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TOKYO BUCKET LIST. 都市の愉しみ方 お菓子から建築、アートまで歩いて探す愉しみいろいろ。

第30回:Think Pink

Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、東京在住。武蔵野美術大学卒業後、女性誌編集者を経てその後編集長を務める。現在は気になる建築やアート、展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。


OIL MAGAZINEの連載「堀井和子さんの『いいもの』ファイル」に、グラフィックデザイナー 井上庸子さんの「紙のバッグ PAPER BAGS」展でたくさん並ぶピンク色の紙のバッグから何を選んだかが書かれていた。

「微妙に色合いが違っているピンクの中で迷子になって、自分は本当は、どのピンクが好きなのか、わからなくなるようで不思議でした」という表現を見つけて、素敵だと思った。

写真:森本美絵

私もこの展覧会に魅せられた一人で、約26種類のピンク色のPANTONE paperが四角いバッグになって立ち並び、一つひとつに展示のギャラリーとなったブティック「OCAILLE(オカイユ)」のスペルに似たフランス語が印字されている。

OISEAU(鳥)、 ORCHESTRE(オーケストラ)、 OREILLER(枕)……。CIEL(空)、 CHANTER(歌う)、CAHIER(ノート)、 COLLIER(首飾り)、CITRONNIER(レモンの木)……。

写真:森本美絵
写真:森本美絵

私もこの様々なピンクと、気持ちのいい響きの言葉の森に迷い込んで、最後に選んだのはPANTONE 238 のCADEAU(贈り物)とPANTONE 219 のCONFITURE(ジャム)の2点だった。
その後、PANTONEのWeb で色を選べることも知った。これは便利。
https://www.pantone.com/color-finder
https://www.pantone.com/color-finder/238-UP
https://www.pantone.com/color-finder/219-C

井上さんによると、12月の展示なので持っていたPANTONE paperから暖色="並んでうれしい色"であるピンクと、ピンク系列のブラウンまでを色番号順に並べて、OとCからはじまるフランス語の単語をその言葉にふさわしい色の上にのせていったそうだ。井上さんはそれを"色の出席簿"と名付けていた。それも素敵。

写真:筆者提供

昨年末にこの展覧会でピンクの魅力に一撃されてから、気がつくとピンクにまつわることが気になりはじめた。

映画『パリの恋人』(1957年 スタンリー・ドーネン 監督)の1シーン、”Think Pink”という歌とダンスは最高だ。
https://www.youtube.com/watch?v=qiS-hvQUbDE

ケイ・トンプソン演じるNYのファッション・マガジン『クオリティ』の編集長 マギー・プレスコットが、“この夏のファッションはピンクで行く”と部下たちを鼓舞する歌詞だ。

「Think Pink ! (ピンクを考えて!)」
バッグも靴も、シャンプーも歯磨きも、家族の服も、そして一日中何をするにもピンク ピンク ピンク……。
「ディオールが黒やrust(赤褐色)だと言っても忘れて」

-Think pink! think pink, it's the latest word, you know. Pink is now the color to which.-

「ピンクが最新の言葉、ピンクが今の色」とたたみかけてくる。目が眩むようなピンクで溢れる場面。

この編集長のモデルはダイアナ・ヴリーランドで、当時『ハーパース・バザー』の編集者だった。
https://www.youtube.com/watch?v=-e3lsn_-gRc
http://www.dianavreeland-film.com

右は『D.V.』(1984年 Diana Vreeland 著 Alfred A. Knopf,Publisher,NewYork 刊)。表紙は1930年にWilliam Actonによって描かれた20代のダイアナ・ヴリーランドの肖像画。左は『DIANA VREELAND BAZAAR YEARS』(2001年 John Esten 著 Universe Publishing 刊)。ヴリーランドはスキャパレリの輝くピンクのジャケットを着ている。Louise Dahl-Wolfe 撮影 1937年『BAZAAR』4月号。 写真:筆者提供

彼女はハーパース・バザーで“Why don’t you…?”というエキセントリックなコラムを書いていた。

「フランス人がするように金髪の子供の髪は気の抜けたシャンパンでリンスしたら?」
「古い白貂の毛皮のコートはバスローブにしてしまわない?」
「あなたの名前と電話番号を入れた透明なベルトを スキャパレリにオーダーしたらどうかしら?」
などなど……。

「ナルシシズムは嫌いだけれど、虚栄心は認めます」というフレーズもある。
こういうスタンスは、面白い。

ダイアナ・ヴリーランドの生涯とキャリアを追ったドキュメンタリー。ダイアナの孫を夫に持つリサ・イモルディノ・ヴリーランドが監督、製作。

そしてこれら彼女の独特な語録の中に「ピンクはインドのネイビーブルー」(Pink is the Navy Blue of India)という伝説にもなった言葉がある。
写真家のノーマン・パーキンソンがインド全土で撮影した英国『VOGUE』のためのファッション写真を見て、「ピンクがインドのネイビーブルーであることを知っているMr.パーキンソンは、なんて賢いんでしょう」と叫んだそうだ。
西洋ではネイビーブルーが保守的な社会的地位を表すように、インドでピンクは伝統と優位を示すことを意味するということなのだと。
https://couturerani.com/fashion/2013/01/british-vogue-editorial-pink-is-the-navy-blue-of-india/

“Think Pink”を歌っている歌手でダンサーのケイ・トンプソンは、『エロイーズ』(1955)というNYのプラザ・ホテルの最上階に住む6歳の女の子を主人公にした絵本の作者としても有名だ。

6歳のエロイーズ は犬のウイニー、亀のスキッパーディー、そしてイギリス人のナニーとプラザ・ホテルの最上階に住んでいる。ママは30歳でどうも海外にいるらしい。
右は『エロイーズ 、パリへ行く』の一場面。ディオールの指示でアシスタントのサンローランがデザイン画を描いたドレス姿のエロイーズ。 写真:筆者提供

「プラザ・ホテル」の全階を縦横無尽に走り回って勝手気ままに悪戯をするおませなエロイーズを、ピンクと白と黒で描いたのはイラストレーターのヒラリー・ナイト。
表紙からすでにピンク。
映画『パリの恋人』でフレッド・アステア演じるカメラマンはリチャード・アヴェドンがモデルで、アヴェドンはこの映画のビジュアル・コンサルタントでもあり『ハーパース・バザー』のチーフ・カメラマンだった。

「プラザ・ホテル」に住んでいたケイ・トンプソンと無名の若手イラストレーターのヒラリー・ナイトを出会わせたのは、『ハーパース・バザー』でダイアナ・ヴリーランドのアシスタントをしていたファッション・エディターのD.D.ライアン。
D.D.はアヴェドンのアソシエイトから『ハーパース・バザー』の編集者になり、その後デザイナーのホルストンの片腕になった女性で、ベスト・ドレッサーのリストの常連だった。

続編の『エロイーズ、 パリへ行く』(1957)では、ムッシュ・ディオールがエロイーズのためにドレスをデザインしてくれる。ディオールが指示して若いアシスタント・ディレクターのイヴ・サンローランがデザイン画を描いたという。

『パリの恋人』、ヴリーランド、『エロイーズ』から見えてくるのは、1950年代のアメリカの上流社会のファッションはパリをヒエラルキーの頂点に置き、ニュールックで戦後ファッションを席巻したディオールがその帝王として君臨していたこと。
ちなみに「ニュールック」と名付けたのは、『ハーパース・バザー』の名編集長 カーメル・スノー。彼女はアートディレクターのアレクセイ・ブロードヴィッチや新進気鋭のカメラマン アヴェドンなどの力で、バザーの黄金時代を築いた女性だ。
絵本『エロイーズ』は、こんなNYの様々な分野の才能やセンス溢れるの人たちの交わす、贅沢でエスプリの効いた会話から生まれたものだ。

今でもプラザ・ホテルにとってエロイーズの存在は重要で「エロイーズ・スイート」という部屋があり宿泊することも可能だそうだ。

Hotels With A Past: The Plaza Hotel New York
https://www.youtube.com/watch?v=_EUYrYZgURc
https://www.theplazany.com/eloise/

さて、ヴリーランドが言及していたデザイナー エルザ・スキャパレリは、コクトーやダリなどシュルレアリストの影響を受けたデザイナーで、彼女は1930年代から鮮やかなマゼンダのピンクを多用した。
トルソ型の香水瓶「Shocking」も流行して彼女のシグネチャーにもなった。ショッキング・ピンクの誕生だ。

左は1938年8月に発表されたAstrology Collectionのピンクのイヴニング・ケープ。金色の糸でルサージュが刺繍した「Phœbus=アポロ 太陽」。右は『Elsa Schiaparelli:Empress fo Paris Fashion』(1986年 Palmer White Rizzoli International Publications 刊)、『Shocking! The Art and Fashion of Elsa Schiaparelli』 (2003年 Dilys E.Blum Yale University Press)。写真:筆者提供

このピンクは、猪熊弦一郎が三越のためにデザインした包装紙「華ひらく」に使われている。

猪熊弦一郎が世界中で集めた身辺にある蒐集物について綴った『画家のおもちゃ箱』(1984年 文化出版局 刊)の中に、銚子の海岸で美しいかたちの丸い石を見つけて拾ってきたこと、当時三越の宣伝部長だった岡田茂に新しい包装紙のデザインを依頼された時、「ずいぶん沢山の石の中から面白いフォルムの作品になるものを選びだした。それを白地の上にスキャアパレリーピンクの色で描いた」とあった。
あの包装紙のピンクは、スキャパレリのショッキング・ピンクだったのだ。

写真:筆者提供

8年ほど前、メキシコで目も覚めるようなショッキング・ピンクの壁に出会ったことがある。ルイス・バラガンの建築を訪ねた旅の時のことだ。
メキシコシティの郊外にある「サン・クリストバルの厩舎」。スイス人のエゲルシュトーム家がサラブレッドの訓練を行うために建てたもので、広大な敷地に馬の水飲み場にしては大きなプールのような水場がある。
そこに映るピンクのゲートがなんとも不思議な光景だった。

写真:筆者提供

巻頭に書いた、PANTONE paperのピンクのわずかに違う表情を確認しながら選びだすこの感覚、そういえば以前も同じように様々なピンクの中で迷ったことがあった。
パリにある、週に1日しかオープンしないパステルの工房「La Maison du Pastel」。創業は1720年でルイ15世の治世。ドガやルドンも好んだというパステルは、今も創業時と変わらない手作業でつくられている。
魅力的な色に目移りしながら5本のピンクのパステルを選び出すのは至難の技だ。木の箱に納めてもらった5本には、番号が手書きで書かれている。1色につき9つのグラデーションで1580の色調を用意しているという。

写真:筆者提供

約300年もの歴史をもつ工房もwebサイトを持っていて、そこから色を探し出すことができるのはPANTONE と同じだ。
あ、これも「色の出席簿」みたいだ。

https://vimeo.com/34011291?from=outro-embed
https://www.lamaisondupastel.com/videos.php
https://lamaisondupastel.com/shop/?cat=4

ピオニーのピンクが好きだが、散歩に出たら寒桜のピンクが目をひいた。
春はもうすぐそこ……。


<関連情報>

□オカイユ
https://ocailletokyo.com
2020年12月4日から10日までオカイユで行われたPAPER BAGS展。 https://www.instagram.com/p/CIan5XvFciP/
ピンクのバッグだけでなく井上庸子さん作の紙バッグ7つのサイズが並んでいて美しい。
https://www.instagram.com/p/CIpi_SlF---/
福田里香さんの焼いたポルトガルのお菓子raivasも紙のバッグ入りで限定で発売された。
https://www.instagram.com/p/CIc1TX4l7LK/

写真:井上庸子
写真:森本美絵

□「パリの恋人」
1957年製作/原題「Funny Face」
https://www.amazon.co.jp/Funny-Face-DVD-Import/dp/B074BQ881D

□「ダイアナ・ヴリーランド 伝説のファッショニスタ」
2011年製作/原題:Diana Vreeland: The Eye Has to Travel https://www.amazon.co.jp/ダイアナ・ヴリーランド-伝説のファッショニスタ-DVD/dp/B00D8F0OU0

□「エロイーズ」
1955年/作:ケイ・トンプソン/絵:ヒラリー・ナイト/訳:井上荒野 / メディアファクトリー刊。続編に「エロイーズ、パリに行く」(1957)、「エロイーズのクリスマス」(1958)、「エロイーズ 、モスクワに行く」(1959)がある。
https://www.amazon.co.jp/絵本・児童書-エロイーズ-本/s?rh=n%3A466306%2Cp_n_feature_eleven_browse-bin%3A2254969051

□「画家のおもちゃ箱」
猪熊弦一郎 著 写真/大倉舜二 1984年 文化出版局刊 『ミセス』に綴った見開きの連載「現代玉手箱」に加筆しまとめたもの。
https://nostos.jp/archives/226324

□サン・クリストバルの厩舎
luis barragán's equestrian estate and fountain cuadra san cristóbal in mexico city.
https://vimeo.com/374597830
https://www.designboom.com/architecture/luis-barragan-cuadra-san-cristobal-mexico-city-11-25-2019/

□La Maison du Pastel
20, rue Rambuteau 75003 Paris France
電話番号(フランス語、英語):+33 1 40 29 00 67
メール:contact@lamaisondupastel.com
営業時間:毎週木曜14:00~16:00(要確認)、その他の日時は予約制にて対応。 https://lamaisondupastel.com/home.php


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2021/02/03

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