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21のバガテル モノを巡るちょっとしたお話

第13番:遊びをせむとや生まれけむ
「Paradise Rodのバンブーフライロッド」

文:大熊健郎(CLASKA Gallery & Shop "DO" ディレクター) 写真:馬場わかな 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)

Profile
大熊健郎 Takeo Okuma
1969年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、イデー、全日空機内誌『翼の王国』の編集者勤務を経て、2007年 CLASKA のリニューアルを手掛ける。同時に CLASKA Gallery & Shop “DO” をプロデュース。ディレクターとしてバイイングから企画運営全般に関わっている。

バンブーロッドは基本六角形。わかり易く言えば鉛筆を長くしたような感じ。竹を六角形に削るのではなく、一本の竹を24分割にしたそれぞれを断面が正三角形になるよう加工し、それを6本貼り合わせてつくる。その他気が遠くなるような行程を経て出来上がる。

 およそキャンプや登山といったアウトドアには縁のない人生を送ってきたが、ひょんなきっかけで数年前からフライフィッシングをはじめた。早起きも苦手、細かな手作業もダメ、さらにただでさえ目がひどく悪い上にここ数年来容赦なく襲い掛かってきた老眼のせいで針に糸を通すのも一苦労。それでも続いているのは一日川で過ごす気持ちよさを知ったから。

 都会にもそれなりに緑はあって自然を感じることはできるけど、やっぱり自然が主役のところは違う。川に行くと、普段自分がいかに平らなところ、つまり人工的に整えられたところしか歩いていないかがよくわかる。つまずいたり、転んだりは毎度のこと。当たり前だが自然は凸凹なのだ。

 川に出かけて、日がな一日竿をふる。川の流れを見つめ、風を感じ、鳥や虫の声、水の音や木々の騒めきを耳にしながら過ごす一日はあっという間に過ぎていく。その時間がなんとも気持ちがいい。自然に触れることもそうだけど、五感を解放する気持ちよさというのかな。もちろん魚が釣れればさらに言うことなし。

 フライフィッシングはフライ=毛針を使って魚を釣る釣り。近頃はだいぶスポーティになっている気はするけれど、元々はイギリスの貴族階級がはじめた娯楽。釣りのスタイルとしてその所作、道具、身に着けるものなど随所に紳士的な雰囲気の名残がある。それもフライの魅力のひとつ。

 はじめたきっかけは今から5,6年前に知人から「バンブーロッドビルダー」なる人を紹介されたこと。フライフィッシング用の竹製の竿をつくる人である。フライロッドに限らず、一般的に釣り竿はグラファイトやグラスファイバーといった軽くて強度のある工業素材のものが主流。それを敢えて竹という自然素材を使って何カ月もかけて手作りでつくるのがバンブーロッドだと教わった。

 見せてもらった竿がとにかく繊細で美しい。工芸品というにふさわしいその姿に一目ぼれしてしまったらもう最後、「これはやるしかない!」と心に決め、ど素人ながらバンブーロッドを手にしてフライを始めることになったというわけである。「縁」を感じたら素直に応じるのが流儀。

 でもはじめたもうひとつの理由は、竿をつくってくれた、今では僕の釣りの師匠でもある人の爽やかで気取りのない人柄に触れたから。今も釣り仲間の少ない僕を心配してか、師匠は釣りに行こうと時々声をかけてくれる。竿をつくってくれただけではなく、なかなか上達しない僕に手取り足取り教えてくれるから本当にいい買い物をしたと思っている。

 フライフィッシャーが最終的に行きつく先、なんて言われることもあるバンブーロッド。でもその道具の美しさとそれをつくる人に惹かれてフライをはじめた、なんていう理由があってもいいではないか。少なくともこの竿のおかげで、僕は子どものように無心になれる遊びを手に入れたのだからね。ああ、また釣りに行きたいな。

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2020/08/21

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