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TOKYO BUCKET LIST. 都市の愉しみ方 お菓子から建築、アートまで歩いて探す愉しみいろいろ。

第68回:KIGI 10周年展
「all is graphics」

Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、 東京在住。 武蔵野美術大学卒業後、 女性誌編集者を経てその後編集長を務める。 現在は気になる建築やアート、 展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。


その仕事を見るためならどこへでも出かけていきたくなるグラフィック・デザイナーが何名かいる。
その最高峰は長老 仲條正義氏で、 昨年逝去される直前まで準備されていたという 「仲條正義二十二」 展を原宿の 「HBギャラリー」 で見たのは今年の5月だった。
様々な場所での色々な展示が思い出されて、 なんだかもの想いに耽ってしまった。

リスペクトするグラフィック・デザイナーの中に 「KIGI」 として活動する渡邉良重と植原亮輔がいる。
宮田識率いるデザイン会社 「DRAFT」 内のプロダクトブランド 「D-BROS」 を担うデザイナーとして二人の作品に出会ったのは、 KIGIを設立する10年ほど前だった気がする。

KIGI
写真提供:KIGI

植原亮輔がデザインした彼の大学の同級生・三原康裕のブランド 「SOSU」 2002年AW のインビテーションカードが最初の衝撃。

KIGI
SOSU 2002AW のテーマは「POP IRONIES」。封筒を開けるとセロテープで継ぎはぎにされたボロボロなカードとチケットや紙の破片が出てくる。 これは印刷や型抜きの技術を駆使したもので、 古びた紙やセロテープの表現はトロンプルイユの作品のような精巧さだ。 写真提供:KIGI

そして D-BROS の数々のヒット商品。
今は二人とも日本グラフィック界の重鎮だが、 当時はまだ若手という印象で、 発想も表現も初々しく従来のグラフィック・デザインから逸脱しているところが本当に魅力的だった。
KIGIの10周年を記念する 「all is graphics」 展がはじまり、 月日の速さを思った。

KIGI
画像提供:KIGI
KIGI
写真提供:KIGI

彼らは依頼者のあるクライアント・ワークだけでなく、 表現者としての制作=プライベート・ワークをする稀有なユニットだ。
今回の展示もそのプライベート・ワークをはじめるきっかけとなった作品 「時間の標本」 からはじまる。

KIGI
private work「時間の標本」。 写真:筆者提供

最初の部屋は、 最新作が一際目を惹いた。 二人がコロナ禍の最中はじめたという油絵だ。
以前、 私は渡邉良重の描く姿勢を 「PCに頼らないアンプラグドの女王」 と評したことがあったが、 その行手には油絵があったのかと思った。

KIGI
左) roomB 写真:筆者提供  右) 植原による群馬県前橋市 「白井屋ホテル」 のコミッションワーク。 写真提供:KIGI
KIGI
コロナ禍の2020年からはじめた油絵。 左) 植原の作品。 右) 渡邉の作品。 写真:筆者提供

2階には D-BROS 時代に注目を浴びたフラットなビニール袋に水を入れると自立するフラワーベース、 ウオールクロックそしてカレンダー。
「MIKIMOTO」 が新社屋になった時にノベルティで配られた、 本をくり抜くようにしてつくられたBOXと、 資生堂の 「美と美と美。─資生堂のスタイル─」 展の唐草模様のグッズ、 滋賀の職人との協働で生まれた 「KIKOF」 など、 見覚えのあるもの、 今手元で使っているものなどが展示されていて、 膨大な案件をこなしてきたことがわかる。

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フラットなビニールに水を入れると自立する花器。 D-BROSの代表的作品(2003年~)。 写真:筆者提供
KIGI
Private work「LIFEBLOOD」。 写真:筆者提供
KIGI
「市原湖畔美術館」 で開催された 「更級日記考 女性たちの、想像の部屋」 で発表された繊細なガラス瓶と色紙の作品。 写真提供:KIGI
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右) MIKIMOTOのためのノベルティBOX。 1937年のパリ万博に出品された帯留 「矢車」 の中央に新店舗のファサードに使われたと同じガラスピースでつくったペーパーウエイトを収納している。 写真:筆者提供

最後の方にある小部屋には、 渡邉良重のとても私的な作品がいくつか展示されている。
2021年に逝った母との最後の時間、 姉と共に過ごした3週間を静かな言葉で綴った本 『hapiness』 が置かれていた。
そこに展示されているのはレースペーパーの作品 「集合」 で、 母の病室でその制作を姉と二人で続けていたという。

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「私が姉に絵を送り、 姉が刺繍をする」。 母上が亡くなってから少しずつ続けている渡邉の作品作りの一部だという。 写真:筆者提供
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渡邉の母上が亡くなる前の3週間を記録した小冊子。 写真:筆者提供

以前、 KIGIが編集する不定期マガジン 『KIGI_M』 に渡邉良重作品衝撃のベスト5について書いた覚えがあるが、 その中の一つがこの「集合」だ。

KIGI
2005年からはじめたレースペーパーの作品 「集合」。 写真:筆者提供

仲條正義の最後の個展の時も感じたことだが、 この展示一つひとつがインデックスになって、 様々な記憶を呼び起こす装置のようだと感じた。

KIGIのデザインは 「物語」 によって生まれ、 グラフィックはより深い意味と価値を与えられているといるのではないかと感じたり、 ここでは体験できない展覧会のキュレーションというのも色々あったなぁとつらつら考えていた。

そんな中で私にとって特に印象深い10作を列挙してみることにした。

1/「時間の標本」 の元になった架空のホテル 「Hotel Butterfly」 (2006年) というプロダクト・シリーズ。 雪山を背に湖に面した古くからあるホテルという設定で、 そこで使われているものがプロダクト化された。 ウェス・アンダーソンの映画 「グランド・ブダペスト・ホテル」 (2014年) を見た時、 過去に発表されたホテル・バタフライが瞬時に思い浮かんだほど、 魅力あるストーリーだった。

KIGI
バタフライホテルのポスターと一筆箋。 ホテルで使われているという設定のドアプレートやレターヘッド、 カップ&ソーサーなどもある。 写真:筆者提供
https://d-bros.jp/collections/hotel-butterfly

2/「21_21 DESIGN SIGHT」 のチョコレート展で國村隼や市川実和子がガチで演じていたチョコレートを官能的に表現したフィルム 「欲望の茶色い塊」 (2007年)。

3/かつて渋谷パルコの中にあった店 「ラップル」 (2012年)。 ラッピング専門のこのお店も楽しかったが、 何よりリンゴの皮を螺旋状に剥いてリボン状になっているオリジナルのラッピングペーパーが最強のコンテンツだった。

KIGI
「ラップル」 のラッピングペーパー。 写真:筆者提供

4/「KIGI WORK & FREE 」 (2017年)。 宇都宮美術館全体を縦横無尽に使った展示は今までの KIGI展の集大成。
http://ki-gi.com/works/kigi-workfree/

KIGI
今までにない大規模展覧会で自然に囲まれた宇都宮美術館の特性をよく生かしている展示だった。 「時間の標本」 は外の樹木がガラスに映り込んで蝶がその中を舞うようだ。 空気の動きで命を吹き込まれる風車や風鈴などの作品が印象的だった。 写真:筆者提供

5/市原湖畔美術館で行われた 「更級日記考」 (2019年)。 渡邉良重を含む12人の女性作家の作品展で、 今まで以上に私的で繊細な作品ばかり。
https://www.artagenda.jp/exhibition/detail/3340

KIGI
市原湖畔美術館 「更級日記考 女性たちの、想像の部屋」。 ガラスのうつわやぬいぐるみ、 祖父と一緒に写った古い写真など、 身の回りにある “もの” に対して 「それらを見れば出会った時の情景が思い出される。 それらにささやかなお返しをすることにした」 という文章が添えられ、 それらの “もの” を核にして製作されたとてもプライベートな作品。 写真:筆者提供

6/「美と美と美。 ─資生堂のスタイル─」 (2019年)。 象徴としての 「オイデルミン」 や赤をテーマカラーにした、 KIGIならではアートディレクションで資生堂の目指した事をナビゲート。
https://www.youtube.com/watch?v=eJvCozhGSHo

KIGI
「オイデルミン」 の展示会場には精巧につくられたモザイクのラベルに驚愕した。 写真:筆者提供

7/ CARAMEL MONDAY(2019年~)。 森の奥に三日月の雫でできた黄金の湖、 この黄金のキャラメルからできたという物語のあるお菓子。 この物語に引き寄せられて何度も購入した。
http://www.caramelmonday.com

KIGI
物語は小さな絵本になっているのでお菓子と一緒に添えて贈りたくなる。 写真:筆者提供

8/「世界で一番美しい本」 (2020年) 阿部海太郎 CDジャケット。 ベリー侯の時祷書から発想した音楽にふさわしいのは、 15世紀の絵画をこのようにアップデートすることなのだと納得したデザイン。
https://www.umitaroabe.com/discography/913/

KIGI
「ベリー侯の時祷書」の中からこの部分だけを選び出すセンスに脱帽。 写真:筆者提供

9/向田邦子没後40年特別イベント 「いま、風が吹いている」 スパイラル (2021年)。 これも展覧会のアートディレクションで、 向田邦子を回顧するのではなく、 今を生きる人が共振する存在として表した見事な仕事だった。
https://www.youtube.com/watch?v=M-RMvM717Pkk
https://www.oil-magazine.com/tokyobucketlist/44898/

10/ 「Cheesy Poche」 缶のデザイン (2021年~)。 ペコリーノロマーノを二つの焼き加減で焼いたチーズクッキー。 KIGIデザインの缶にはチーズ+ネズミ + 猫の三位一体モチーフが描かれていて、 チーズの穴を思わせる円から顔を覗かせているところが最高。 夏バージョン、 焦げバージョンもあるという。
https://cheesysweets.jp

KIGI
齧られたようになっているカードの隅に注目。 写真:筆者提供

会期中限定でオープンしているKIGIのお店 「OUR FAVOURITE SHOP」 もあり、 入手困難なお菓子 「Cheesy Poche」 を運よく手にした。
翌日のティータイムにこのクッキーを前に、 KIGIの創作は見たことのないビジュアルとレアな体験がいつもセットだったことを思い出していた。

<関連情報>

□KIGI 10周年展覧会「all is graphics」
http://ki-gi.com/aig2022/
会場:ヒルサイドフォーラム
会期:2022年11月10日(木)~27 日(日) ※会期中無休

開催時間:11:00~20:00 ※最終日の27日は17:00まで
入場料:500円 高校生以下無料

>>関連イベント
□KIGIの植原亮輔と渡邉良重によるアーティストトーク
2022年11月16日(水)18:30~20:00
会場:オンライン(zoom)配信
料金:500円

※イベント詳細・お申し込みは下記URLからご確認ください。
https://20221116chs.peatix.com/

□阿部海太郎による演奏会「時間の標本」
日程:11月19日〈土〉15:30 開場/16:00 開演
会場:ヒルサイドプラザ(渋谷区猿楽町29)
料金:大人5,500円 高校生以下2,500円

※イベント詳細・お申し込みは、QRコードまたは下記URLからご確認ください。
https://20221119chs.peatix.com/

□チョコレート展のために作られたフィルム「欲望の茶色い塊」も、 OFS Galleryにて上映中。

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2022/11/18

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