさかこんなにすぐだとは思いませんでした。最初は、気持ちが追いつかなかったのが正直なところです(笑)。

お店では、HAUの洋服以外の生活用品も多く並んでいますね。オープンに合わせて、オリジナルのバッグや帽子などもつくられたとか。

藁谷:
はい。HAUをはじめた当初から、いつか洋服以外のものも手掛けられたらいいなと思っていました。店内に並んでいる商品は、洋服と生活雑貨の割合がちょうど半々くらいなんです。最初はもっと洋服メインの構成にする予定だったのですが、生活雑貨や洋服周りの小物などを積極的に置いた方が、HAUの世界観がよりお客さまに伝わるんじゃないかと。

藁谷さんの旦那さまは洋服店を営まれているそうですね。店づくりの先輩でもあると思うのですが、何かアドバイスをもらったりしたのでしょうか?

藁谷:
HAUの店だけに限定した話ではないんですけど、いつもふたりで話していることがあるんです。売れるもの、つまり自分たちにとって“安全なもの”ばかりを店に置いているとつまらないし、やがてお客さんは飽きちゃうから、いかに鮮度を保つかが大切だねって。

なるほど。

藁谷:
常に半歩先のことを提案していかないと、リピーターのお客さまは生み出せないと思います。安心感も必要だし、期待感を演出することも必要。お店に足を運んでいただくたびに、宝探しのようなわくわく感があったらいいなと思い、HAUの洋服を陳列している間に私がセレクトした古着をさりげなく差し込んでみたりしたんです。今はネットでなんでも買える時代ですけど、足を運びたいと思ってもらえる店にしていきたいですね。

“半歩先”って難しいですよね。お客さまが求めることから離れすぎてもいけないし。

藁谷:
そうですね。将来的に、HAUの商品の半分は定番品にしたいと思っています。「急いで買わなくても、いつも変わらずそこにある」といった安心感とわくわく感のバランスをうまくとっていけたら。HAUで一番アイテム数が多いのはカットソーなんですけど、カットソーに代表されるようなシンプルな定番品と、少しつくりこんだアイテムと、メリハリをつけながらつくっていきたいですね。
アパレルブランド「HAU(ハウ)」デザイナー 藁谷真生の自宅風景

最初のコレクションで登場した「Plainシリーズ」にはじまり、毎シーズンアップデートを続けている「dailyシリーズ」、生地にニュアンスがある「flannelシリーズ」、「gauzeシリーズ」など、たしかにカットソー類がとても充実していますよね。

藁谷:
シーズンごとに着々と増えていますね(笑)。カットソーって何年も着ていると生地がくたっとしてだらしない印象になってしまうじゃないですか。気に入っていただけたら気軽に買い足してもらえるように、上質さをキープしつつも生産コストを抑えることにかなり労力をかけています。カットソーへのこだわりは、私が家で仕事をしているということも関係している気がします。家の中で着ていてらくちんだし、一枚で着こなしが決まるし、おしゃれ着としても機能する。私にとって日常着のベースともいえる存在ですね。

それにしても、洋服づくりと店づくりは使う頭の場所がだいぶ違いますよね。考えることが増えて、大変ではないですか。

藁谷:
確かに考えることは多くなったんですけど、一つひとつがよりシンプルになりました。限りある時間の中でベストを尽くせばそれでいいんじゃない、というスタンスなので。あと……サイズの話もそうですけど、HAUはいわゆるマスに向けたブランドではないので、コンパクトにシンプルに自分の目が届く範囲でやっていけたら、と思っています。

そういった服づくりに関する考え方も、デザイナーとしての藁谷さんらしさを感じるのですが、出来上がったものに“自分自身”を感じることってありますか?

藁谷:
ありますね。フェミニンな仕上げにならないところが自分らしいなって思います。ギャザーたっぷりな可憐な感じとかも好きなんですけど、自分ではつくれないんです。最近発表した「seemシリーズ」は“見えてもいいインナー”をコンセプトにつくったのですが、健康的なイメージなものに仕上がって、ありそうでないものがつくれたなと思っています。
アパレルブランド「HAU(ハウ)」デザイナー 藁谷真生の自宅風景

言われてみればHAUの服は全体的にヘルシーな印象ですよね。女性らしさは感じるけれど、決して甘くない。藁谷さんが「好きだな」とか「欲しいな、魅力的だな」と思っていることが反映されているのだと思いますが、改めてご自身にとっての「いいもの」ってどんなものですか?

藁谷:
デザインと素材と価格、すべてのバランスが取れているもの……でしょうか。価格に関していうと、必ずしも「安い=素材が悪い」というわけではないんですよね。安くてもバランスがいいものもあります。私自身、長く愛用している洋服でまさにそういうものがありますから。リーズナブルだったけれど素材も良くて、自分にサイズもピッタリで。

「高価だからいいものだ」というのも、違いますよね。

藁谷:
そうですね。世間的には「いいもの」とされるものでも、なかなか着る機会が無かったり、フィットしないなと感じるものって、自分とはかけ離れた存在になってしまいますから。

つくることが好き

少し話は戻りますけど、先ほどおっしゃった「限りある時間の中でベストを尽くす」ということについて改めてお聞きしたいと思います。これってできそうでできないというか……特に家で仕事をしていると、仕事とプライベートの境目って曖昧になりそうだな、と。

藁谷:
たしかに、やろうと思えばいくらでもやってしまう環境ではありますよね。でも私の場合はあくまで家族の時間を軸にすると決めているので、夕方以降と土日は基本的に仕事をしないスタンスなんです。
アパレルブランド「HAU(ハウ)」デザイナー 藁谷真生の自宅風景

なるほど。でも人って、求められると頑張ってしまうところがあるじゃないですか。あるいは、自分の仕事に対して「これでよし!」と手放すことが結構難しかったり。

藁谷:
これ以上ブランドの規模が大きくなったら、つくっている途中でエネルギー切れしちゃうかも(笑)。服のデザインをすることが私の主な仕事ですけど、実はそれと同じくらい、HAUに関わってくれている皆が気持ちよく仕事できるようコミュニケーションをとることにエネルギーを使っているんです。

具体的にいうとどのようなことですか?

藁谷:
あるシーズンは膨大な量の仕事を頼んで、次のシーズンはゼロといったようなこちらの都合に合わせた仕事の依頼の仕方ではなく、関わってくださる方々に常に平均的な量の仕事を依頼したいんです。ここでいうコミュニケーションは、心地いい関係を続けていくための諸々の調整、ということになりますね。今は規模を大きくすることよりも、頼れる方たちとの関係性をより深めながらチーム一丸となってつくるものの精度と密度を上げていきたいなと思っています。

何かをお願いする時に、こちらも気持ちよく依頼できて相手も気持ちよく受けてくれる関係づくりって、日々の気遣いが必要ですものね。他者の目には見えにくいものですけど、とても大切な仕事だと思います。

藁谷:
そうですね。そういう部分に頭と時間をつかうことで、“よりいいもの”が生まれるんじゃないかなって思いながら。

お話を伺っていると、藁谷さんってとてもポジティブな取捨選択をされてきていますよね。デザイナーになる夢を叶えて、会社員として仕事をばりばりやって、独立して、妊娠出産を経てひとりの女性としての役割も増えて……。言い方が非常に難しいんですけど、家庭と仕事すべてに同じくらいエネルギーを注ぐのは無理というか、段々とどこかしらに綻びが生じるケースが多いじゃないですか。

藁谷:
そうかもしれませんね。先ほどお話したように“限りある時間の中でベストを尽くす”というスタンスなので、サビが生じる前に無理しないようにしてます。たとえば疲れてやる気が起きない時は夕飯をデリバリーにしたり、土日のどちらかは出かけずに自宅でゆっくり過ごすようにしたりとか。

藁谷さんの場合は家族の時間を軸にすると決めたからこその前向きな“見極めとあきらめ”があって、それゆえにリアル感があって共感を呼ぶ服が生まれるという良い循環が生まれている気がします。手放したものがある分、ものづくりの濃度が上がっているというか。あと……すごく楽しみながら服づくりをされていることが伝わってきて、仕事が好きな方なんだなぁって。

藁谷:
仕事が好き……。あまり大きな声で言えないんですけど、プライベートと仕事だったら圧倒的にプライベートを優先するタイプなので、あまり自分ではその認識がないですね。

そうですか(笑)。藁谷さんご自身も先ほどおっしゃっていましたけど、生活と仕事が無理なく繋がっているからじゃないですか? 

藁谷:
ああ、それはそうかもしれませんね。小学校3年生の時の手芸部にはじまって、大人になったいまも料理をしたり手を動かすことがずっと好きだから……。仕事もその延長線上にあるのかな。

もちろん趣味ではなく仕事ですから、商品のクオリティやモチベーションを保つ努力なども必要になってくると思いますけれど。

藁谷:
それでいうと私、いままで仕事へのモチベーションが無くなったことが無いんですよ。根本に「つくることが好き」という気持ちがあるからかもしれません。やっぱり、仕事が好きなんでしょうね(笑)。
アパレルブランド「HAU(ハウ)」デザイナー 藁谷真生の自宅風景

<HAUの取り扱い店舗>
CLASKA Gallery & Shop "DO" 各店、および全国各地のセレクトショップにて順次展開中。CLASKA ONLINE SHOP でも全ラインナップ展開します。(順次発売予定)

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アパレルブランド「HAU(ハウ)」のブランドイメージ

<HAU & SUNDRY>

HAU & SUNDRY

「HAU & SUNDRY(ハウ&サンドリー)」では、HAU オリジナルの服を中心に、デザイナーの藁谷と CLASKA Gallery & Shop "DO" ディレクターの大熊がセレクトするファッション小物や雑貨、食品なども取り揃えます。

HAU の服作りで大切にしている、手仕事によるさりげないディテールや小さな工夫を感じられるような、つくり手の顔が見える品々。服にとどまらない多彩なラインナップを通して、HAU が思い描く暮らしを体感いただけるような店づくりを行って参ります。

HAU の世界観をぎゅっと詰め込んだ「HAU & SUNDRY」。皆さまのご来店をお待ちしております。

HAU & SUNDRY ニュウマン横浜店
〒220-0005 神奈川県横浜市西区南幸1-1-1 ニュウマン横浜 7F
JR横浜駅 中央北改札または中央南改札からすぐ
Open:10:00~21:00(土日祝日~20:30)
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ニュウマン横浜 https://www.newoman.jp/yokohama-opening/

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2020/07/18

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