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21のバガテル モノを巡るちょっとしたお話

21のバガテル Ⅱ
第10番:Fetish please!
藤城ふじしろ 成貴しげきさんの"knot"

文:大熊健郎(CLASKA Gallery & Shop "DO" ディレクター) 写真:馬場わかな 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)

Profile
大熊健郎 Takeo Okuma
1969年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、イデー、全日空機内誌『翼の王国』の編集者勤務を経て、2007年 CLASKA のリニューアルを手掛ける。同時に CLASKA Gallery & Shop "DO" をプロデュース。ディレクターとしてバイイングから企画運営全般に関わっている。


カゴ
ロープの結び方を研究し試行錯誤を重ねて完成させた ”knot”。これは藤城さんがプレゼントしてくれた初期のプロトタイプ。実際に商品化されたもの(2010年)より太いロープが使われている。2014年にはデンマークのインテリアブランド「HAY」からも商品化された。

 イデーで働いていた頃、店内にブックコーナーをつくり、個人的に興味のある本を並べて販売していたという話を以前書いた。デザインやインテリア、建築関連の本も多かったのでスタッフにとっても資料室代わりに使える場所だったと思う。「インテリアの仕事をしているなら興味を持ってしかるべき」、なんて内心思っていたけど実際利用する人はあまりいなかった。でもただひとり、足繁く通ってくれたスタッフがいた。企画や売り場の人間ではなく、当時同じフロアにあったカフェで働いていたアルバイトスタッフだった。それが藤城成貴さんである。

 「あれ、またバイトさぼってんの?」、「いや今休憩中です」なんて言いながら、ちょくちょく売り場にやってきては建築やデザインの本に熱心に目を通していた。本当に好きなんだなという感じが伝わってきたし、自分がセレクトした本に反応してくれる嬉しさもあり、こっちも仕事そっちのけでおしゃべりに夢中になっていた気がする。その後、藤城さんはカフェからイデーの企画チームに移り、家具のデザインから様々なプロジェクトまで幅広く手掛けるようになった。独立した今は名だたる海外ブランドとも仕事をするプロダクトデザイナーとして活躍している。

 一時は周囲に気持ち悪がられるほど頻繁に藤城さんと会っていた時期がある。当時ひとり暮らしをしていた狭い我が家に来てはデザインやアートの話から、ここではとても書けない話まで大いに語り、笑いあった。まあ独り者の男ふたりがする話といえば……想像にお任せする。ただデザインに関する話になると急に藤城さんの目は真剣になる。最近興味を持っている素材の話、その素材の扱い方についてのアイデアなどをよく話してくれた。その着眼点やアプローチがいつも独創的で、アイデアをかたちにしていく姿勢や集中力を間近で見て「これがデザイナーというものなのか」と感心させられたものである。

 ”knot”は工業用のポリエステル製ロープのみで編み上げられたカゴ。素材の可塑性によって針金細工のようにかたちを変えることができる。一見単純な構造のようにも見えるが、これを一つひとつロープで結び目をつくりながら手作業で編んでいく作業は驚くほど手間がかかる。藤城さん自身が何度も試行錯誤を重ねながら完成させたものの、その編んでいく作業の大変さから製造の受託を引き受けてくれた業者さんとなかなか折り合いがつかず苦労していたのを覚えている。それが今では藤城さんの代表作のひとつにもなった。

 有機的に変形するフォルムとポリエステル製ロープの朱赤の色調が醸し出す曰く言い難い魅力、そのセンシュアルな存在感がなんとも色っぽい。実用性なんてどこかに行ってしまって、それ自体にオブジェそのものとしての強さ、美しさがある。可変性のある彫刻作品、まさにソフトスカルプチュアと言うにふさわしいのではないだろうか。カゴとして使うなんてむしろもったいないと思うのだがいかがだろう。

「可変性のある彫刻」といえばこちらのモビール「FRAMES」も藤城さんの代表作のひとつ。4ミリ角の檜の角材を組んでフレーム構造にしたものをテグスで結んでいる。幾何学的なフレームが空中を浮遊する姿が誌的で美しい。

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2022/02/24

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