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TOKYO BUCKET LIST. 都市の愉しみ方 お菓子から建築、アートまで歩いて探す愉しみいろいろ。

第17回:SKWATとデュシャンの「携帯式移動美術館」

Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、東京在住。武蔵野美術大学卒業後、女性誌編集者を経てその後編集長を務める。現在は気になる建築やアート、展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。


“That is Social Injustice!” 「社会的不公正!」

今、格差社会の矛盾が炙り出され世界中で叫ばれている言葉の一つでもあるけれど、これは、つい最近BSで見た映画『ニノチカ』(エルンスト・ルビッチ監督/1938年)でグレタ・ガルボ演じるスターリニズム全盛期のソビエト共産党員ニノチカがパリの駅に着き、自分の荷物を運ぼうとする駅のポーターに発したフレーズだ。
https://www.youtube.com/watch?v=dzkjnPSbxJw

5月末、南青山のビルに「SKWAT/twelvebooks」というアートブックのスペースができていると若い友人が教えてくれた。
高級ブランドの店が並ぶ通りにあるビルの2フロアをSquatting(占拠)したものだそうだ。

設計事務所「DAIKEI MILLS」を率いる中村圭佑氏とアートブックのディストリビューター「twelvebooks」の濱中敦史氏がはじめたプロジェクトで、昨年末から幾度か青山で場を移しながら継続し進化しているという。

初回は元クリーニング店で不良在庫のアートブックを1000円で売るブックショップ「Thousandbooks」を開設、通常業者間の取引しかしないクヴァドラのテキスタイル(廃番)も販売した。

2019年12月から「Thousandbooks」を期間限定で開催。その後 kvadratとのコラボもあった神宮前2-18-12の古い家。色は青。 写真提供:SKWAT
2020年3月10日から3月29日にかけて展開された、移転前のCIBONE Aoyama(南青山2-27-25)での活動「SKWAT in CIBONE」。CIBONE Aoyamaの内装デザインはDAIKEI MILLSの手になるものだった。緑色がテーマ。 写真提供:SKWAT

2回目は「SKWAT/Shachill in CIBONE」。移転直前の「CIBONE Aoyama」に、名古屋にある「シヤチル」という喫茶店を期間限定でオープン。そして今回の「SKWAT/twelvebooks」は、3回目の試みだ。

今開設している場所は、ヘルツォーグ&ド・ムーロン設計の「プラダ 青山店」の向かいにある「ザ・ジュエルス・オブ・アオヤマ」(光井純&アソシエーツ建築設計事務所設計/2005年)、かつて「南青山スクエア」と呼ばれたところ。

2020年5月29日から南青山5-3-2 のファッションビルの中に出現した「SKWAT/twelvebooks」。今回の色は赤。 写真提供:SKWAT 中央の写真は筆者提供

オープン当初はリシュモン・グループの「カルティエ」や「クロエ」などが通りに面したメイン・スペースにテナントとして入っていた。4階と屋上に三つ星シェフ ピエール・ガニエールの日本初出店レストラン「ピエール・ガニエール・ア・東京」ができたことは当時かなり話題になった。
ここはガニエールの店が閉店した後も、クリスチャン・ジオンがデザインした高価なタイルのモザイクのインテリアはそのままに「MOSAIQUE」というレストランになったが、それも5年前に閉店したという。

15年前はいわゆるラグジュアリーなファッション、宝飾、レストランまでが一堂に会した感のあるビルだったわけだが、何年か前から空きが目立つ。

SKWATは、テナントの抜けた空間を合法的にSquattingし有効活用するのが目的のように見えるが、B to Bのものや、使用可能だが廃棄されるさまざまなもの、これら“社会的不公正”を予定調和として受け入れている社会へ突きつけた果たし状のようなプロジェクトだ。

天井や床の躯体はそのまま。高級なものと安価な家具とのバランスも絶妙。 写真:筆者提供

壁や天井はコンクリートの躯体が剥き出しになっていて、工事用の鉄パイプが手摺りのように組まれている。床や壁の一部は、目も覚めるような赤いパンチカーペットで覆われている。この色は天井の躯体に工事用の目印として付けられたペイントの赤に合わせたという。

ブックシェルフはCIBONEで使われていた廃棄前の什器をそのまま裁断して搬入したもの。ジャン・プルーヴェの鉄のテーブルやそこかしこに置かれた名作チェアなどが、絶妙な空間をつくり出している。

この感じ、何かに似ている。

以前宿泊したことがある「21_21 DESIGN SIGHT」のギャラリー3をカプセルホテルに変貌させたアーティスト 西野達の作品「カプセルホテル21」だ。
http://www.2121designsight.jp/program/grand_projects/events/capsule21.html

これは、クリストとジャンヌ=クロード、ヌーメン/フォー・ユース、石上純也などアーティストや建築家が参加した「『そこまでやるか』壮大なプロジェクト展」(2017年)で西野が「実現不可能性99%」なインスタレーションとして実現させたものだ。

資料提供:21_21 DESIGN SIGHT
17台のベッドがあり、美術館閉館後から翌朝までの宿泊が可能。各室にiPadとコンセント、照明のスイッチがあり、事前申込者は「特設」されたシャワールームの10分間の使用ができた。ベッドのリネン類はとても清潔だった。 写真: Keizo Kioku
蛍光灯と石膏の胸像でつくったシャンデリアやパイプで組んだホテルのレセプションもよくできていた。 写真: Keizo Kioku
ウレタン・フォームで目地を埋める西野達氏。 写真: Keizo Kioku

安藤忠雄の建築の内部に、鉄パイプと発砲スチロール板と発砲ウレタンで、まるで飯場のタコ部屋のような仕立てのホテルにしたあたり、さすが西野達、だった。

西野達の作品は都市の公共空間にあるパブリックなものをプライベートな空間に強引に引き込んだり、ホテルに変容させるという独特な手法をとる。驚くほどの違和感と奇妙な調和は見る者の価値観に強烈な揺さぶりをかけてくる。

日本では「銀座メゾンエルメス」のビルの天辺に部屋をつくり屋上の花火師の像を室内に取り込んで見せたし、横浜中華街そばにある山下公園の敷地内にある東屋をホテル=ヴィラ會芳亭へと変容させ営業するなど、西野達の予定調和の裏切り方もしたたかだった。

SKWATにもなぜか同質のものを感じる。
同調思考と対峙するために、知恵と機転と美意識を武器としているところかもしれない。

さて、“Squatting”は日本ではあまり馴染みのない言葉だ。

数年前に日本でも公開された『ロンドン、人生はじめます』(原題は『Hampsted』/2017年)という映画があった。
これはロンドンの高級住宅地ハムステッド・ヒースに無断で住み続けたSquatter ハリー・ハローズの実話を元に、ロマンティックなストーリーに仕立て上げたもので、さほどいい出来の映画ではなかった。けれど、事実は面白い。
1986年、家賃が払えずホームレスになったハリー・ハローズは、ハムステッド・ヒースの林の中にある老人ホーム跡地に掘っ建て小屋を建ててひっそり暮らすようになった。
ところが、2005年に彼の住む土地の所有権をもつ不動産開発業者が高級マンションを建設しようと、彼に立ち退きを求めた。長年暮らしていた場所を追い出されそうになったハリーは弁護士に相談。ハリーが誰からも土地の所有権を主張されることなく20年以上暮らしてきたことから、裁判所は彼が住む場所の土地、約800平方メートルの所有権を認める判決を下したという。

12年間にわたり土地や建物、住居を使用せず権利も主張しない所有者は、その不動産所有の権利を放棄したものとみなされ、その土地を活用していた者の所有に帰すという英国流のやり方をはじめて知った。
その結果ハリーはその小屋から立ち退くこともなく、2016年に死ぬまでハムステッド・ヒースの林で暮らし、彼の死後小屋は慈善団体に寄贈されたそうだ。
https://www.thesun.co.uk/tvandshowbiz/3837608/mystery-harry-hallowes-hampstead-film-story-brendan-gleeson-diane-keaton/?

SKWATでは、当然ながら魅力的なアートブックとの出会いもあった。
一冊は以前、連載第11回の「まもるに値するもの」でも紹介したトーマス・デマンドの作品集『THE COMPLETE PAPERS Thomas Demand』。
https://ja.twelve-books.com/collections/thomas-demand/products/the-complete-papers-by-thomas-demand

もう一点はマルセル・デュシャンあるいはローズ・セラヴィとしてつくった“作品集”『Boite-en-valise』。
1930年代の終わり、戦争勃発を予感したデュシャンは、自身の主要作品を容易に持ち運ぶことができるフォーマットにまとめた。デュシャン自らが自身の作品を選定し、その複製印刷やミニチュアなどをつくり「携帯式移動美術館」としてトランクに収めて持ち歩ける「Boite-en-valise」(トランクの中の箱 1935-1941)という作品だ。ジョセフ・コーネルなども制作にかかわったという。1942年にパリを離れニューヨークに移り住む前に制作し終えたものだという。

1941年から死後の1971年にかけて同様の作品が300点あまりつくられ、世界各地のさまざまな美術館がそれらを所有している。
こちらはナショナル・ギャラリー・オブ・スコットランド所蔵のもの。
https://www.youtube.com/watch?v=tuM0G73gEtg

このギャラリーがつくったフィルム「Introducing Art & Artists | Marcel Duchamp」には、デュシャン本人が「Boite-en-valise」を説明する場面が出てくる。
https://www.youtube.com/watch?v=Dn18_XOzndg&list=TLPQMTMwNzIwMjCP22-ly538fQ&index=2

昨年暮れから今年の3月まで、兵庫県立美術館の「塩売りのトランク マルセル・デュシャンの『小さな美術館』」展でも、美術館所蔵の1点が展示されていた。
https://www.artm.pref.hyogo.jp/exhibition/j_1911/marcel.html

私が手に入れたのは、その「Boite-en-valise」1968年版を紙で精巧に再現した箱入りの作品だ。(編集 Mathieu Mercier/出版 Walther König/問い合わせ contact@twelve-books.com)

「泉」と題された便器。「旅行用折りたたみ品」と名付けたunderwood社製タイプライターのカバー。パリの空気を50cc入れたガラスのアンプル「パリの空気」。この3つのミニチュアの愛らしいこと!!!

写真:twelvebooks

文頭で触れた映画『ニノチカ』の舞台になった1939年のパリは、デュシャンがこの「携帯できるトランク入りの美術館」の制作に没頭していた頃と重なる。
https://www.youtube.com/watch?v=MGdWdxm8HH0

そういえば、ニノチカがパリで買った、風変わりな帽子。
シュルレアリストとの交流が発想の源になっていたスキャパレリの奇妙なデザインの帽子に酷似しているように見えるのは私だけだろうか?

セシル・ビートンが1935年に描いたスキャパレリのアクセサリー。Shocking The Art and Fashion of Elsa Schiaparelli  写真:筆者提供

<関連情報>

□『ニノチカ』1939年(原題 Ninotchka)
MGM制作、エルンスト・ルビッチ監督のラブ・コメディ。共同脚本の一人にビリー・ワイルダーがいる。共産主義やソビエトを風刺しているが陳腐になっていないのは、ルビッチの父はユダヤ系ロシア人、母はユダヤ系ドイツ人、そしてビリー・ワイルダーもユダヤ系オーストリア・ハンガリー人であることに起因しているからかもしれない。
“北欧のスフィンクス”、“氷の美貌”と喩えられたガルボがはじめてスクリーンで大笑いするシーンがあることから「Garbo laughs」(ガルボが笑う)がこの映画の謳い文句だった。ちなみに衣装デザインはギルバート・エイドリアン。帽子のデザインはガルボとの共作。2017年急逝したアズディン・アライアはエイドリアンのコスチュームの収集家で、死後に2つの衣装展が開催されている。

□”Alaïa-Adrian: Masters of Cut “ at SCAD Fashion Museum, in Atlanta, Georgia. February 11 to September 13, 2020,
https://www.scadfash.org/exhibitions/alaia-adrian-masters-cut

□The ‘Adrian and Alaïa: The Art of Tailoring’ exhibition in Paris ,2019
https://www.hollywoodreporter.com/news/azzedine-alaia-adrian-retrospective-opens-paris-1177814

□SKWAT
https://www.skwat.site
https://www.instagram.com/skwat.site/

□DAIKEI MILLS
http://daikeimills.com

□twelvebooks
https://www.twelve-books.com

□21_21 DESIGN SIGHT
http://www.2121designsight.jp

□西野達
http://www.tatzunishi.net/head2.html
https://urano.tokyo/artists/nishi_tatzu/

□ホテルヴィラ會芳亭(2005年) 横浜トリエンナーレ
http://www.peeler.jp/review/0511kanagawa/

□「天上のシェリー 西野達」展(2006年) 銀座メゾンエルメス
https://www.hermes.com/jp/ja/story/maison-ginza/forum/060602/

□『ロンドン、人生はじめます』
http://www.synca.jp/london/

□マルセル・デュシャン 
35点のデュシャン作品に加え膨大なアーカイブをを収蔵しているフィラデルフィア美術館のアレンズバーグ・コレクションの中で撮影されたデュシャンへの1956年のインタビュー。
Marcel Duchamp interview on Art and Dada (1956)
https://www.youtube.com/watch?v=Wuf_GHmjxLM

□Shocking The Art and Fashion of Elsa Schiaparelli
https://www.philamuseum.org/doc_downloads/education/ex_resources/schiaparelli.pdf

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2020/07/17

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