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TOKYO BUCKET LIST. 都市の愉しみ方 お菓子から建築、アートまで歩いて探す愉しみいろいろ。

第22回:お台場とアート

Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、東京在住。武蔵野美術大学卒業後、女性誌編集者を経てその後編集長を務める。現在は気になる建築やアート、展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。


南西側のエントランス。階段を3段上がるとそこは光が天井から入る光の展示室。 写真:yasuhirotakagi

8月にお台場にこういう建築ができていた。
「ARTBAY HOUSE」。

アートとは縁のないこの埋め立て地に、「人と場所をアートで繋ぐ」まちづくりプロジェクトARTBAY TOKYOの拠点となるパビリオン(アートスペース、カフェ、インフォメーション・デスク)として稼働するという。
建築家は萬代基介。

観覧車や巨大ショッピングモールなど娯楽施設が乱立する広大な埋め立て地・臨海副都心、その中心を「都立シンボルプロムナード公園」という緑地が4kmにわたって真っ直ぐに貫いている。遊歩道の緑は美しいが、とりとめなく配されたオブジェはいただけない。

ARTBAY HOUSEはそのプロムナード公園のほぼ中央に位置するが左右の騒々しいビルを視野に入れずに正面から見ると、エントランスに続くうねる道、植栽、建築の佇まいすべてが清々しい。まるで“掃き溜めに鶴”のような風情だ。

この建築は、約16m×16m、およそ250㎡の正方形の敷地に、天井高も壁や天井の素材も違う8個の部屋を配置して成り立っている。
ほとんどの壁面は、無数の細いスティールロッドが並べられた風も光も通り抜けるカーテンウォールで構成され、床は白い軽石の砂利が敷かれている。そこに植えられた木々は、戦前の埋め立て地に自生していた植物をリサーチして選ばれたものだという。天井はそれぞれの部屋で素材や構造が違い、光や風、雨も通過させている。

なんと軽やかで美しい建築だろう。

写真:yasuhirotakagi
写真:yasuhirotakagi
中央は天井から雨が落ち緑の育つ部屋。左はカフェスペース、右は室内展示やレクチャー用の部屋。 写真:yasuhirotakagi
雨が伝う壁とその雨で育つ緑のある部屋。壁に伝うツル植物は、クズ、ツルアジサイ、テイカカズラ、ナツヅタなど。 写真:yasuhirotakagi
ARTBAY HOUSE内に設置されたARTBAY CAFE。期間限定でオープンしている。 写真:yasuhirotakagi

萬代基介の仕事を知ったのは日本橋の「木屋」(2014年)。その後デザイナー須山悠里さんが開いた富ヶ谷の小さなギャラリー「nani」、青山の「スパイラル」1階のワイヤーがウネウネとした什器、東京ミッドタウンの「木屋」と気になる作が続いた。
馬喰町にあった「TARO NASUギャラリー」で行われた「ユメイエ」展(2017年)。これは日本の若手建築家たちが作成したドローイングと模型を通じて紹介する企画で、ようやくそこで萬代のポートフォリオを見て、彼の作品の全貌を知ることになった。
妹島和世、石上純也に続く系譜の一つを見た気がしたものだ。

日本橋 木屋本店 izutuki。小口2mmの薄い棚板によって商品が浮かび上がるような空間に。 写真:yasuhirotakagi
ギャラリー nani 。木造住宅の一室に3つの大きな壁のような扉を設置。それぞれの扉の角度で、互いに干渉し合う不思議な空間が生まれた。 写真:yasuhirotakagi
青山スパイラルのエントランスコミュニケーション・スペースMINA-TO。2.6mmφの繊細なステンレスメッシュを曲面状に組み合わせた軽いキューブ。 写真:yasuhirotakagi
日本橋 木屋 東京ミッドタウン店。空間の中央には5本の無垢の木材が浮かんでいるように並んでいる。それを支えるのは細い鉄骨のフラットバー2本のみ。 写真:yasuhirotakagi
写真:Anna Nagai
ユメイエ展。千葉学が選んだ日本の若手建築家11組による「夢の家」をテーマに制作したドローイングと、模型で紹介するというもの。主催は石川文化振興財団。萬代基介は「自然と共に生きる家」を制作。建築が環境をつくるのではなく、今ある環境の中に建築がひっそりと寄り添うように建っている。 写真:Anna Nagai
写真:筆者提供

9月27日までの9日間、ARTBAY TOKYOとしてはじめてのアート プログラムが開催された。
「明和電機 ナンセンス ファクトリー」。

土佐信道プロデュースによるアート・ユニット「明和電機」がその創造活動の中核となる明和電機の工場(アトリ工)を限定でここに移動させて公開するというもの。
会期中は、明和電機社長・土佐信道が出勤し、午前中は発想のスケッチを描き、午後はナンセンスマシーンの組立作業、夕方からは電動楽器による演奏を行った。
明和楽器を配置した「サウンド・ガーデン」では、来場者がスイッチ・オンし、それらの作品を自由に稼働させることができた。併設する明和電機ショップでは、ファクトリーでの制作物を含むオモチャやグッズを販売。カフェでは明和電機に因んだメニューのドリンクも楽しめるという魅力的な企画だ。明和電機の「発想する、作る、見せる、売る」という全プロセスをリアルに体験することができるという他に類を見ないプログラムだった。

明和電機のロゴが設置されたARTBAY HOUSEと土佐信道 明和電機代表取締役社長。 写真提供:明和電機
魚器シリーズ 魚型電動ハープ 魚立琴。 写真提供:明和電機
13週目の胎児 サバオの顔。天井から陽光が降り注ぐ光の展示室。 写真提供:明和電機
ベストセラー楽器オタマトーンなどがずらりと並ぶ明和電機goodsを販売するコーナー。 写真提供:明和電機
提供:明和電機

明和電機のアート活動は、電気製品を生産する中小企業のスタイルをとっていて、アーティスト土佐信道は「社長」、アシスタントやスタッフは「工員」、アート作品は工業製品の体裁をとり「製品」と呼ばれ、大きく「魚器」「ツクバ」「ボイスメカニクス」「エーデルワイス」という4つのシリーズに分類されている。
https://www.maywadenki.com/products/

作品の多くは一点もののいわゆるアートピースだが、注文生産のマルチプルの量産「製品」をGMと呼び、明和電機のアトリ工(エの字は工場の“工”)で アルミニウムの削り出しから樹脂加工、電気配線まで、すべて明和電機社長・土佐信道の品質管理のもとで生産。 一点一点が手作業で組み立てられる製品は、驚くほど工業製品に近い芸術作品だ。

芸術を出発点にして「不可解」から「ナンセンス」創出。そこからナンセンスマシーンをつくり、それを「マスプロダクト」「マスプロモーション」というふたつの「マスプロ」に落とし込むことで収益をあげ、次のナンセンスマシーンの開発資金を得て活動を持続させているという明和電機の構造図。
https://www.maywadenki.com/blog/2017/01/01/751/
画像提供:明和電機

ナンセンス ファクトリーでは、魚器シリーズGM製品の中の「サバオ GMNAKI-SO」と「弓魚4号 イトツギ GMNAKI-Y4」が、日々土佐社長の手によって生産されていた。

左)「サバオ GMNAKI-SO」。13週目の胎児の顔のピストル型腹話術人形。ピストル型のグリップの引き金を引くとアゴが動く。右)「弓魚4号 イトツギ GMNAKI-Y4」。魚の形の弓。本体頭部にある的(まと)に外部からの矢が刺さると、自身の矢を発射する。糸で飛翔の軌跡を記録する。
注文は「明和電機STORES」(https://maywadenki.stores.jp/)で。
写真提供:明和電機

社長室兼ファクトリーには、武蔵小山のアトリ工から明和カラーのボール盤やベルトサンダーが運び込まれ、熟練した技を見せる名工のような姿が連日YouTubeで配信されていた。
https://www.youtube.com/watch?v=duLVNHnW6TI

これは、自身のスタジオを24時間10年間撮り続けたC.ボルタンスキーの作品 「The Life of C.B.” (2010) 」を見るような感覚だった。
https://flash—art.com/article/david-walsh/

このフライヤーには何故か「社長 超合金」というマジンガーZを彷彿とさせるフィギュアが登場。
https://www.youtube.com/watch?v=o2UWAY38VBQ
社長 超合金ロボは、社長の執務室兼工場にも置かれていた

画像提供:明和電機
写真:筆者提供
午前中はアイディアスケッチ。 画像提供:明和電機
午後はGM魚器の生産。 画像提供:明和電機

「GM」は「Gundam type Mass-production model」の頭文字の略と言われている。

土佐社長はガンダムを意識したのだろうか?

かつてお台場にガンダムが降臨したことがあった。2009年のことだ。
お台場潮風公園の太陽の広場の中央に海を見て屹立するRG 1/1 RX-78-2 ガンダム、これは、いまだに鳥肌が立つほどの感動が蘇る体験だった。
18mの実物大ガンダムは、そんじょそこらのアートのオブジェなど遠く及ばないほど人々の心を揺さぶった。

写真:筆者提供
写真:筆者提供

それ以来、お台場にはアートがない。
ダイバー・シティ東京プラザ前にもユニコーン・ガンダムが設置されているが、これは似て非なるものだった。

1980~90年代にかけて、いち早く草間彌生やヨセフ・ボイス、イブ・クラインなど現代アートを相次いで紹介した河田町にあった「フジテレビギャラリー」が、現代美術館としてお台場に移転されていたら日本のアートシーンはどうなっていただろうと思う。

FCG(フジ・メディア・ホールディングス)ビルという丹下建築とは思えないようなポストモダンなビル内には同名のフジテレビギャラリーという場があるようだが、今はガチャピン・ムックの展示が行われているらしい。やれやれ。

ARTBAY HOUSEが明和電機をアート・プロジェクトのスタートにしたのは賢明な判断だったと思う。
アート不在のお台場がアートの発信地になりうる可能性を感じる建築と展示だったからだ。
これからの企画次第だが、あの空間をどう使いこなすか、アーティストの技量が試されることだろう。


<関連情報>

□ARTBAY TOKYO
https://artbaytokyo.com

□萬代基介建築設計事務所
http://mndi.net

□明和電機
https://www.maywadenki.com

□明和電機 ナンセンス ファクトリー
https://www.maywadenki.com/news/nonsensefactory/

□GM魚器販売のお知らせ
https://www.maywadenki.com/news/gmnaki2020/

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2020/10/01

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