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TOKYO BUCKET LIST. 都市の愉しみ方 お菓子から建築、アートまで歩いて探す愉しみいろいろ。

第20回:民藝からグッド・デザインまで

Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、東京在住。武蔵野美術大学卒業後、女性誌編集者を経てその後編集長を務める。現在は気になる建築やアート、展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。


昭和8年(1933年)竣工当時の日本橋髙島屋。 写真提供:髙島屋

「日本橋髙島屋」といえば、やはり2009年に重要文化財に指定されたこの建築。昭和8年(1933年)、高橋貞太郎の設計により「日本生命館」として竣工。その後全館が髙島屋になり、戦後、村野藤吾による幾度かの増築によって今の姿になった。

20190304 archit 重要文化財 日本橋髙島屋
https://www.youtube.com/watch?time_continue=10&v=DX8UGWT187E&feature=emb_logo

昨年の3月「日本橋髙島屋と村野藤吾」という展示が小さな史料館(髙島屋史料館TOKYO)で開催された。その時にこのフィルムが上映されていたが、高橋の東洋趣味の様式建築を尊重しつつ、新しい時代の建築と融合させるという難題を村野がいかに克服したかがわかるものだった。
窓のアールや天井の素材、階段室のディテールには、増築を重ねクラシックからモダンへ緩やかに変貌させてきた約30年間の時間の重なりが見える。日本橋髙島屋は、こんなことが体験できる稀有な名建築だ。

写真提供:髙島屋
写真提供:髙島屋

髙島屋は、柳宗悦が提唱した「民藝運動」の普及を初期の頃から支持していた百貨店だ。「日本民藝館」の設立(1936年)に先立って、約2万点を展示即売した 「現代日本民藝展覧會」展(1934年)を竣工したばかりの日本橋髙島屋で、翌年は大阪髙島屋で開催。「民藝」との関わりは 100 年近くにもなるという。

写真提供:The collection of John Driscoll & the Mingei Film Archive
写真提供:The collection of John Driscoll & the Mingei Film Archive
写真提供:The collection of John Driscoll & the Mingei Film Archive

これまで、日本橋高島屋では2012年、2014年、2017年と民藝の展覧会と展示・即売の民藝展をセットで開催してきた。
民藝の展覧会として開催した「生誕125年 東と西の出会い バーナード・リーチ展」(2012年)、「生誕120年記念 デザイナー芹沢銈介の世界展」(2014年)と続き、3年前の「民藝の日本 -柳宗悦と『手仕事の日本』を旅する-」(2017年)も素晴らしかった。

写真提供:髙島屋

この展覧会で目の当たりにしたのは六曲二双、四曲一双で日本地図になる芹沢銈介作の13mあまりの屏風。「現代之日本民藝」だ。
民藝運動の基礎をつくった柳宗悦が20年あまりをかけ日本全国を巡って工芸品を調査した成果と、東日本・中日本・西日本3つのエリアから成るこの地図に合わせて、昭和期の代表的な民芸品を紹介する展示だった。
3年前の展覧会初日には、日本民藝館学芸部長の杉山享司氏のトークがあり、柳宗悦の「白樺」から「民藝」への深化とその経緯の話からはじまった。「白樺派」のためにロダンから3点の彫像が贈られ、それは当時日本に存在しえた唯一のロダン作品だったという。バーナード・リーチの描いた柳の部屋の絵の棚の左端に置かれているのが、ロダンの「或る小さき影」。

これらのロダン作品をつぶさに見たいと訪ねてきたのが、のちに朝鮮古陶磁研究者となる浅川伯教あさかわのりたかだ。
彼の手土産「染付秋草文面取壺」との出会いから韓国陶磁、韓国工藝に目覚め”西洋”から”東洋”へ、”美術”から”工藝”へと視界が開け、朝鮮陶磁のコレクターを山梨に訪ねた時に木喰仏に出会う。その後日本国内さまざまな場所にある木喰仏を訪ねる最中に、地方の手仕事=工藝に出会ったという。

杉山氏はレクチャーの最後を「柳は『民藝』を愛したのではなく、『美』を愛していた。」
「柳は過去への賛美や、古いものを保管するだけでなく、将来への新しい創作への準備をしていた。」と結ばれた。

今回開催されているのは「展示・即売 民藝展 いまの暮らしに、健やかな美を。」(2020年8月26日~9月6日 日本橋髙島屋/2020年9月9日~14日 大阪髙島屋)という全国の民藝の品の即売会で、今回、ここにいくつかの展示が企画されている。
中でも「民藝運動フィルムアーカイブ」の特別上映は必見。バーナード・リーチが1934~35年にかけて来日した際に自ら撮った16mmフィルムをデジタル化し、修復再編集をした映像の数々だ。
http://mingeifilm.martygrossfilms.com

1934~35年に開催された「現代日本民藝展覧會」では濱田庄司考案設計の食堂、河井寛次郎考案設計の台所などの部屋も設置されたが、中でもバーナード・リーチ考案設計の書斎は壁面を自在に活用し、大胆でモダン。 写真提供:The collection of John Driscoll & the Mingei Film Archive
写真提供:The collection of John Driscoll & the Mingei Film Archive
写真提供:The collection of John Driscoll & the Mingei Film Archive
写真提供:The collection of John Driscoll & the Mingei Film Archive

3年前、有楽町にあった「ATELIER MUJI」 での展示「民藝運動フィルムアーカイブ 名も無き美を求めて1934−2017」展ではじめてそのプロジェクトの存在を知ったが、これは本当に素晴らしい。
1934~35年に日本橋と大阪の髙島屋で開催された「現代日本民藝展覧會」を撮影した映像もあり、その斬新さに度肝を抜かれる。

民藝をこれからの暮らしに生かすという展示もあり、菓子研究家の福田里香さんが「民藝を食べる」というテーマでダイニングテーブルをコーディネートしている。

富山八尾和紙の箱、イギリスのスリップウエア、そして箒は長野 米澤ほうき工房の松本箒。壁紙は1872年初版のウイリアム・モリスデザインのLarkspur ひえんそう。 写真:福田里香
スリップウエア、小鹿田焼跳び鉋、やちむん白化粧土掻き落としなどの皿に、弘前こぎん研究所のこぎん刺しくるみボタンを箸に添えて。グラスは倉敷ガラス、カトラリーはカイ・ボイスン。 写真:福田里香
椅子の座面には、外村吉之介が創設した倉敷本染手織研究所のノッティング織椅子敷。テーブルに飾られた花は山形米沢の笹野一刀彫 笹野花という冬時期に飾る造花。彩色せずに生地のままで。奥の椅子に置かれたのは蒜山のがま細工籠、手前の椅子のアームにかけられているのは山形県鷹山・山ぶどうの籠バッグ。 写真:福田里香

お菓子やfoodの著作が多い福田さんだが、2冊の民藝に関する著書もある。『こぎん刺しの本─津軽の民芸刺繍』(文化出版局 刊)と『民芸お菓子』(ディスカバージャパン 刊)がそれだ。
彼女と知り合って何年か経った頃、印花布が表紙を彩る『来鳥手帖』(2004年)という不思議な小冊子をいただいた。福田さんが帆布のトートバッグ作家ミツバチトートの束松陽子さんを連れて鳥取の民藝を巡る旅の物語だ。

『来鳥手帖』と『来森手帖』。 写真:福田里香

ふたりは「民藝」をテーマに、布でつくられた物=布芸の魅力を展示会形式で発表する「布芸展」という活動を開始。2冊目は『来森手帖』(2005年)で、表紙のビジュアルはこぎん刺し。弘前にこぎんを訪ねるというものだった。先の2冊の著書は、この小冊子から生まれたと言っても過言ではない。

「来鳥手帖」の冒頭に福田さんの文章「民芸運動家の娘」があり、そこではじめて彼女の両親が熱心な民藝運動家であり、柳宗悦の価値観に深く根差した”民藝的生活環境”で育ったことを知ることになる。
福田さんの父の福田豊水氏は熊本県の伝統の小代瑞穂窯を再興した方で民藝店も営んでいたという。日本各地の民藝館をご両親と共に巡り、幼少期に外村吉之介に幾度か会っているそうだ。昨今のブームで民藝を知った人とは年季が違うし育ちが違う。

妹の福田るいさんは小代瑞穂窯の2代目を継いでいる。「伝統とは、灰を守ることではなく、熾を密かに保ち続けることである」とるいさんはグスタフ・マーラーの名言をひきながら自らの仕事を語っている。柳宗悦に心酔していた御両親とはまた別のベクトルで福田姉妹が民藝の価値を拡めている姿は爽快だ。

写真左:『こぎん刺しの本─津軽の民芸刺繍』(2009年 文化出版局)は、束松陽子との共著。藍染の麻布に白い木綿糸で補強のために刺された整然と並ぶステッチ。それを生成りの麻に変えて木綿の色糸で刺すと……。 写真右:『民芸お菓子』(2018年 ディスカバージャパン)の表紙は、鳥取宝月堂の生姜せんべい。『来鳥手帖』で言及した鳥取民藝美術館の創立者・吉田璋也がプロデュースしたお菓子だ。柳宗悦が鳥取を訪ねた際に古い駄菓子屋でその美味しさを「発見」した一枚売りのせんべい。それを吉田は紙箱に納め、人にも薦めた結果、郷土菓子として定着したという。
写真上は「民芸お菓子」の見開き。左は、霰三盆糖で、白木の曲物を和紙で封印した日本伝統のパッケージ。右は柳宗理デザインの青柳ういろうの包装。昭和20~50年代に使われていたデザインを平成23年に複製。写真下は「こぎん刺しの本」の見開き。左は江戸から明治期の津軽地方に伝わる筒袖の野良着。右はジーンズのひざ当てにこぎん刺しをほどこしたもの。 写真:福田里香

これも現代の民藝のあり方だなと感じたのは、2014年に「パナソニック汐留美術館」で開催された「メイド・イン・ジャパン南部鉄器-伝統から現代まで、400年の歴史」展で堀井和子さんが手掛けた「北東北のテーブルコーディネイト」だ。モダンでシャープだが暖かでおおらかな食卓。北欧の手工芸にも通じる東北地方の人々の手仕事がもたらした豊かさのなせる技だった。

岩手盛岡 宮伸穂の鉄鍋、大木夏子の型染めのテーブルクロス、岩手二戸の浄法寺漆器重箱、秋田大仙 星耕硝子のガラス器、岩手久慈の小久慈焼の糠白釉八寸皿、新潟燕三条のカトラリー。 写真:筆者提供

柳宗悦は1920年代に「失われて行く日本各地の『手仕事』の文化を案じ、近代化=西洋化といった安易な流れに警鐘を鳴らしました。物質的な豊かさだけでなく、より良い生活とは何かを民藝運動を通して追求したのです。」(日本民藝協会 「民藝運動について」より) そして、残すべき「民藝品」の特性として9つの項目を挙げている。

⚫︎実用性。鑑賞するためにつくられたものではなく、なんらかの実用性を供えたものである。
⚫︎無銘性。特別な作家ではなく、無名の職人によってつくられたものである。
⚫︎複数性。民衆の要求に応えるために、数多くつくられたものである。
⚫︎廉価性。誰もが買い求められる程に値段が安いものである。
⚫︎労働性。くり返しの激しい労働によって得られる熟練した技術をともなうものである。
⚫︎地方性。それぞれの地域の暮らしに根ざした独自の色や形など、地方色が豊かである。
⚫︎分業性。数を多くつくるため、複数の人間による共同作業が必要である。
⚫︎伝統性。伝統という先人たちの技や知識の積み重ねによって守られている。
⚫︎他力性。個人の力というより、風土や自然の恵み、そして伝統の力など、目に見えない大きな力によって支えられているものである。
(日本民藝協会「民藝」の趣旨─手仕事への愛情より)

このようにものを生産する社会状況に疑問を呈し、自問自答する人物は現代にもいる。現代の家電の基礎をつくったといわれる「BRAUN」を1960年代から牽引したインダストリアル・デザイナー、ディーター・ラムスだ。
彼はバウハウスの理念を継承したウルム造形美術大学の教育の影響を受けた人物で、世の中に溢れるものについて「形と色は計り知れないほどの混乱に満ちている。」と嘆き、「自分のデザインは、果たしてグッド・デザインと言えるのだろうか?」と自らに問う。そして1980年代に彼は10 Principles of Good Design─グッド・デザインに必要な10の原則を定義した。 彼に続く多くのデザイナーに最も影響力を与えた十箇条だ。

Dieter Rams グッド・デザインの10の原則
1. 革新的
2. 実用的
3. 美しい
4. 分かりやすい
5. 主張しない
6. 誠実である
7. 長持ちする
8. 細部まで完璧
9. 環境にやさしい
10. 純粋で簡素

民藝運動がはじまって約100年、これからの「民藝」はどのような姿になっていくのだろうか。
柳宗悦は「過去への賛美、古いものを保管するだけでなく、将来への新しい創作への準備をしていた。」そうだ。
村野藤吾はクラシックを否定することなくモダンへと移行して行った。そしてディーター・ラムスの十箇条もある。

中央のガラスのテーブルランプはイタリアのアンジェロ・マンジャロッティがデザインした吹きガラスによるもの。椅子はMUJI refineシリーズ ラウンドチェアをIDÉE TOKYO限定の黒塗装で。

東京駅のグランスタ東京に8月3日にオープンしたばかりの深澤直人がキュレイションやデザインに関わった「IDÉE TOKYO」は本当に美しく魅力的なスペースだ。
韓国の白磁もあれば益子で焼かれた「BOTE & SUTTO」もある。エンツォ・マーリのオブジェもあればギャラリーでは黒田泰蔵の個展も9月1日まで開催され、9月4日から10月20日までは柚木沙弥郎 個展 “FOLKARTIST”が開催される予定だ。
スペースのコンセプトに「人の暮らしに寄り添うデザイン、民藝、アートを今の審美眼で選びなおし、紹介していく」とある。

BOTE&SUTTO。深澤直人ディレクションによる益子にある3つの窯元との新しい陶器シリーズ。
羊羹(とらや共同開発)数量限定。長尾智子さんがディレクション。エンツォ・マーリのプロダクトがイメージソースでIDÉE TOKYO 及びとらや グランスタ売店(販売店)のみでの販売。
IDÉE TOKYOのオープニング企画として併設するIDÉE GELLERYで8月3日~9月1日まで開催されていた陶芸家 黒田泰蔵 個展「不完全な完全」 梅瓶や台皿が並ぶ様は壮観。

ここは現代の「民藝」のあり方のある種理想形のような気がする。
日本民藝館の5代目館長である深澤直人は、ディーター・ラムスを敬愛するデザイナーの一人に挙げていたことを思い出した。


<関連情報>

□「日本橋髙島屋と村野藤吾」展
https://www.takashimaya.co.jp/shiryokan/tokyo/archives/exhibition_vol1.html

□高橋貞太郎
https://www.biz-lixil.com/column/pic-archive/inaxreport/IR185/IR185_p04-16.pdf

□村野藤吾
http://www.hetgallery.com/murano.html
https://www2.nhk.or.jp/archives/jinbutsu/detail.cgi?das_id=D0009250091_00000

□「民藝運動フィルムアーカイブ」
http://mingeifilm.martygrossfilms.com
「民藝運動フィルムアーカイブ 名も無き美を求めて1934−2017」展
https://atelier.muji.com/jp/exhibition/1285/

□福田里香
「民芸お菓子」

https://www.ei-publishing.co.jp/magazines/detail/discover-japan-c-476861/
「こぎん刺しの本─津軽の民藝刺繍」
http://books.bunka.ac.jp/np/isbn/9784579112654/

□小代瑞穂窯 福田るい
http://kumamoto-kougeikan.jp/archives/toujiki/syoudaiyaki/rui_f.html

□「メイド・イン・ジャパン南部鉄器 -伝統から現代まで、400年の歴史」展
https://panasonic.co.jp/ls/museum/exhibition/14/140111/ex.html

□ディーター・ラムス
https://www.vitsoe.com/gb/about/dieter-rams
https://www.vitsoe.com/jp/about/dieter-rams

□Ten principles for good design
https://www.vitsoe.com/gb/about/good-design

□深澤直人
https://naotofukasawa.com/ja/about/

□IDÉE TOKYO
https://www.idee-online.com/shop/contents1/ideetokyo.aspx

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2020/09/04

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