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TOKYO BUCKET LIST. 都市の愉しみ方 お菓子から建築、アートまで歩いて探す愉しみいろいろ。

第27回:代々木・近所のパン屋さん

Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、東京在住。武蔵野美術大学卒業後、女性誌編集者を経てその後編集長を務める。現在は気になる建築やアート、展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。


長い間、馴染みにしていたパン屋さんが閉店する。

代々木駅近くに「代々木VILLAGE by kurkku」ができてからだから、もう9年通ったことになる。
ここは「代々木ゼミナール」の旧校舎跡地に建てられた商業施設で、小林武史、片山正通、西畠清順の3人がプロデュースに関わった期間限定のスペース。
大きな木の扉のあるガラスのゲートを入ると樹齢500年を超えたオリーブの樹と巨大ペルシャの壺に迎えられる。

interior design: Wonderwall®︎ photo: photo: Nacása & Partners Inc.
オープンした2011年当時の代々木VILLAGEのゲート。 interior design: Wonderwall®︎ photo: photo: Nacása & Partners Inc.
左)推定樹齢500年と思われるオリーブの大木。右)”100年に一度咲く花”というキャプションが付けられたアガベ=竜舌蘭。このアガベは2016年に花を咲かせた。 写真:筆者提供

ソーラーパネルを屋根に配置したコンテナのゾーンにはさまざまな店が並び、そこを抜けると竜血樹りゅうけつじゅ やボトルツリーなどの珍しい樹木の並ぶ不思議な植物園のような庭に出る。
そこから見えるのは糸杉を従えたレストランのある棟だ。

interior design: Wonderwall®︎ photo: photo: Nacása & Partners Inc.
interior design: Wonderwall®︎ photo: photo: Nacása & Partners Inc.
小林武史が厳選した3000枚超のアナログレコードライブラリーのあるMUSIC BAR。 interior design: Wonderwall®︎ photo: photo: Nacása & Partners Inc.

クリスマスやハロウィンなどの飾り付けも特別だし、お正月の松飾りも仏手柑が配されて独特。
時々マルシェが開催されたり、ローカルにしてはなんだかお洒落感覚いっぱいのイベントが行われてきた。

写真:筆者提供

2012年の「グッドデザイン賞」を産業領域のための空間・建築・施設部門で受賞したようだ。
当初は7年間のテンポラリーだったが、2年も延長したと聞いた。
https://from-sora.com/projects/代々木village-by-kurkku/

開業したばかりの頃は、代々木には珍しいのでレコードが天井まで並んだバーやレストランにも行ったが、その後利用するのは入り口近くにあったart bookの店「POST」や、2階にあった小さなギャラリー、暮しに直結するパン屋さん「pour-kur」になり、「POST」が恵比寿に移転したりギャラリーが閉廊してからは、もっぱらパン屋さんだけが必要不可欠な存在になった。

写真:筆者提供
Pour-kurのパン。ベーコンエピやサンフランシスコ・サワーブレッド、手前は豆乳はちみつパン。 写真:筆者提供

ここは辻堂の自家製酵母と石窯ピザのベーカリー「POURQUOI?」との共同出店との謳い文句で、低温長時間熟成の自家製酵母のパンやピザが特徴だ。
レトロバゲット、ベーグル、豆乳はちみつパンなど、片端から試したが、最後に落ち着いたのがサンフランシスコ・サワーブレッド。これは毎日焼くわけでなく、週2日だけだったり、オーダーをするとその翌々日に焼いてくれたりイレギュラーなパンだ。

今年4月から1ヶ月間コロナ禍での臨時休業の間代々木VILLAGEの大扉は閉ざされたままになり、我が家の日々の食卓に必要不可欠だったサンフランシスコ・サワーブレッドが買えなくなった時は困り果てた。
サワードゥブレッド達人にパンの焼き方を伝授してもらい、自宅で何度も焼いて1ヶ月をやり過ごしたくらいだ。1次発酵に12時間、2次発酵に2時間、ひたすら発酵を待ち続けるパンだということが身にしみて分かった。
「pour-kur」が再開してからは再び購入できることになり、自宅でのパン焼き作業は中断した。それが12月29日を最後に閉店するとは……。

そんな中、家から歩いて数分のところにある建物の一部にブルーシートがかかり、ある店がオープンした。

開店当日の「パン屋塩見」。 写真:筆者提供
カンパーニュと食パンそしてKATAIビスケット。自作の薪焚きの石窯でパンを焼く姿がガラス越しに見える。 写真:筆者提供

自家製発酵種を使い、薪で焚く石窯のパン屋さんとのことだった。
十字を切ったパン・ド・カンパーニュを抱く不思議な動物とShiomiの文字「パン屋塩見」という店で、
「カンパーニュ」と「食パン」「KATAIビスケット」の3種類だけを焼くという。
この潔さはどうだろう。
https://www.instagram.com/shiomi_pain/
https://www.youtube.com/watch?v=Ut2OPJttFf0&feature=youtu.be

ロゴマークはOMAのデザイン。https://www.instagram.com/p/CGcbptGjGYz/
写真:筆者提供

パン・ド・カンパーニュは富ヶ谷の「ルヴァン」の系譜のようだが
同じ系譜の「TARUI BAKERY」はもっと軟派、こちらはもっと硬派だ。

「塩見」のパンは顎をしっかり使って噛むパン、独特な酸味も特徴。
今流行の空気と水で膨らませた”ふわふわ高級食パン”とは対極にある。
パン=「日々の糧」という意味を噛みしめたくなるパンだ。

「パン屋塩見」のある建物の前には「田山花袋終えんの地」という碑が建っていて田山花袋はここに自邸を構えて1930年に逝去するまで住んでいたようだ。

写真:筆者提供

そして戦後は進駐軍駐屯地=ワシントンハイツ近くということもあり米軍将校の住居となり、その後は1975年に建築家の納賀雄嗣によって設立された「一色建築設計事務所」となったらしい。
日本における「2×4工法」普及は納賀の力によるところが大きいという。そして今はweb制作会社がこの場所を運営している。

写真:筆者提供

2階建ての建築は中庭に抜ける入り口があり、そこにもパン屋のエントランスにも薪がうず高く積まれている。
石窯を自らつくり上げる過程もこのtwitterで追うことができ、
どうしてこの場所に薪の石窯を築くことになったかの経緯もwebで語られていた。
https://www.monosus.co.jp/posts/2019/12/120000.html

都心にあるこの建物に、もう一つ新しい記憶として積み上げられた薪の束、薪の炎で焼き上げられたパンの香りが加わったことがなんだか嬉しい。

代々木駅周辺では、代々木会館が昨年取り壊された。
1970年代のTVドラマ「傷だらけの天使」のエンジェルビルとして、昨年はアニメ「天気の子」の舞台となったビルだ。

写真:筆者提供

東京オリンピックの頃に、立ち並ぶバラックの移転先としてできたビルだそうだが、なんだか得体がしれない雰囲気で中に入ったことがなかった。このビルも消えてしまうかもしれない予感がして昨年はじめて階段を登ってみた。
階段の踊り場まで本が積み上げられた中国書籍の店「東豊書店」だけが開いていた。

そうこうするうちに「天気の子」が公開され、聖地巡礼で訪れる人が目立ちはじめた頃にはもう解体のための幌で覆われていた。そして今はすっかり姿を消し、更地になったままだ。

写真:筆者提供

街から建物が消えると、数年後にはそこに何があったかの記憶さえ消えていく。
代々木会館跡も、代々木VILLAGE跡もどんなかたちで人の記憶に残るのだろうか?

写真:筆者提供

<関連情報>

□代々木VILLAGE by kurkku
2020年12月29日閉館。
住所:東京都渋谷区代々木1-28-9
http://www.yoyogi-village.jp
http://www.yoyogi-village.jp/news/village/6055.html

□pour-kur
「代々木VILLAGE by kurkku」内
2020年12月29日閉店。
住所:東京都渋谷区代々木1-28-9/営業時間:08:00~19:00 月曜定休
Tel:03-6300-5390
http://www.yoyogi-village.jp/shop/pour-kur/

□パン屋塩見
住所:東京都渋谷区代々木3-9-5/営業時間:12:00~18:00(売り切れ次第閉店)水・木曜定休/Tel:03-6276-6310
twitter.com/shiomi_pain

□TARUI BAKERY
住所:東京都渋谷区代々木4-5-13 1F/営業時間:09:00~19:00 月曜定休 /Tel:03-6276-7610
https://www.instagram.com/taruibakery/

□ルヴァン富ヶ谷店
住所:東京都渋谷区富ヶ谷2-43-13/営業時間:09:00~19:00(火~土曜)、09:00~18:00(日・祝) 月曜、第二火曜定休/Tel:03-3468-9669
https://www.instagram.com/levain_tomigaya_tokyo/
hhttp://levain317.jugem.jp

□『ルヴァンとパンとぼく』甲田幹夫著 平凡社刊
https://www.heibonsha.co.jp/book/b480785.html


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2020/12/15

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