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TOKYO BUCKET LIST. 都市の愉しみ方 お菓子から建築、アートまで歩いて探す愉しみいろいろ。

第18回:六本木・カルチュラル・ディストリクト

Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、東京在住。武蔵野美術大学卒業後、女性誌編集者を経てその後編集長を務める。現在は気になる建築やアート、展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。


六本木に来るのは半年ぶりだ。

「21_21 DESIGN SIGHT」で開催された、「㊙展 めったに見られないデザイナー達の原画」展でのトークイベントに来たのが最後だった。

六本木にはデザイン、建築、artの美術館やギャラリーがいくつもあるので、そこが閉館している限り、あまり来る意味が見当たらない。
6月からは延期になっていた「国立新美術館」の企画展「古典×現代2020―時空を超える日本のアート」が開催され、7月には昨年の11月から改修工事の為休館していた「サントリー美術館」がようやく2ヶ月遅れでリニューアル・オープンした。

資料提供:国立新美術館

「古典×現代2020」は、デザイナー、建築家、漫画家を含む8人のクリエイターが、 江戸時代の陶工作品、浮世絵、日本画、木彫仏/平安から江戸時代までの刀剣/ 鎌倉時代の菩薩像などさまざまな時代の古典作品と対話するもの。
そこから浮かび上がるものを、鑑賞者がどのように受けとめるのかがキーとなる展示だ。

私が最も感動したのは、湖東三山の名刹「西明寺」の鎌倉時代の日光菩薩、月光菩薩の2体の仏像。

左:《月光菩薩立像》 鎌倉時代・13世紀  滋賀・西明寺/右:《日光菩薩立像》 鎌倉時代・13世紀 滋賀・西明寺

修復されたばかりの菩薩像を建築家・田根剛は暗闇の中、上昇下降するペンダントライトの仄かな光で浮かび上がらせた。
そしてその空間を満たすのは、西明寺と比叡山の僧侶による天台声明「法華懺法」と「例時作法」。天台宗の寺では朝に法華経を読み、夕暮れに阿弥陀経を読むという。

《光りと祈り》「仏像×田根剛」の会場風景 撮影:上野則宏

「完全暗転の後に、ほんのり差し込んだ光の先に日光菩薩が手にする標幟の『太陽』と月光菩薩の持つ『月』を照らし、そこから光が広がるようにしました。菩薩の半眼の奥には水晶の眼球があり、それが光の動きによって煌めくようになっています。その眼力に触れる瞬間もまた別次元の特別な体験になっています。日の光、月の光、その光明によって救いを行う菩薩と『祈り』というテーマをつなげたいと思いました。」と田根。

《月光菩薩立像》(部分) 写真提供:田根剛

光と祈りの多声楽の空間。時空を越えるとはこのことだろう。
かつて田根が舞台装置を手掛けたダンスにも、多数のペンダントライトを効果的に使ったものがあったことを思いだした。
彼の作品は確実に深化している。

「花鳥画×川内倫子」の会場風景 撮影:上野則宏
川内倫子《無題》シリーズ〈AILA〉より 2004年 作家蔵 © Rinko Kawauchi

そして川内倫子の作品にも見入ってしまった。
以前見た作品がほとんどだが、ムクドリが群れをなして飛ぶ「murmuration」と河北省の奇祭「打樹花」の火の粉が飛び散る映像の衝撃はどうだろう。写真美術館で見た「あめつち」の阿蘇の野焼きの映像も、8年も前のことになるのだが鮮明に蘇えってくる。江戸期の「花鳥画」とのリンクなど忘れて、川内作品の芯の揺るぎなさに圧倒された。
http://rinkokawauchi.com/video_works/
Halo:http://rinkokawauchi.com/works/172/

鶴洲《木蓮に叭々鳥図》 江戸時代・1776(安永5)年5月  神戸市立博物館
展示期間:8月5日~8月24日

皆川明×尾形乾山は、図柄の相似を意識した展示よりも、ガラスケース内に並べられたminä perhonenのハギレと、乾山鳴滝窯に打ち棄てられた完品になれなかったうつわのかけらの展示に心惹かれた。

「乾山×皆川明」の会場風景 撮影:上野則宏
さまざまな刺繍や織や染めのminä perhonen のpiece=かけらと呼ばれるハギレの数々。そこに鳴滝窯跡の出土品、乾山陶片を配置。 写真提供:minä perhonen
minä perhonen《ring flower》 2005-06年 秋冬コレクション

皆川は、裁断した結果出るハギレを「piece=かけら」と呼んで、廃棄せずさまざまなかたちで生かし、ハギレのセットの売り上げを寄付してきた。
皆川にとってもハギレは価値あるかけらであり、法蔵禅寺が完品同様に大切に保管してきた窯跡から出土した遺物・乾山陶片の競演は意味が深いように思う。

尾形乾山《銹絵百合形向付》 江戸時代・18世紀 MIHO MUSEUM 撮影:越田悟全

国立新美術館を後にすると、目前に吉岡徳仁によるガラスの茶室「光庵」が据えられているのが見える。
京都市街を俯瞰する「将軍塚青龍殿」の大舞台に設置されていた時の「光庵」は未来と古(いにしえ)を繋ぐ存在に見え、心が震えた。ここで光庵に出会えるとはなんという幸運。うねるガラスの壁面の国立新美術館を背景にすると、美しいガラスのオブジェのように見えるのはなぜだろう。「場の力」という言葉が浮かんだ。
サントリー美術館と21_21 DESIGN SIGHTのある東京ミッドタウンには多くのアートワークが配されているが、特に地上と地下の2カ所に据えられている安田侃の彫刻は滑らかでおおらかな曲線を描き、いつも心おだやかになる。エントランスのブロンズ「妙意」と地下のトップライトの光を浴びる白い大理石の「意心帰」。芸術作品は通常触ることを禁じられているが、安田の考えと作品の包容力からいつも小さな子どもが笑顔で近づき、よじ登ったりもしている。これもなんという贅沢で豊かな体験だろう。

写真:筆者提供
写真:筆者提供

サントリー美術館では美術館所蔵の主に鎌倉、室町、桃山、江戸時代の名品の数々を「装い」「祝祭・宴」「異国趣味」の3章を建て構成して見せる『ART in LIFE, LIFE and BEAUTY』展が開催中だ。

まずは天を突く青磁の剣のオブジェ「遙カノ景 <空へ>」(深見陶治・作/1996年)、そして鎌倉時代の国宝「浮線綾螺鈿蒔絵手箱」に迎えられる。

遥カノ景 <空へ> 深見陶治 平成8年(1996) サントリー美術館
国宝 浮線綾螺鈿蒔絵手箱 鎌倉時代/13世紀 サントリー美術館

「装い」で目を引いたのは「誰ケ袖」と「鎧兜と戦のいで立ち」だ。
「誰ケ袖」は、室内に持ち主を想起させる装束やさまざまな身の回りの品を配した絵のことをいい“これは誰の衣装なのか”という意味だという。
衣桁に能装束がかけられ、贅を凝らした蒔絵の品々を配した再現があり、江戸時代の「誰ケ袖図屛風」、続いて現代作家・山本太郎が描いた「熊本ものがたりの屛風 女性のハレの日金屛風」(2017年)と「誰ケ裾屛風」(2005年)が並んでいる。

誰が袖図屛風 六曲一双のうち左隻 江戸時代 17世紀/サントリー美術館
山本は、2016年の熊本地震で被災した表具材料店に残されていた屏風を譲り受け、修復した上で誰ケ袖屏風の作風に合わせて被災者にとって思い出のある品々を募集し描いた。三曲なのは一曲が震災で欠損した為、その記憶を留めておくためにあえて三曲のままにした。
熊本ものがたりの屛風 女性のハレの日金屛風 山本太郎 三曲一隻 平成29年(2017)
撮影:草彅裕

豪奢な衣装や螺鈿や金蒔絵の遊具の代わりに2005年の「誰ケ裾屏風」に山本の描いたものは、西堀普デザインのP-CASE CDプレイヤーやPower book G3 1999などの機器、そしてminä perhonenのソーダウォーター柄のトートバッグ。
この部屋の主は2000年代初頭に生きていて、かなりデザインに敏感なのだろうということがわかる。

そして、その先の「鎧兜と戦のいで立ち」の展示ケースの中には、桃山時代の朱塗りの鎧兜の隣に野口哲哉作の極小の侍がその鎧兜を身につけ、やれやれといった風情で座っている。

手前:WHO ARE YOU ~木下利房と仮定~ 野口哲哉 令和2年(2020) 奥:朱漆塗矢筈札紺糸素懸威具足 サントリー美術館 © 木奥惠三
朱漆塗矢筈札紺糸素懸威具足 一具 桃山時代 16~17世紀 サントリー美術館
「賀茂競馬図屏風」(江戸時代/17世紀)には、平安時代から京都賀茂で行われた神事とその競馬を見守る町衆が描かれている。それを野口作品の鎧兜姿の武者たちが眺め、それをまた現代人である我々鑑賞者が眺めている。まるでドロステ効果のような関係性を展示で見せるとは見事。
手前左から:野口哲哉 THE MET, RED MAN 2016, Avatar 1ー現身―, FRONTEER, Un samurai vient いずれも個人蔵 奥:賀茂競馬図屏風 サントリー美術館 ©木奥惠三

野口は、鎧兜姿の戦国武将や合戦絵巻をミニチュアの立体や絵画で表現する作家だ。最初に知ったのはシャネル主催のグループ展で、シャネルのCCのブッチガイマークをまるで戦国時代の輪違い文のように旗指物や胴に配した『シャネル侍』を出展していた。
その後「アサヒビール大山崎山荘美術館」での個展を見て、その膨大な資料の収集や深堀りの考察、緻密な作品づくり、テーマを現代に置き換えるアイロニカルでユーモア溢れる視点に魅了されてしまった。最近では戦国時代と同じ中世の西洋絵画の様式美に則った作品もつくっている。

豊臣秀次所用という伝承がある美術館所蔵の名品を、野口は木下利房きのしたとしふさとおぼしき人物に着せている。それはどうしてか。
伝来や制作年に光を当て再考察する野口の姿勢がそうさせたと図録にあったが、それを許容するサントリー美術館の懐の深さもさすがだ。

展示は山口晃作品と南蛮屛風の対比まであり、眼福が続く。

重要文化財 南蛮屛風 伝 狩野山楽 六曲一双のうち右隻 桃山時代 17世紀初期/サントリー美術館(展示期間:7/22~8/17)
Bの旗印の元に数名の南蛮人の姿を発見。
成田国際空港 南ウィング盛況の圖 山口晃 平成30年(2018)ミヅマアートギャラリー ©︎YAMAGUCHI Akira, Courtesy of Mizuma Art Gallery

美術館のリニューアルは天井の耐震強化、映像音響設備の刷新などの構造面なので、表面的にはあまり大きな変更は見られないが、エントランスのガラスのカウンターが際立った変化だ。これは六本木で100年以上続く「三保谷硝子店」の制作だと、隈研吾が語っているのを最近読んだ。

そういえば。
「アクシスギャラリー」で「三保谷硝子店 101年目の試作展」という展覧会が開かれたのは、もう10年以上前のことだ。

「三保谷硝子店 ー 101年目の試作展」AXIS Gallery ©️Hiroyuki Hirai

倉俣史朗の作品によって「ガラスがデザインの力になれることがわかった」と三保谷硝子三代目社長の語る言葉が印象的だった。2017年には21_21 DESIGN SHIGHTで『吉岡徳仁 光とガラス』展もあった。あの倉俣のガラスの椅子がなければ、日本におけるガラスによるプロダクト・デザインは今のようではなかったに違いない。
そんなことを気づかせてくれるのが六本木にあるギャラリーだ。

さて、まだ閉館したままで開館が待たれるのは建築の展示がいつも素晴らしいTOTOが運営する「ギャラリー間」だ。
5月に予定されていた「妹島和世+西沢立衛/SANAA展『環境と建築』」がいつ開催されるのかが、今一番気になる。


<関連情報>

□21_21 DESIGN SIGHT
http://www.2121designsight.jp
「吉岡徳仁 光とガラス」
http://www.2121designsight.jp/gallery3/glass_project/

□国立新美術館
https://www.nact.jp/

□「古典×現代2020―時空を超える日本のアート」
https://kotengendai.exhibit.jp/

6月24日(水)~8月24日(月) 休館日=火曜日 開館時間=10時~18時 混雑緩和のため、本展では事前予約制(日時指定券)を導入している。 入場にあたってはすでにチケット等を持っている人も含めオンラインでの「日時指定観覧券」もしくは「日時指定券(無料)」の予約が必要。
詳しくは https://kotengendai.exhibit.jp/ticket.htmlを。

□川内倫子
http://rinkokawauchi.com

□サントリー美術館
https://www.suntory.co.jp/sma/

リニューアル・オープン記念展 I「ART in LIFE, LIFE and BEAUTY」 https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2020_1/index.html
7月22日(水)〜9月13日 (日)(展示替えあり) 休館日=火曜日(ただし9月8日は開館)開館時間=10時〜18時

□野口哲哉
野口哲哉ノ作品集「侍達ノ居ル処。」
http://www.seigensha.com/books/978-4-86152-429-5

「野口哲哉作品集~中世より愛をこめて」
https://www.kyuryudo.co.jp/shopdetail/000000001419/

□Axis ギャラリー
「三保谷硝子店 101年目の試作展」
https://www.axisinc.co.jp/media/exhibitiondetail/24
https://www.axismag.jp/posts/2009/10/5930.html

□ギャラリー間
https://jp.toto.com/gallerma/index.htm

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2020/08/01

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