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若者のすべて なんだか、未来が楽しみになる。今を生きる20代の若者たちと、他愛のないおしゃべりを。

第7回:山本りさ子(ヘアメイクアップアーティスト)

21歳以来ヘアメイクアップアーティストとして活動しながら、
昨年より絵を描くことをはじめた山本りさ子さん。
自分という存在を見つめるために描きはじめたという絵は、彼女自身をさらなる高みへと連れていってくれたようだ。

写真:Maya Matsuura 文・編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)

“わたし”という証を残したい

山本りさ子さん

山本りさ子
1992年生まれ。2014年よりフリーランスのヘアメイクアップアーティストとして活動するかたわら、昨年より絵や立体作品などを通して自分の内側にあるものを表現している。
Instagram:@yamamotorisako


「やろう」と思ったら、自分でできる気がした

ご出身は東京ですか?

山本さん(※以下、敬省略):
はい。生まれも育ちも葛飾区の亀有です。高校生までは地元の学校に通って、卒業後は美容師を目指して美容専門学校に。はじめて区外へ通学しました。

山本さんはふたつの顔をお持ちだと伺っているんですけど、普段はヘアメイクの仕事をされているんですよね。

山本:
そうですね。専門学校卒業後、21歳の時からフリーランスで仕事をはじめました。

ヘアメイクを志したきっかけはなんだったのでしょう。

山本:
小さな頃から髪の毛をいじったりするのが大好きで、ずっと「私は美容師になるんだ」と思って生きてきたんです(笑)。でも、いざ美容専門学校に進学して美容師の仕事と向き合った時に「私がやりたいのはこういうことじゃないな」と気がついて。
山本りさ子さんの自宅風景
好きなものが並ぶ、カラフルな部屋。

「こういうこと」というのは、具体的にどういうことですか?

山本:
美容師の仕事というのは、基本的にお店でお客さまの要望に合わせて髪を切ったり、一人の人と向き合ってどう変化させるか、ということだと思うのですが、私は"自分の想いや考え"を人を通して見たことのないかたちにしたり、チームで一緒に作品をつくりあげることが好きだなと気づいたんです。作品撮りをすることが好きだったので、それを突き詰めていたら……いつの間にかヘアメイクが仕事になっていました。。

卒業後、どなたかのアシスタントを経験されたんですか?

山本:
実はヘアメイクのアシスタントは経験がなくて、数ヶ月だけ洋服のスタイリストのアシスタントをさせていただきました。

ヘアメイクではなく洋服の?

山本:
はい。今思えば興味本位の部分もあったかもしれませんが、洋服がとても好きだったことと、ヘアメイクと洋服のスタイリングの両方を自分でできたら、思い描く世界をそのまま忠実に表現できるんじゃないかと思ってのことでした。

その後、フリーランスのヘアメイクアップアーティストとして独立されたわけですよね。

山本:
これはとても失礼な考え方かもしれないんですけど……。“修行”が必要ないとは言えませんが、自分で「できる」と思ったらやれるんじゃないかな、と思ったんです。数は多くなかったんですが、アシスタントをしていた時に立ち会わせていただいた撮影現場で自分なりに色々と見たり吸収していたので……「もう、一人ではじめちゃえ!」って。21歳の時のことです。
カネコアヤノ「祝祭」
カネコアヤノ「祝祭」
photo: Kazuhei Kimura
山本りさ子のヘアメイク作品
photo: Sakura Maya Michiki
model: Kako Takahashi
山本りさ子のヘアメイク作品
Lamp harajuku 2020ss
photo: Haruka Sugawara
model: Ayano Kaneko
styling: Akari Shirasu
direction: Etsuko Yano

思い切りがいいというか、大きな決断でしたね。学生時代に色々学ばれたと思いますが、ある意味自己流でのスタートになりますよね。

山本:
そう……ですね。最初はアルバイトをしながら、知り合いや作品を見て連絡を下さった方とお仕事させていただいていました。

今年28歳になられるということなので、仕事歴は約7年。山本さんの年齢で一つの仕事をすでに7年続けている人って、決して多くないですよね。昨年からは、ヘアメイクの仕事と並行して絵を描くことをはじめられたということで。これまでも、日常的に絵を描いていたんですか?

山本:
いえ、ヘアメイクのデザイン画とかは描いていたのですが、絵は描いていなくて。母が美術学校を出ているんですけど、母の描く絵を見て「絵が描けるっていいな」と憧れていました。
山本りさ子さん
山本りさ子さんの自宅風景

お母さまは、自宅でよく絵を描いていたんですか。

山本:
あまり家で描いている様子を見たことはないですけど……。思えば祖母は洋服のお直しの仕事をしていたり、親戚も何かをつくっている人が多かったりして、手を動かすことに縁がある家系なのかも。祖母や母には結構影響を受けていますね。

絵を描こう、と思った何か具体的なきっかけがあったんでしょうか。

山本:
二十歳くらいで実家を出て、友人とルームシェアしたり同棲をしたりしてたんです。今は一旦実家に戻ってきているのですが、一昨年「一人暮らししてみよう」と思い立って、はじめて一人で暮らすことをしてみました。そうしたら、なんだかすごく孤独を感じて。「このままこの部屋で息絶えても、誰も気づいてくれないんじゃないか」って思ったり。

なるほど。

山本:
自分一人で何かできること、あるいはつくれることをして、「山本りさ子はこういうことをしてた」っていう証を残さないと、って(笑)。

その時の山本さんに何があったんですか(笑)。

山本:
まぁ、失恋だったり……(笑)。周りのミュージシャンやアーティストの友人の舞台や作品を見て、「自分の身ひとつでかっこいいな、私も何か一人でできることをはじめてみよう」と思ったことも大きいです。ヘアメイクは"相手"があっての事なので、何か自分一人で創作ができるスキルを身に付けたいな、と。一人暮らしをはじめるときに、母が絵を描いたスケッチブックを持っていったんですが、それを眺めていたらふと「描いてみようかな」って。
山本りさ子さんの作品「朝日」
「朝日」
2度目の展示「aurora」にて展示したもの。 写真:山本りさ子
山本りさ子さんの作品「無題」
「無題」
展示「aurora」にて展示したもの。写真:山本りさ子
山本りさ子さんの作品「無題」
「無題」
モンゴルで乗馬した馬との時間に想いを馳せて。 写真:山本りさ子

自分の中から湧き上がってくるもの

ヘアメイクって色を扱う仕事じゃないですか。そういう意味では、絵を描くことと共通点があったりするんですか。

山本:
手を使って塗る、という点ではそうかもしれませんね。厚めに塗ったり、薄く塗ったり、丁寧に塗ったりラフに塗ったり、色と色を重ねたり……緩急つけて仕上げていくところとか。

描かれているものは、具体的なものもあれば抽象的なものもありますね。

山本:
ひたすら葉っぱを描いたり、その時々のブームや大切にしたいことだったり。基本的には自分が優しい気持ちになれるものを描いています。最初は誰かに見せることはしていなかったのですが、Instagramに作品を載せてみたら思っていた以上に「好き」とか「この絵欲しいな」と反応があって。嬉しくて、どんどん描くようになって。
山本りさ子さんの自宅風景
部屋には、自身の作品をはじめ様々な絵が飾られている。

普段は、どういうタイミングで絵を描いているんですか?

山本:
仕事が休みの日だったり、描きたいと思った時に。寝る前とか夜中に描くことも多いですね。ヘアメイクしている時もそうなのですが、絵を描いてる時の集中力が半端ないんです。気づいたら朝になっていたり(笑)。

ヘアメイクの仕事をはじめて7年。今まで、仕事への迷いだったり辞めたいって思ったことはありましたか?

山本:
辞めたいと思ったことはないですけど、このままやっていけるのかなって思ったことはあります。

仕事もしつつ、自分の時間もしっかり持てて、とても良いバランスですよね。27歳という年齢でその状態に到達するのってすごいなと思います。20代の後半って、仕事とプライベートのバランスなどで一度人生に迷うタイミングなのかなって思いますけど。絵を描くようになって、色々とバランスが取れた感じですか?

山本:
そうですね。一人で描いたりつくったりすることは平常心を保てるというか、フラットな気持ちになれます。そういう手段を見つけられて良かったなって思いますね。
山本りさ子さん
アクリルガッシュ
絵はアクリルガッシュを使って描く。「和」というシリーズは、くすんだ色合いが特徴。

つくりたいものがたくさんある

昨年は、はじめての展覧会も行なったそうですね。

山本:
はい。知り合いのコーヒー屋さんが「よし! うちで展示やろう」と声をかけてくださったんです。それで去年の7月にはじめて展示をして、その後12月にも。空間をつくることが好きなので、「この絵をどこに配置したら気持ちいいかな」とか考えたりしながら作品を設営する時間も、とても楽しいひとときでした。

ヘアメイクという仕事も、「洋服や撮る空間とのバランスをとっていく仕事」という側面がある気がしますね。先ほど、絵を描く様子を見せていただいたんですけど、迷いや躊躇なくサーっと描く様子を見て驚きました。職業柄、思い切りの良さだったり即興力をお持ちなのかもしれませんね。

山本:
そうですね。即興力が必要な仕事だと思います。迷わず、どんなボールでも打ち返せるようにしていないと。ヘアメイクでの経験を、絵に活かせているのかも。

展覧会は「自分の身一つで」という意味でも、ヘアメイクという仕事で得られる喜びとはまったく違うものでしたか。

山の絵
写っている山の絵は山本さんのお母さまが描いたもの。
山本:
そうですね。最高でした。こんなにも幸せなことがあるもんなんだなーって(笑)。ヘアメイクとは、また違った喜びでした。見に来てくださった方たちと一緒に絵を眺めながら、その時や空間を共有できることが幸せで楽しかったですね。絵を描きはじめた頃とほぼ同じ時期から、木屑が入っている紙粘土を使った立体作品もつくっているのですが、少し前から陶芸もはじめたり……。これからやってみたいことがたくさんあります。
立体作品
立体作品。絵と同じ"山本さんらしさ"を感じる。

今の山本さんにとっての「仕事」はヘアメイクだと思うんですけれど、たとえば10年後、どのように生きていたいと思いますか。

山本:
10年後……37歳ですよね。10年後は、家族と一緒に山の中で暮らしていたい(笑)。二拠点生活がしたいと思っていて、創作活動とヘアメイク、7:3くらいの割合が理想です。7割が創作活動で、時々ヘアメイクの仕事で都会に出ていく、みたいな。その中で、好きな人たちが憩えるオアシスのようなお店、空間をつくってみたいです。

山の中!

山本:
東京から少し離れたいんです。なんか……騒がしくて、疲れちゃって。でも、東京から出る前に実家から出なきゃ。10年後というか、今いちばんやりたいことは引っ越しですね(笑)。
山本りさ子さんの自宅風景

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2020/05/09

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