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TOKYO BUCKET LIST. 都市の愉しみ方 お菓子から建築、アートまで歩いて探す愉しみいろいろ。

第76回:部屋のみる夢/フジタの猫と少女の部屋

Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、 東京在住。 武蔵野美術大学卒業後、 女性誌編集者を経てその後編集長を務める。 現在は気になる建築やアート、 展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。


小人の使いそうな小さな扉に極小の鍵穴、 そこには信じられないほど小さい鍵が差し込まれている。 その鍵は徐々に大きくなりながら通常の大きさのドアまで壁を伝いながら続いていく。 これは一体何?

高田安規子・政子
写真:筆者提供
高田安規子・政子
© Akiko & Masako Takada Photo: Ken KATO

この部屋の映像をテレビの美術番組で見かけて、 いてもたってもいられなくなり見に行くことにした。
今、 箱根の 「ポーラ美術館」 で開催中の 「部屋のみる夢」 展の髙田安規子・政子の作品 「Open/Closed」 だ。

何を開き閉じるための鍵なのか……。 次々に謎が湧いてくる。
その部屋のもう一つの壁には様々なスタイルの小さな窓が開けられていて、 その窓から箱根の豊かな自然を覗き見ることもできる。
これは 「Inside-out/Outside-in」 という作品。 どちらも 「開放と閉鎖が並列している状況」 を表しているという。
パンデミックの間、 我々はStay homeを余儀なくされた。 扉、 鍵、 窓は外部との関係の遮断と開放の象徴なのだろう。
この双子姉妹の作家・髙田安規子・政子の作品は 「東京都庭園美術館」 での 「装飾は流転する」(2017) や 「市原湖畔美術館」 の 「更級日記考─女性たちの、 想像の部屋」 (2019) でも出会っているが、 いつもメアリー・ノートンの児童書 『床下の小人たち』 を読んだような、 スケールや時空間が揺らぐような感覚に陥る。

高田安規子・政子
© Akiko & Masako Takada Photo: Ken KATO
高田安規子・政子
英国を拠点に活動していた作家だけあって様々な窓の様式も克明に表現されていて見事。 右は小さな窓の外にかすかに見える箱根の自然。 写真:筆者提供

この展覧会は、 「部屋」 をテーマに19世紀のピエール・ボナールやヴィルヘルム・ハマスホイ、 20世紀のマティスの室内画、 現代の作家草間彌生の水玉に覆われたベッド、 ヴォルフガング・ティルマンスの写真まで9作家約50点の作品で構成されたものだ。
「部屋」 という空間から想起される様々な感情をあらためて見つめなおす展示になっている。

いくつかの展示室の壁には窓が設けられていた。 以前スパイラルでやっていた 「窓学展 窓から見える世界」 でもそれを再認識した覚えがある。

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ポーラ美術館
Photo: Ken KATO
ポーラ美術館
アンリ・マティスの部屋。 Photo: Ken KATO
ポーラ美術館
ピエール・ボナール《静物、開いた窓、トルーヴィル》1934年頃、油彩/カンヴァス、98.0×60.0cm、アサヒビール大山崎山荘美術館
ポーラ美術館
ヴィルヘルム・ハマスホイ 《陽光の中で読書する女性、ストランゲーゼ30番地》 1899 年、 油彩/カンヴァス、 46.2×51.0cm、 ポーラ美術館
ポーラ美術館
写真:筆者提供
ポーラ美術館
ヴォルフガング・ティルマンス 《静物、ボーン・エステート》 2002 年、 インクジェットプリント、 クリップ、 138.0×206.0cm、 ポーラ美術館 ©Wolfgang Tillmans, Courtesy Wako Works of Art
ポーラ美術館
 ©YAYOI KUSAMA Photo: Ken KATO
ポーラ美術館
写真:筆者提供

ポーラ美術館は野外彫刻のある 「森の遊歩道」 もミュージアム・ショップもレストランやカフェも充実している。
この展覧会と連動したメニューもあって魅力的だ。

ポーラ美術館
赤い水玉を思わせるデザートの一皿。 写真:筆者提供

ポーラ美術館は藤田嗣治のコレクションの収蔵でも有名で、 子どもが様々な仕事に従事する 「小さな職人たち」 シリーズと 、フジタのつくった額縁に入れられた「姉妹」が特にお気に入りだ。
ミュージアム・ショップにフレームごと複製した「姉妹」のレプリカと、「小さな職人たち」のDAILY CALENDARを見つけて購入した。 なお 「小さな職人たち」 シリーズや 「乳白色の肌」 の作品は 「部屋のみる夢」 展と同時開催のコレクション展で観ることができる。

ポーラ美術館
左はフジタが鏡を入れていた額縁に合わせて描いた 「姉妹」。 額縁にはハートや天使、 鍵などを切り抜いた金属板で飾られている。 写真:筆者提供

藤田嗣治といえば、 彼の作品だけを展示する 「軽井沢安東美術館」 が昨年10月にオープンした。

軽井沢安東美術館
写真:筆者提供

ここは、 藤田嗣治の絵を約20年にわたって蒐集してきた安東泰志・恵夫妻が、 自宅に飾っていた膨大なコレクション約200点を個人美術館として公開したものだ。 なのでホワイトキューブのミュージアムではなく安東夫妻の自邸に招かれたような展示になっている。
昨年の開館記念展に続いて3月3日から9月12日まで 「藤田嗣治 猫と少女の部屋」 展を開催中だ。
館長は 「没後40年 レオナール・フジタ」展(2008)、 「藤田嗣治と愛書都市パリ」 (2012)、 「レオナール・フジタとモデルたち」(2016~17)、 「没後50年 本のしごと」 (2018) などフジタ関連だけでも数々の展覧会の企画や展示、 図録製作などを手がけてきた 「キュレイターズ」 の水野昌美氏がつとめている。 なのでこれからの企画も楽しみだ。

軽井沢安東美術館
軽井沢安東美術館
軽井沢安東美術館 展示室 撮影: 新 良太
軽井沢安東美術館
軽井沢安東美術館 展示室 撮影: 新 良太

一階には中庭を望むサロンや 「HARIO」 のカフェがあり、 2階には壁の色の違う4つの展示室と屋根裏展示室がある。
1913年からの作品 「渡仏~スタイルの模索から乳白色の下地へ」、 1931年の旅にはじまる異国を描いた作品 「旅する画家~中南米、 日本、 ニューヨーク」、 1950年、 日本からフランスに戻って描かれた作品 「再びパリへ~信仰への道」 が展示されている。
そこを抜けると、 ソファーやシャンデリアのある赤い部屋が現れる。 ここは愛らしい猫や少女の絵画だけで満たされた 「少女と猫の世界」 の展示室だ。 新たに加わったのは、 戦争画を描いたことで戦争責任を問われ日本を脱出、 フランスに戻るまでニューヨークに滞在した10ヶ月の間に描かれたという 「猫の教室」(1949)。 これが初披露されている。 擬人化された猫たちが生き生きとユーモラスに描かれたものだ。

軽井沢安東美術館
軽井沢安東美術館 展示室 (中央)《猫の教室》(1949 油彩、キャンバス)(左)《パリの屋根の前の少女と猫》(1955 油彩、キャンバス)(右)《正面を向く猫》(1930 油彩、キャンバス)

1968年1月末に逝去したフジタの功績を讃えて同年9月に 「東京セントラル美術館」 で開かれた 「藤田嗣治追悼展」 からいろいろなフジタの展覧会を見てきたが、 「軽井沢安東美術館」 ではまだ見たことのない作品に多く出会った。

箱根や軽井沢は、 この時期新緑が美しい。 部屋から出て少し遠出するのはどうだろう。

The Chocolate Cosmos
軽井沢安東美術館 展示室 撮影: 新 良太

<関連情報>

□部屋のみる夢―ボナールからティルマンス、現代の作家まで
Interior Visions : From Bonnard to Tillmans and Contemporary Artists

https://www.polamuseum.or.jp/sp/interiorvisions/

会場:ポーラ美術館 展示室 1、3
住所:神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
会期:2023年1月28日(土)~7月2日(日) 会期中無休
開館時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)

□藤田嗣治 猫と少女の部屋
https://www.musee-ando.com/event/detail/

会場:軽井沢安東美術館
住所:長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢東43番地10
会期:2023年3月3日(金)~2023年9月12日(火)
休館日:水曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始、1月中旬、2月下旬
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)

□髙田安規子・政子 HP
https://www.amtakada.com


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2023/04/22

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