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ホンマタカシ 東京と私 TOKYO AND ME (intimate)

Vol.6 片桐はいり(俳優)
PLACE/大森(大田区)

写真:ホンマタカシ 文:加藤孝司 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)

Sounds of Tokyo 06. (珈琲亭ルアン)


両親は仙台の駅前と大阪船場の出身。それぞれが東京に出てきて大森に居を構え、私もこの街で生まれ育ちました。今もここで暮らしています。

覚えているのは、子どもの頃に丸の内に連れていってもらった時に親がビル街の風景を見て「懐かしい」と言っていたこと。両親の出身地は地方ですが、都会といえば都会。それもあってか、私自身“田舎の風景への郷愁”といったものがなかったんですけど、なぜか今になってそれが出てきちゃって不思議に思っているところです。
家のまわりに緑があるとか、帰る場所がある人が羨ましいですね。

当時住んでいたのは、大森駅西口を出た高台の方です。かつては政治家や官吏、将校たちのお屋敷がたくさんあって、文豪たちが暮らした景勝地。今でいう鎌倉みたいな場所だったみたいですよ。今はもう近代的な住宅街になってしまって、当時の面影は少ないです。
文化人が集うホテルもいくつかあったそうで、私が小さな頃にはまだそういう名残がありました。 駅前の線路沿いには映画館が立ち並んでいて、いっとう最初の「スターウォーズ」を観に連れていってもらいましたね。

隣町の蒲田にはかつて「松竹蒲田撮影所」がありましたが、今はそういう文化的なものも無くなっちゃいましたしねぇ。下高井戸や三軒茶屋、あとは……高円寺など中央線方面の街には独自の文化があるけれど、大森にはそれがないなぁと常々思っています。

「すみっコぐらし」というキャラクターがあるじゃないですか。ここでの暮らしは、私にとって「東京のはしっコぐらし」という感じ。
品川駅や羽田空港が近くにあって、東京の出口であり入口のようでもあるこの街で、映画でもグルメでも、“東京のあまったもの全部あります”みたいなことを打ち出したら面白いんじゃない? なんて思ったりしています。

いろいろ思うところはありますけど、やっぱりここがしっくりきます。
たまに渋谷の方に行くと、なんだか郊外に来たような気分になったり、西東京の山の見えるようなエリアに行くとなんだか不安になっちゃう。
劇場でも喫茶店でも出入り口に近い席が好きなんです。だから海が近いこの街に帰ってくると、「あー帰ってきた」って安心する。そういうことってありませんか?
銀座の映画館で働いていたこともあるし思い出の街は他にもいろいろありますけど、自分にとっての「東京」といわれれば、どうしても大森になっちゃいますね。

何年か前から「キネカ大森」という地元の映画館で、時々切符のもぎりをしています。映画が好きで通っているうちにスタッフと仲良くなってはじめたんです。
それもあって、これまでは暇があればキネカ大森に行くのが日常だったのですが、ここ2ヶ月くらいはコロナの影響もあって日常がガラっと変わってしまいました。
自粛期間中、映画館は閉まっていたけれど、気になって気になって何度も様子を見に行きました。

今回はせっかくホンマさんに撮ってもらうから、大田区らしい昔の工場とかないかなと思ったんですけど……。私が知る限りだとこのあたりには一軒だけ、昔の地図記号みたいなのこぎり屋根の工場が残っています。
前は町工場がたくさんあったんだけど取り壊されて、マンションとかになっちゃった。この辺りでも昔ながらの景色はもうほとんどないですね。どんどん“なんの変哲もない街”になっていって、少し寂しい気もしています。

そうだ、今気になっていることがあって。
どこかの街が“最近少し流行ってるなあ”と思うと、すぐに“おしゃれ”が侵食するのはなぜなんですかね? 台湾とか海外の街に行っても、いいなあと思うところにはだいたいおしゃれが侵食しています。

なぜおしゃれが苦手かというと、今のおしゃれって雰囲気が全世界共通なんですよ。素敵なカフェでお茶を飲んでも、あとで思い出そうとした時に「あれ? どこだったっけ?」となっちゃう。世界中同じようなおしゃれにしないと、古い街が保たれないんですかね。

東京もオリンピックに向けて色々なものをどんどん新しくしてきたけれど、海外から来る人たちは本当にそういったものを見たいと望んでいるんでしょうか? 
古いものを残さなければいけないとは思わないけど、自分が海外に行っても、その国に昔から残るものを見たほうが面白いじゃないですか。
ノスタルジー以前に、海外の人たちに対するサービスにもならないんじゃないか、って。せっかく残っているものは大切にしたほうがいいと思うんですよね。そう思うのは私だけでしょうか。

東京のどこに行っても相変わらずマンションとホテルの建設ラッシュですが、次々新しくするのはもうやめませんか。
今回の自粛生活を経て、“今あるものを大切にしていけばいいじゃない”と、あらためて思いました。大変な苦労をされた方が大勢いらっしゃることはわかっているのですが、気づいちゃったんだから言葉にしておかなきゃ、と思っているところです。


片桐はいり Hairi Katagiri

1963年東京生まれ。数々の映画や舞台、テレビなどで活躍するほか、地元の映画館「キネカ大森」でときどき「もぎり」もする。ドラマ&ドキュメント「不要不急の銀河」が7月23日19:30からNHK総合で放送。 https://www.stardust.co.jp/section1/profile/katagirihairi.html

東京と私

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2020/06/30

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