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ホンマタカシ 東京と私 TOKYO AND ME (intimate)

Vol.28 アンヌ・ケフェレック(ピアニスト)
PLACE/銀座(中央区)

写真:ホンマタカシ 文:加藤孝司 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA) 通訳:高野勢子

アンヌ・ケフェレックさん
アンヌ・ケフェレックさん
アンヌ・ケフェレックさん
アンヌ・ケフェレックさん
アンヌ・ケフェレックさん
アンヌ・ケフェレックさん
アンヌ・ケフェレックさん
アンヌ・ケフェレックさん
アンヌ・ケフェレックさん

Sounds of Tokyo 28. (Don Quijote Ginza Store)


日本との出合いは、私が17歳の時に遡ります。
フランスには高等学校教育の修了証明のための「バカロレア」という試験があるのですが、その時の出題テーマが日本でした。試験当日の朝まで、北海道、本州、四国、九州などの名前を暗唱したことを今でも憶えています。
それ以来、日本に対して深い繋がりを感じるようになりました。

はじめて日本に来たのは50年ほど前でしょうか。25歳の時、ピアノリサイタルのための来日でした。
日本に向かう飛行機に、ファッションデザイナーのイヴ・サンローランが乗っていたんです。モデルの女性たちもいて、機内はとても華やかな空気に満ちていました。
空港の到着ロビーに着くと、サンローランのファンと思われる大勢の方が待ち受けていて、“やっぱりスターって凄いな”と感心していたところ、群衆の中にフランス語で「ケフェレックさん、日本へようこそ!」と書かれた横断幕が。
それを見た客室乗務員さんたちが、「同じ機内に、もう一人スターが乗っていたのね!」って(笑)。
嬉しかったし、とても印象的な出来事でした。

当時の私はまだ若くヨーロッパでの演奏活動がメインで国際的な活動経験はほとんどなかったにも関わらず、日本のスタッフの皆さんは「ホテルニューオータニ」の豪華な客室にピアノを入れて迎えてくださいました。
はじめての日本。記憶に残っていることは色々とありますが、その時の滞在で接したすべての人や物事から日本人の中に美や芸術を仕事にする人に対する尊敬の気持ちがあることを感じましたし、その思いは初来日から50年経った今でも変わることはありません。
そうそう、エレベーターに乗った時に、若い女の子がニッコリしながら「上に参ります、下に参ります」と言っていたことにはとても驚きました(笑)。

以来、日本に来ることがとても楽しみになりました。これまで沢山の出会いがあり、今では私が来日する度に集まる「ケフェレックチーム」という小さな友人グループまであるんです。

主に私のピアノレッスンの歴代の生徒さんたちが中心となって結成されているのですが、私が来日する度に彼女たちが東京散策のプランニングをしてくれるのです。
銀座が散策の舞台になることが多かったこともあり、東京の中では銀座が特にお気入りの街になりました。
彼女たちはレストランや日本茶のお店といった飲食店はもちろん、「UNIQLO」や「GU」、100円ショップ、デパ地下、「ドン・キホーテ」など、色々なお店や場所に案内してくれます。

特に「ドン・キホーテ」が大好き。ヨーロッパでいうところの多種多様なものが売っているオリエンタル雑貨店のような雰囲気がたまらなくて、色々なジャンルのものが雑多に並んでいる迷路のような店内を歩いているだけでワクワクします。

銀座には世界的なビッグメゾンのブティックも軒を連ねていますが、それらはどこの国に行っても同じものを扱っているし、特に関心はありません。銀座は華やかな表通りの裏にひっそりとした路地がありますよね。そういうところを歩くのが好きなんです。
私自身、物事の表側だけを見るのは好きではありませんから、実際に東京で生活をしている人たちがいる場所にこそ行ってみたいし、街の歴史を垣間見ることができる場所に興味があります。

もうひとつ、とても興味深いのが、日本という国とそこで暮らす人々が醸し出す「コントラスト」です。
銀座のメイン通りには高級デパートが美しく建ち並び、その中では静かで慎ましい人たちが整然と働いていますが、同じビルの地下に行くと売り子さんが大きな声を出して魚や肉を売っていて、まるでマルセイユの市場のような活気にあふれた場所が存在しています。

西洋人から見た日本人は、“わび・さび”を連想させるような、畳の上で必要最低限の家具に囲まれて質素に生活をしているというイメージがあります。ですがその一方で、デパ地下や「ドン・キホーテ」の店内のような混沌も、“日常”として様々な場面に溢れていますよね。
日本の伝統芸能である能と歌舞伎の違いにも、このような「静と動」というコントラストが明確に表れているように思います。
控えめな日本人の姿と、それとは対照的なハツラツとした感じ、真逆ともいえる世界観が同居しているところに私は日本という国のファンタジーを感じますし、東京はそのコントラストが特に強い街なのではないでしょうか。

これまで何度日本を訪れたか、ですか?
フランスには「好きなことをした回数は数えないほうがいい」という諺があるんですよ(笑)。

それこそ数えきれないほど訪れていますが、最初に来た時と比べて東京が変わったという印象はありませんね。変わったとすれば、それは東京ではなく世界の方じゃないでしょうか。気候変動もそうですし、技術や消費に対する考え方も50年前とは様変わりしましたよね。

東京のことを考える時に真っ先に思い浮かぶのは「友情」という言葉です。
家族のように親しい友人ができたおかげで、これほどまでに深く東京という街に近づくことができました。
そういった意味でも、私の人生において東京との関係は特別で、大切なものになっているのです。


アンヌ・ケフェレック Anne Queffélec

ピアニスト。フランス・パリ生まれ。パリ国立高等音楽院を首席卒業後、ウィーンでバドゥラ=スコダ、デームス、ブレンデルに師事。1968年ミュンヘン国際音楽コンクール優勝、翌年リーズ国際ピアノ・コンクール入賞。長年にわたり世界中のオーケストラと共演を重ね、映画『アマデウス』でもピアノ協奏曲を演奏し話題を呼ぶ。これまでにリリースした40枚以上のアルバムは数多くの賞を受賞。フランスの名ピアニストとして国際的に高く評価されている。

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2022/06/30

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