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若者のすべて なんだか、未来が楽しみになる。今を生きる20代の若者たちと、他愛のないおしゃべりを。

第1回:小林一毅(グラフィックデザイナー) IKKI KOBAYASHI(後編)

「OIL MAGAZINE」のロゴをデザインしてくださった小林さん。インタビュー前半では、グラフィックデザインとの出会いから学生時代のエピソード、そして資生堂に入社するまでの話を伺った。インタビュー後半のテーマは「未来」。今思い描くグラフィックデザインの未来、そして小林さん自身の未来とは?

写真:松浦摩耶 文・編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)

前編を読む

白と黒の間に

小林一毅 IKKI KOBAYASHI
1992年滋賀県彦根市生まれ。2015年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。資生堂クリエイティブ本部を経て2019年に独立。東京TDC賞、JAGDA新人賞、日本パッケージデザイン大賞銀賞、Pentawards Silver受賞。Instagram: @kobayashi.ikki


血の通ったグラフィック

資生堂を退社されるまでの1年間は、それまでにも増して積極的に展覧会を開かれたそうですね。手書きでのデザインにこだわるという、いわば“資生堂イズム”は、一つの大きな武器というか特徴になったのではないでしょうか。

小林:
手仕事によるデザインには引き続きこだわっていきたいと思っていますが、同じ手書きでも、最近仕事の進め方が変わってきました。以前は、まず描くものの枠を仕上げて、そこから内側を塗りつぶしていくというレタリングと同様の順番だったのですが、最近は太いペンでざっくりとしたかたちを描いてから、だんだん外側の枠に向けて調整していく、というドローイングのような方法に。この手法は自由な気持ちで描けるので、おおらかな表現には向いていると思っています。
太さの異なるペンを使い、内側から外側へ向けて密度を上げていく作業

中目黒のギャラリー「dessin」で11月4日まで開催されていた展覧会「Between Black & White」は、「面と線」をテーマに構成された作品群とのことで、ギャラリーのHPには小林さん自身の言葉として「白と黒の間に何が見えるか、ぜひご覧ください」という印象的な一文が寄せられていました。確かに改めて作品を見てみると、一見完璧な線対称に見えるデザインにも、絶妙な揺らぎや“間あい”がありますよね。

小林:
線には、その時の自分の状態がそのまま表れる気がします。自信が無い時は決まって震えるし、満たされている時はふくよかな線になる。面白いですよね。

展覧会「Between Black & White」のチラシは、6種類制作した


心地のいいもの

独立後、今年は史上最年少で「JAGDA新人賞」を受賞されて、周りを取り巻く環境もずいぶん変わったのでは? と想像するのですが、「働く」ということに対しての意識は変わりましたか?

小林:
変わりましたね。できたらいいなぁと思っているのは、「そんなに働かない」こと。たとえば、仕事は週4日、週に1日は自分の好きなこと、残り2日はしっかり休む。ちゃんと働くところは働いて、休むときはしっかり休むというのが理想です。自分が進化できる余剰を残したいんです。

フリーランスですから、「自分次第」ですね。

小林:
そうなんですよね。僕もどちらかというと働きたくなっちゃう人だから、気をつけないと(笑)。

「JAGDA新人賞展」は東京、大阪など全国6箇所で行われ、小林さんはその広報物のデザインを担当

それにしても、話を伺っていると学生時代から今まで有言実行の人生すぎて。いわゆる一般的な若者らしい青春もちゃんと送ってきたのか、心配になるレベルなんですが(笑)。

小林:
あはは(笑)。

どことなく、精神面で体育会系な雰囲気も感じさせるのですが、何か運動とかやってたんですか?

小林:
中学生、高校生の時に少林寺拳法を。

少林寺拳法!

小林:
通っていた学校がものすごいスポーツ強豪校で、クラスの半数が全国大会出場選手、っていう環境だったんですよ。それに加えてマンモス校でもあったから、よっぽど勉強ができるかスポーツができるかじゃないと、埋もれてしまう。じゃあスポーツで結果を残そう、と。

学生が部活でやる競技としては、あまりメジャーではないですよね。

小林:
そうですね。部活に入る時に「全国大会に行ける可能性がある部活はどれだろう?」って調べたんです。そうしたら、少林寺拳法は比較的競技人口も少ないし、中高からはじめる人が多いということを知って、これはいけるかも! って。

少林寺拳法を通して得たものって、何ですか?

小林:
自分自身がどういう人間か、ということが分かりました。みんな、自分の動きをビデオに撮って自分自身の良いところ、悪いところ、癖などを研究するんです。そういう中で、自分がどういう風に怠ける傾向にあるか、ということも見えてくるので、それに対する対策を考える。結果、全国大会に出場することができたんです。僕はもともと運動が得意な方じゃないけど、自分の体力や性格に対して適切なプログラムを立てて地道に練習すれば結果が出るということがわかったし、ちゃんと適正を見極めて自分にできることをやれば、それなりにものになるということも分かった。これは大きな収穫でした。

今現在の仕事にも、その経験がいかされていそうですね。

小林:
そうですね。自分の中の“好きなものと得意なものの差を調整する”、という作業は、少林寺拳法で会得した自分自身との向き合い方がそのまま生きていると思います。自分を信じる、ということも含めて。

作品を描いた後に、すかさずこのブラシを使ってさっと机の上を掃除する


未来の自分

今デザインをする上で、大切にしていることはありますか?

小林:
「心地いいか」ということは、すごく意識しています。見た時の印象が気持ちのいいものになっているか、そしてそれは、説明しなくてもそう思ってもらえるものかどうか。たとえば、染色工芸作家の柚木沙弥郎さんの作品や、壁に飾っているこの凧もそう。これは鈴木召平さんという方がつくったものなんですけど、この柔らかく切られた円の自由さが心地いいな、って。

心地よい風が吹いてきそうな、鈴木召平 作による新羅凧

独立されて、デザインを手掛けるものの幅もより広がったと思います。グラフィックが果たす役割は、これからどうなっていくと思いますか?

小林:
役割がどんどん広がっていくことは確かだと思います。広告や出版物といった、従来考えられていたような平面的なグラフィックデザインだけではなく、もっとモーショングラフィックスが幅を利かせることもあると思いますし、インテリア的な機能を果たすグラフィックデザインも今後どんどん発展していって欲しいなと思います。いずれにしても、個人で活躍することが可能な時代を迎えて、グラフィックデザインも枝分かれが進み、今後は専門性がどんどん高まっていくのではないかと思います。

小林さんは、どこを目指すんでしょう?

小林:
「平面的に美しいもの、心地よいものをつくる」という、グラフィックデザインの造形的なスキルを、陶芸やテキスタイル、それから平面的な造形とも親和性の高い立体産業に落としていくという取り組みにも興味がありますね。

大分の印刷会社「高山活版印刷」で行われたトークイベント「Playful」に登壇ゲストとして参加。ポスターも制作した

現在27歳。10年後、20年後の自分って想像したりしますか?

小林:
そうですね……。実は、グラフィックデザインだけをずっとやっていたいとは思ってない、というところがあって。

え、そうなんですか?

小林:
昨日ぼんやり考えていたんですけど、32、33歳くらいで一旦ひと区切りかなって思っています。10年後は違うことをやっていたい。それは飽きたからということではなくて、グラフィックデザインの可能性を追求したい、という思いから。印刷物に限らず、陶器や漆器、立体物やテキスタイルなどさまざまな分野でグラフィックデザインの造形的なスキルを生かすことが可能だと思っていますが、なかなかそのような例もないので、今後の可能性に手を伸ばせるように応用がきくデザインをしているつもりもあるんです。
……昔からそうなんですけど、高校1年の時に短絡的な動機とはいえ「少林寺拳法で全国大会に行く人になっていたい」と思って、それを実現できた自分がいた。多摩美に入学できたこともそうだし、これまでを振り返ってみると「数年前、こう思ってたな。じゃあ、そうなるように頑張らなきゃ」というかたちで、なんだかんだ人生を更新してきているんです。だから今、「違うことやっていたい」って思っているということは、そうなれるように動いていくんだと思うんですよね。

わくわくしますね。10年後、どういうかたちで小林さんの描く作品と出会えるのか。次にお会いした時は、グラフィックデザイナーという肩書じゃなくなっているかもしれない。

小林:
さっき32、33歳って言っちゃったから、あと5年くらいか。結構すぐですね(笑)。頑張らなきゃ。



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2019/11/08

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