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TOKYO BUCKET LIST. 都市の愉しみ方 お菓子から建築、アートまで歩いて探す愉しみいろいろ。

第16回:馬喰町あたり 馬場浩史のフィロソフィー

Profile
関 直子 Naoko Seki
東京育ち、東京在住。武蔵野美術大学卒業後、女性誌編集者を経てその後編集長を務める。現在は気になる建築やアート、展覧会などがあると国内外を問わず出かけることにしている。


馬喰町、東神田あたりは問屋街で、特に用事でもない限り一般の人にはあまり縁がないところだ。
2011年の2月、馬喰町に益子の「starnet」が店を開くというので出かけて以来、その周辺にも目がいくようになった。

starnetは、馬場浩史さんが1998年から益子に拠点を移し、クリエイティブで持続可能なライフスタイルをカフェ、ギャラリー、ショップを通じて提示してきた場所だ。
古材や大谷石を使った建築や空間は独特で、静謐な空気が流れているところだった。地方再生の動きは多々あるが、それらと一線を画しているのは馬場さんの「美意識」ではないかと常々感じていた。

そんな謎を解き明かすかのような展覧会が、馬喰町にstarnetを開店させた同じ年の8月から1ヶ月間ほど目黒の「CLASKA Gallery& Shop “DO” 」で開かれた。
「starnet 馬場浩史の仕事 これまでとこれから」と題され、馬場さんがディレクションしたart workers studio(スターネット工房)の陶器、ガラス、服、鞄、靴、そして音楽までを網羅した展覧会だった。

その時に、東京にあまり滞在することの少ない馬場さんが珍しく多くの人の前で話す機会があった。

未来につながる生き方について、「“居心地の悪さ”や“違和感”を感じたら、“手入れ”をして“解消”していく」と話されていた。
これは環境に対しても、人との関係に対しても、食に対しても、物や道具に対しても、多分美しいということに対しても馬場さんが行ってきたことなのだろう。
その他にも、「物作りは身体に聴く」、「身体がアンテナであり秤である」など。 物静かな語り口で発する一言一言が、本質に迫る内容だった。

益子町が主催となり2009年秋に開催された「土祭(ヒジサイ)-Earth Art Festa 2009 in Mashiko-」のポスター。3年ごとに新月から満月の間に開催される「土祭」は、窯業と農業が支える益子の原点=「土」をテーマにした益子町発の催しで、馬場さんが総合プロデューサーを務めた。 
「starnet 馬場浩史の仕事 これまでとこれから」の展示。写真とともに、益子参考館にも所蔵されている鞣革と鉄でできたメキシコ椅子の再現、薄く繊細に仕上げられた陶器などが会場に一堂に会した。
この上なく手間のかかる古式鞣の白鞣革の椅子。

馬場さんは2013年に急逝され、馬喰町のstarnetも2018年に閉じることになった。
この店の行末を案じていたところ、「minä perhonen」が店舗をそのままのかたちで引き継ぎ、ライフスタイルの店「elävä I」としてオープンすると聞き安堵した。

扉も床も馬場さんが選んだ古材と大谷石のままで、「elävä (フィンランド語で”暮らし”の意)I」の1階は、うつわやオーガニックの野菜、果物、スパイスなどの調味料や焼菓子などが並び、光の溢れる2階のギャラリーはさまざまな展示やイベントなどを行っている。

6月にはスウェーデン在住の山野アンダーソン陽子さんのガラス器が展示されていた。 写真:筆者提供

近くのアガタ竹澤ビル2階には「elävä II」があり、北欧を中心としたヴィンテージ家具を扱い、家具のリペアや生地の張り替えなどの相談も受けているという。
その同じフロアに「puukuu 食堂」が最近オープンしたばかりだ。盛岡で無農薬野菜の惣菜などの料理で人気だった藤原知恵美さんをシェフに迎えて、有機野菜を使ったスープやカレー、カフェも楽しめる。

写真:Hua Wang

馬喰町には、他にもいろいろ興味深い店がある。
「elävä I」の道を隔てた向かいには、ペイントについてのさまざまなサポートをする「カラーワークス」のショールームがあり、英国最高峰のペイント「FARROW & BALL」の全サンプルを見るだけでも豊かな気分になれる。

写真:筆者提供

F&Bを知ったのは英国のナショナル・トラストを取材した時で、132色の英国伝統色があり、そのうち57色がナショナル・トラストの指定色になっていると聞いた。そしてさまざまな色にストーリーがあるという。
最近では、自然史博物館とのコラボレーションで生まれた16色が必見。
https://www.farrow-ball.jp/release/202004_index.html
https://www.youtube.com/watch?v=JWjYb_6YK2M
https://www.youtube.com/watch?v=8TD80t3XJww

カラーワークスの案内リーフレットに、「日本の文化が根付く“東神田”という東京のSOHOともいえる場所で」という言葉があったが、“東京のSOHO”ね、なるほど。

その通りには美しい左官仕事=版築仕上げの壁があっていつも気になっていたが最近、ある会社の本社ビルの一部だとわかった。

「日光ケミカルズ」のビル。設計はクウェスト。

その先の清州橋通りと清杉通りの角にはマルニ木工の店舗「maruni tokyo」がある。
マルニ木工は深澤直人の名作「HIROHIMA」やジャスパー・モリソンデザインの家具で、今世界から注目を集める老舗木工家具メーカーだ。

https://webshop.maruni.com/fs/maruni/c/naoto-fukasawa
https://webshop.maruni.com/fs/maruni/c/jasper-morrison

地下1階から2階まで広々とした3フロアに配置された名作椅子の数々。1階に展示されていたジャスパー・モリソンデザインの「T&O T1」チェア。弾力性のあるS字スチールで無垢材の背もたれと座面を繋いでいる。2017年に「V&Aミュージアム」のパーマネントコレクションに。照明もジャスパー・モリソンデザインでFLOS社の「GLO-BALL」。2階には深澤直人がデザインしたアルミ製スチール棚「Alex Shelf」が据えられ、展示物も深澤直人セレクト。

馬喰町ではおかしな発見もある。
あるビルの前にある「Fontana Del Porcellino」ポルチェリーノ=猪の噴水の銅像だ。これはフィレンツェにあるもののレプリカだが、本家のポルチェリーノは、アンデルセンが書いた紀行文一『一詩人のバザール』の中に「青銅のいのしし」という物語になって登場する。
貧しい少年が青銅のいのししの背に乗ってフィレンツェ中の美術を飛び巡り堪能するあたりは、フィレンツエ・アート・ガイドのような筆致になっていておかしい。 https://www.behance.net/gallery/61513631/The-Metal-Pig-by-Andersen

「幸運を招く猪(ポルチェリーノ)」の説明文が添えられていて、フィレンツェの通称“猪市場”入り口に1639年に飾られたピエトロ・タッカ作の彫像のレプリカ、とあった。鼻をなでると幸運を招くという言い伝えがあるらしく、小さな泉に投げられたコインは集めて寄付をするとか。東京駅や京都のホテルなど、日本ではこの彫像が6か所に設置されているそうだ。 写真:筆者提供

もちろんフィレンツェと馬喰町には接点が無い。
レプリカ彫像の出現は、いつもとてもキッチュだ。日比谷公園にある「ルーパ・ロマーナ」(ローマの創設者 ロムルスとレムスを育てた母狼像)も「何故ここに?」という疑問でいっぱいになるし、西新宿にできた三越伊勢丹ホールディングス社屋前のライオン像も然り。
これはロンドン、トラファルガー広場のライオンを模した日本橋三越の入り口に置かれたライオン像の、そのまたレプリカで、とても小さい。威厳はどんどん縮小されていく。

日比谷公園にある「ルーパ・ロマーナ」。本物はローマのカピトリーノ美術館の「ルーパの間」にある。三国同盟締結に向けて昭和13年にイタリアから東京市に寄贈されたものらしい。

この周辺は、昭和20年の東京大空襲でほとんど焼け野原になり、戦後に建てられたビルが多い。
靖国通りと江戸通りの交差点にある「イーグルビル」は数少ない戦災を逃れたビルで、大学ノートの先駆イーグル・ノートの創業者の住居兼店舗だったところだそうだ。関東大震災後、東京市からの助成金で大正末期か昭和初期に建築された本格的な耐震耐火建築だったから今があるのかもしれない。
一階には、2017年の年末に合羽橋から移転オープンした「Bridge」というコーヒーとアイスクリームの店がある。

写真:筆者提供

その向かいに見えるレンガ造りのホテルは昨年、二俣公一率いるケース・リアルによるリノベーションで創業37年のビジネスホテルから生まれ変わった「DDD HOTEL」。

Photo by Daisuke Shima
Photo by Daisuke Shima
Photo by Daisuke Shima
Photo by Daisuke Shima
Photo by Daisuke Shima

2階のカフェ&バー「abno」、1階のアートギャラリー「PARCEL」は、宿泊者でなくとも利用可能。吹き抜けのエントランスとミニマルに広がる空間がこの上なく贅沢だ。家具は全て「E&Y」で、このホテルのために二俣がデザインしたものも多い。
都市生活者のためのホテルと銘打たれていて、DDDの意味はDesign Development Destination。デザインとデヴェロップメント(開発、発展)はわかるとして、デスティネーションは到達点の意味なのか?

さて、我々の到達する地点はいったいどこなのだろうか。

7年前の満月の夜、益子で開かれた馬場さんを忍ぶ会で展示されていた馬場さんの残した言葉を思い出す。

「Organic +Handloom(手作りばた)=STARNET」
自然に敬意を払い、土地と結ばれながら暮らす/一緒に作ることで、世界が広がる、そこに愛が生まれる/古代から変わらない心地よさを、これからもまた/心をこめて、やさしく、丁寧に/一緒に茶を飲む、話す、笑う、作る事はここからはじまる/手仕事の力で、生きていくために必要なものを、ひとつずつ/美しく生きる、この世界を、駆け抜ける/

馬場さんの走り書きのような、決意表明のようなメモもあった。

「スターネットでの仕事 10.4.14」

デザインの無い
もうこれ以上削れない
それでぴったりと来るもの
それを手(又は人のみ)で作る
自然にかえる
ずっと使える
直して使える
そんな物を作る

馬場浩史と愛犬のハク。2013年9月の満月の夜 益子 starnet で行われた「馬場浩史 星影の俤を偲ぶ會」で。

<関連情報>

□starnet
https://www.starnet-bkds.com

□馬場浩史
https://www.starnet-bkds.com/about/
馬場浩史の空間作りの原点はTOKIO KUMAGAI時代の80年代の終わりに京都につくった「祇園NEXUS」だろう。これは京都市の「京都景観賞」を受賞。建築家は聖拙社率いる故・上里義輝で、『confort 2000年4月号』の上里の追悼特集「空間の猟人・上里義輝の軌跡ー建築集団『聖拙社』を率いて」で馬場浩史は彼からの影響を熱く語っている。
https://www.fujisan.co.jp/product/1281680618/b/267799/

□『里山のレシピー益子・スターネットの台所暦』
starnetの食の司祭ともいうべき星美恵子さんの四季をめぐる台所仕事。
益子の自然と寄り添う12ヶ月の日々の記録。再販が待たれる名著。
https://sola1sola.exblog.jp/19956841/

□土祭
http://hijisai.jp/thinking/
http://hijisai.jp/about/

□これまでの土祭
http://hijisai.jp/archive/
土祭2009
http://hijisai.jp/archive2009/
土祭2012
http://hijisai.jp/archive2012/

□elävä I
https://www.mina-perhonen.jp/elava/elava1/
□elävä II
https://www.mina-perhonen.jp/elava/elava2/
□puukuu 食堂
https://www.mina-perhonen.jp/elava/puukuu/

□山野アンダーソン陽子
http://www.yokoyamano.com

□カラーワークス
https://www.colorworks.co.jp/shop/

□maruni tokyo
https://www.maruni.com/jp/showroom/tokyo

□アンデルセン小説・紀行文学全集6『一詩人のバザール』東京書籍
https://honto.jp/netstore/pd-book_00430160.html

□Bridge
https://www.facebook.com/Bridge.coffee/

□DDD HOTEL
https://dddhotel.jp/concept

□abno
https://dddhotel.jp/abno

□PARCEL
http://parceltokyo.jp

□ケース・リアル 二俣公一
http://www.casereal.com/ja/biography/

□E&Y
http://www.eandy.com/about/

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2020/07/03

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