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TOKYO BUCKET LIST. 都市の愉しみ方 お菓子から建築、アートまで歩いて探す愉しみいろいろ。

第71回:静嘉堂@丸の内/新春の七福うさぎ

Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、 東京在住。 武蔵野美術大学卒業後、 女性誌編集者を経てその後編集長を務める。 現在は気になる建築やアート、 展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。


昨年末のクリスマス・ムードから一転した丸の内、 年始にふさわしい展覧会へ行ってきた。

昨年の10月、 「静嘉堂文庫美術館」 は、 創設130周年を機に美術館のギャラリーを世田谷岡本の地から丸の内の 「明治生命館」 1階に「静嘉堂@丸の内」として移転した。 建物自体も重要文化財に指定されている空間での 「静嘉堂創設130周年・新美術館開館記念展I」 は、 国宝 「窯変天目」 や重要文化財 「唐物那須茶入利休物相」 など名宝が勢揃いするという豪華さだった。

静嘉堂文庫美術館
国宝《曜変天目(稲葉天目)》 南宋時代(12-13世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵

静嘉堂とは、 三菱の創始者岩崎彌太郎の弟・彌之助 (三菱第二代社長) とその長男・小彌太 (三菱第四代社長) の親子二代に渡って蒐集した文化財を保存・研究・公開する施設だ。

明治中期には彌之助がジョサイヤ・コンドルに設計させた 「Art Galleries Maru no Uchi Tokio」 という丸の内に美術館を建てる構想があったようだが未完に終わり、 世田谷の地で静嘉堂はその活動を続けていた。
明治生命館はコンドル設計により明治28年 (1895年) に 「三菱2号館」 として竣工。 今の建物はその跡地に岡田信一郎設計により古典主義様式を取り入れた近代洋風建築として昭和9年 (1934年) に建築されたもので、 平成9年(1997年)に重要文化財に指定された。

静嘉堂文庫美術館
写真:筆者提供
静嘉堂文庫美術館
写真:筆者提供
静嘉堂文庫美術館
写真:筆者提供
YUMING MUSEUM
静嘉堂文庫美術館内観。 写真:Koji Fujii / TOREAL

130年の時を経て、 丸の内の美術館で静嘉堂の名宝を公開するという彌之助の夢がようやく実現したということなのだろう。

2023年の幕開けは “開館記念展II” となる 「初春を祝うー七福うさぎがやってくる!」 で、 今年の干支のうさぎにちなんだ愛らしい御所人形と七福神、 初春ならではの絵画やうつわがずらりと並ぶめでたさだ。 うさぎを象った香合やうさぎの群れが遊ぶ茶釜、 堂本印象の描いたうさぎ……。

静嘉堂文庫美術館
沈南蘋 《梅花双兎図》 清時代・雍正9年(1731) 静嘉堂文庫美術館蔵
静嘉堂文庫美術館
五世大木平藏 《木彫彩色御所人形》のうち「宝船曳」 昭和14年(1939) 静嘉堂文庫美術館蔵 左奥の両手を上げているのが恵比寿、中央手前の兜を被る毘沙門天、宝船に乗る布袋、手前右の打出の小槌をと袋を持つのは大黒天。
静嘉堂文庫美術館
香取秀真 《群兎文姥口釜》 昭和14年(1939) 静嘉堂文庫美術館蔵
静嘉堂文庫美術館
樂慶入 《赤樂宝尽寄向付》 江戸時代・文久4年(1864) 静嘉堂文庫美術館蔵

唐子装束の 「楽隊」 「輿行列」 「宝船曳」 、 日本の祭り衣装の 「餅つき」 「鯛車曳」 など人形総勢58体からなる群像の大行列が一堂に介している。 これは卯年生まれの岩崎小彌太の還暦の祝いのために京都の人形師 ・ 「丸平大木人形店」 の五世大木平蔵に製作させたものだという。

精巧につくられた御所人形の七福神の中でも、 岩崎家の家紋が描かれた宝船に乗る布袋は小彌太に、 輿に乗る弁財天は小彌太夫人・孝子に面差しを似せたそうだ。

静嘉堂文庫美術館
五世大木平藏 《木彫彩色御所人形》のうち「宝船曳」 昭和14年(1939) 静嘉堂文庫美術館蔵 
静嘉堂文庫美術館
五世大木平藏 《木彫彩色御所人形》のうち「輿行列」 昭和14年(1939)静嘉堂文庫美術館蔵 列を先導するのが鶴を連れた福禄寿、その隣は寿老人、輿に乗るのは弁財天。

七福神は金色のうさぎ形の冠を被り、 曳き手や担ぎ手、 楽師や餅つきのつき手たちも全員うさぎ形の冠をつけているのが可愛い。
三菱の総帥の還暦の祝いが、 このように愛らしい人形たちを産み出したことをはじめて知った。

麻布・鳥居坂にあった 「岩崎小彌太邸」 での祝いの席に招かれた財閥の重鎮21名が、 大テーブルに並べられたこの人形達を前に小彌太とお揃いの還暦頭巾とちゃんちゃんこを着て居並ぶ写真があった。
政財界の大物が茶会を催して名品揃えを見せた逸話はよく見聞きしてきたが、 これは微笑みを誘う。
この七福うさぎにはエスプリやユーモアのセンスが溢れていてなんともチャーミングだ。 財を成した人が贅を尽くすと、 稀有な工芸品が生まれるという証のような展示だった。

そして2月18日からは開館記念展第三弾として、 恒例の岩崎家所蔵のお雛さまの展示 「お雛さま 岩崎小彌太邸へようこそ」 展がはじまる。
2年前は移転前の静嘉堂文庫美術館での展示だったが、 今回は岩崎小弥太の麻布鳥居坂本邸の大広間で披露されていた雛祭りを彷彿とさせる展示になるという。
こちらも五世大木平蔵につくらせた御所人形のお雛さまの笑顔が素晴らしい。

年のはじめにこのような展示を見ると、 12年に一度巡ってくる干支や、 五節句をどのような嗜好で迎えるのかがとても重要な気がしてくる。
ちなみ年始に飾ったのは、 一昨年逝去された掛井五郎翁が描いた12年前のうさぎの絵と、我が家にいつの頃からかあるうさぎのかたちの香合だ。

うさぎ
写真:筆者提供

<関連情報>

□静嘉堂創設130周年・新美術館開館記念展Ⅱ「初春を祝う─七福うさぎがやってくる!」
"https://www.seikado.or.jp
会場:静嘉堂@丸の内(明治生命館1階)
会期:2023年1月2日(月・振休)~2月4日(土)
< 休館日:毎週月曜日
開催時間:10:00~17:00(金曜は18:00まで) ※入館は閉館の30分前まで


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2023/01/19

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