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TOKYO BUCKET LIST. 都市の愉しみ方 お菓子から建築、アートまで歩いて探す愉しみいろいろ。

第70回:YUMING MUSEUMと12月の街 past and present

Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、 東京在住。 武蔵野美術大学卒業後、 女性誌編集者を経てその後編集長を務める。 現在は気になる建築やアート、 展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。


優れたアーティストはどんな少女時代を過ごしていたのかとても気になるところだ。
石岡瑛子展や最近ではマリー・クワント展ヤマザキマリ展でそれは垣間見ることができたが、 先日はじまった松任谷由実のデビュー50周年を記念する展覧会 「YUMING MUSEUM」 でも辿ることができる。 会場は眼下に東京を見下ろす六本木ヒルズ森タワー52階の 「東京シティビュー」。

YUMING MUSEUM
会場構成は、 石岡瑛子展を手掛けた阿部真理子。 写真提供:YUMING MUSEUM

グランドピアノから天井高く舞い上がる無数のユーミン手書きの楽譜や詞や覚書き……そこが入り口。
続く幼少期からのプライベートな写真、 今まで発表された全てのアルバム、 華やかな舞台の映像と衣装……。 1970年代から現時点まで、 さまざまな時代のいろいろな世代の記憶に刻印されてきた曲が蘇る展示だ。

YUMING MUSEUM
写真:筆者提供
YUMING MUSEUM
舞台衣装とステージの映像の部屋。 1979年、 本物の象に乗って舞台に登場したユーミン、 その39年後に舞台でそのシーンを再現した。 左はその時に登場した象ロボット。 写真提供:YUMING MUSEUM
YUMING MUSEUM
写真:筆者提供
YUMING MUSEUM
コンサートツアー 「深海の街」 の舞台 (2021年~2022年) をそのまま再現した部屋。 アルバム「深海の街」(2020)のジャケットになった彫像も。 写真:筆者提供

この街六本木には彼女のデビューのきっかけになった伝説の店 「キャンティ」 がある。
後藤象二郎の孫・川添浩史と梶子夫妻が飯倉片町に1960年にオープンさせたイタリアン・レストランで、 作家、 画家、 俳優、 映画や音楽関係者、 ファッション・モデル、 カー・レーサーなどあらゆる才能が集まってくるサロンだった。 そこにふさわしいカッコいい大人になりたくて背伸びする若い子たちも吸い寄せられた。

中学生の頃から 「キャンティ」 に通っていたというユーミン神話は果たして本当なのだろうか。
深夜八王子の家を抜け出し中央線の上りの終電に飛び乗り四ツ谷へ、 そこから歩いて六本木の 「キャンティ」 へ。 そして原宿から始発で帰宅するというはなれ技をやってのけたという武勇伝は真実なのか?
八王子の実家に残されていた10代の荒井由美の部屋にあった絵画やデッサン文庫本などが並べられた部屋があり、 そこに “証拠物件” があった。
あたかもベッドに寝ているかのように見せかけるためのヘアウイッグと、 “12:00前にはおこさないで” という貼り紙! これだったのか!!

YUMING MUSEUM
デビュー当時に愛用していたピアノと八王子の実家に残されていた学生時代の絵や愛読書。 写真提供:YUMING MUSEUM
YUMING MUSEUM
美大を目指していた頃のデッサンとタブロー。 そして 「夜抜け」 のために使った “ヘアウイッグ” 。 右は 「起こさないで」 の張り紙。 写真:筆者提供
YUMING MUSEUM
八王子の実家での荒井由美。 写真提供:YUMING MUSEUM

「キャンティ」 の常連の中にはアルファミュージックを設立したばかりの村井邦彦がいた。
ユーミンのデビュー・シングル 「返事はいらない」 (1972)、 ファースト・アルバム 「ひこうき雲」 (1973) はこのレーベルからリリースされた。 「ひこうき雲」 のレコーディングで演奏を担当したのは細野晴臣率いるキャラメルママで、 鈴木茂、 林立夫、 松任谷正隆の4人編成だった。
その3年後、 松任谷正隆と結婚した荒井由美は松任谷由美となって羽化したのだ。

YUMING MUSEUM
ファーストアルバム 「ひこうき雲」 を録音したマルチトラック・テープ。 写真:筆者提供
YUMING MUSEUM
高校生の頃に 「空と雲の輝きにむけて」、 後に「翳りゆく部屋」 として発表された 「マホガニーの部屋」 を荒井由美自身が録音したオープンリールテープ。 写真:筆者提供

そこからはじまったユーミンのサクセスストーリーは、 今発売中の 「ユーミン万歳!~松任谷由実50周年記念ベストアルバム~」 まで続く。

YUMING MUSEUM
写真提供:YUMING MUSEUM
マリー・クワント
写真提供:YUMING MUSEUM

今、 東京・丸の内周辺がユーミン50周年記念の飾り付けになっていると聞き出かけた。
丸ビルにあるクリスマスツリーは 「POP CLASSICO」(2013) の未来と過去を縦横に行き来するイメージのデコレーションだった。
70年代の洋装店風な 「ブティック・ルージュ」、 80年代の純喫茶をイメージした 「喫茶シュガータウン」 もある。

丸の内クリスマス
写真:筆者提供
丸の内クリスマス
左は丸の内オアゾ1階に設置された80年代の純喫茶風 「喫茶シュガータウン」 (「SUGAR TOWN はさよならの町」のイメージで) 右は 「新丸ビル」 に出現した70年代の洋裁店のような 「ブティック・ルージュ」 (「ルージュの伝言」にちなんだもの)。 写真:筆者提供

ツリーといえば、 開館の2013年から毎年恒例となっている 「KITTE」 のアトリウムに出現する十数メートルをゆうに超える巨大もみの木。 この美しいインスタレーション “WHITE KITTE” はいつも優雅だ。

YUMING MUSEUM
KITTEのもみの木。 写真:筆者提供

今年の東京駅前には草間彌生とルイ・ヴィトンがコラボレーションしたスケートリンクが設置されていた。

ルイ・ヴィトンのスケートリンク
「Marunouchi Street Rink」@行幸通り 千代田区丸の内、丸の内仲通り、行幸通り 11/30(水)~12/25(日) Open11:00~22:00 写真:筆者提供
ルイ・ヴィトンのスケートリンク
左) インスタレーション@行幸通り+AR。 右) LV FISH CAFÉ @行幸通り+AR。 千代田区丸の内、丸の内仲通り、行幸通り いずれも11/30(水)~12/25(日)まで。Open11:00~22:00 写真:筆者提供

銀座のティファニーにはアンディ・ウォーホルのネオンの鳥が飛び交う。

銀座ティファニー
ティファニーのウォーホル。 写真:筆者提供

アーティストのクリスマスデコレーションといえばロンドン・メイフェアの老舗ホテル 「The Connaught」 の前に設置される恒例のツリーは一度見てみたいものの一つだ。
2015年のダミアン・ハーストの薬品や医療器具のオーナメントはいかにもハーストらしい。 そして2016年はアントニー・ゴームリー、 2017年はトレーシー・エミンという英国現代アートの精鋭を並べたラインナップはなかなかなセンスだ。

>>Damien Hirst(2015)
https://www.maybourne.com/siteassets/media-centre/press-releases/connaught/press-release-connaught-christmas-tree-2015.pdf

>>Antony Gormley(2016)
https://www.antonygormley.com/news/connaught-christmas-tree

>>Tracy Amin(2017)
http://jenikya.com/blog/2017/11/tracey-emin-designs-the-connau.html
https://www.maybourne.com/siteassets/media-centre/press-releases/connaught/jan-2018/the-connaught-christmas-tree-2017-designed-by-tracey-emin-cbe-press-release.pdf

銀座・松屋の中央ホールの7フロアを貫く吹き抜け空間は天井までの高さが約25m。 今年は青森ねぶたのクリスマスデコレーションが楽しげに浮かんでいる。

松屋銀座
昨年の松屋と青森ねぶたとの協働によるクリスマス・デコレーションは 「日本空間デザイン賞2022」 の金賞を受賞。 今年もデコレーションを青森の女性ねぶた師北村麻子が制作した。 写真:筆者提供

今まで見たデパートのクリスマスで印象に残るのは2010年 「新宿伊勢丹」 のクラウス・ハーパニエミによる 「Wonder Christmas」 で独特の物語と主人公の動植物が幻想的で魅力があった。

YouTube>>Ring Ring Wonder Christmas (All)
YouTube>>How To Make Wonder Christmas
YouTube>>Finding Wonder Christmas

物語のあるインスタレーションでは、 来年の2月まで 立川にある「GREEN SPRINGS」 に設置されているロンドンをベースに活躍するアーティストユニット Tsai & Yoshikawa のアート作品 「Daydream」 が素敵だ。
「GREEN SPRINGS」は水と緑豊かな中央広場を中心に多機能ホール、 ミュージアム、 ホテル、 ショップ、 レストラン、 オフィスなどが配置されている複合施設だ。 その中央広場に今、 不思議な植物のような大胆なオブジェがそこここに並び、 まるで桃源郷に遊ぶような気分になる。
このオブジェは電飾を多用せず、 作品を照らすことによって昼も夜も鮮やかな姿を見せる。 日中の太陽を浴びたビビッドカラーのオブジェは生き生きと躍動するようだ。それが 夜の闇に浮かび上がると幻想へと誘うミステリアスな佇まいへと変化する。 その両極のコントラストが今まで見たことのない斬新さだ。

立川グリーンスプリングス
Beyond Cascade 「カスケードの向こう側へ」 というタイトルの GREEN SPRINGS へ誘う階段。 不思議なアートと出会える最初のアートウォール。 楽しい雲や花などを抜けるとカスケード (滝) の向こう側にある秘密の桃源郷への入口が隠れている。 写真:DAISUKE SHIMA
立川グリーンスプリングス
Stroll-Mountain-Water 「遊山水」。 摩訶不思議な花が咲いている静かな水辺の庭園。 風にゆれる長い葉、 噴水の動きと共に刻々と移り変わる水面に映る向こう側の世界へと誘うインスタレーション。 写真:TSAI & YOSHIKAWA Courtesy of Gallery NAO MASAKI
立川グリーンスプリングス
Welcome Hugs「ハグの木」。 滝までまっすぐに伸びる道の門番のような双子のハートの守護神 (ガーディアン)は、訪れた人々の幸福を願っている。 一枚一枚の羽根のような葉が集まるとハートのようにも見え、 羽を閉じた鳥のようでもある。 写真:TSAI & YOSHIKAWA Courtesy of Gallery NAO MASAKI
立川グリーンスプリングス
左)Bliss of Luxuriance ‒ Daydream 「豊穣の宝石」。 豊かな大輪の花は、 夜になると水辺に輝く宝石のように煌めく。 写真:DAISUKE SHIMA 右)Drop of Light- Willow 「光の雫」。 大きな羽根のような柳の葉が光の雫になって滝に舞い降りた。 写真:TSAI & YOSHIKAWA Courtesy of Gallery NAO MASAKI
立川グリーンスプリングス
 写真:TSAI & YOSHIKAWA Courtesy of Gallery NAO MASAKI

これをプロデュースしたのは馬場雅人で、 2013年に「アークヒルズ」のアーク・カラヤン広場に全長約60メートル、 200人掛けのダイニングテーブルを出現させた人だ。 これもある意味アートのようだった。
コンサート・ホールのある広場にこのテーブルがあるだけで人が集ってきた。 そして夜になると明かりが灯り、 知らない同士にも暖かな会話が生まれる。 クリスマス商戦の為の商業的なデコレーションに終わらない、 人の心に明かりを灯すようなウインター・インスタレーションは街に新しい命を吹き込んでくれる。

立川グリーンスプリングス
リズムデザインの井出健一郎がデザインした60メートル200席のロングテーブル。 写真:筆者提供
立川グリーンスプリングス
写真:筆者提供

<関連情報>

□YUMING MUSEUM(ユーミン・ミュージアム)
https://yumingmuseum.jp/
会場:東京シティビュー (東京都港区六本木 6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52 階)
会期:2022年12月8日(木)~2023年2月26日(日) ※会期中無休

開催時間:10:00~22:00(最終入館 21:00)

□GREEN SPRINGS
https://greensprings.jp/
2020 年 4 月にオープンした、ウェルビーイングをテーマとした複合施設。水と緑豊かな約 1 万㎡の中央広場を中心に、最上階にインフィニティプールを有するホテル、多摩地区最大規模約 2,500 席の多機能ホール、ショップ・レストラン、オフィスなどが配置されている。

□GREEN SPRINGS 2022 WINTER INSTALLATION「Daydream」
https://greensprings.jp/event/5267/
会場:GREEN SPRINGS 2階(東京都立川市緑町3-1)
会期:2022年11月26日(土)~2023年2月14日(火)


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2022/12/23

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