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令和・かぞくの肖像 これは、これまでの時代、これからの時代における「社会×家族」の物語。

蛭海ひるみ家の場合 Vol.3
コロナで没む人、上がる人

東京で暮らす4組の家族を、定期的に取材。
さまざまな「かぞく」のかたちと、
それぞれの家族の成長と変化を見つめる。

写真:笠井爾示 文:大平一枝 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)

かぞくデータ
蛭海たづ子さん(51歳・母・交響楽団員)
しゅん君(長男・専門学校1年)
せいさん(長女・高2)
ようさん(次女・中3)

取材日
Vol.1 「いないけど、いる。いるけど、いない」/2019年7月
Vol.2 「欲のある母と、欲のない子どもたち」/2020年1月
Vol.3 2020年7月

かぞくプロフィール
ヴィオラ奏者のたづ子さんは、音楽機材のスタッフである5歳上の涼さんと32歳で結婚。3児をもうけたが、2012年涼さんの大腸がんが発覚。最後は自宅での緩和ケアを選び、妻に看取られ2017年10月永眠した。


今日はなんだか彼の元気がないのだ

 初回の取材が1年前、前回が半年前。毎回、思春期3人の子どもたちがいる蛭海家は、小さな変化がある。悩み、考え、進んでは戻り、転んではまた立ち上がって歩き出す。喜怒哀楽に富んだ10代の子らとたづ子さんの日々は、賑やかでなかなか目まぐるしい。

 今日は、いつも朗らかで雄弁な舜君に少し元気がなかった。
「英語の専門学校に入学したのに、コロナで1度も行けてないんです。友達もできないし、オンライン授業は顔を写すのが任意だからどんな子がいるかもわからない。課題だけがどんどん出されて勉強もよくわからない。コロナで学校をやめる新入生が大学でも増えているそうですが、その気持ちよくわかります。高い学費出してもらっててあれだけど……」(舜くん)

 現在は、友達の実家のラーメン屋でバイトの傍ら、高校時代の友達と草野球をして過ごしている。

 いっぽう交響楽団員のたづ子さんは、コロナで休業状態になったのを機に、身体づくりをはじめた。
「演奏で足りない技術を磨く練習と、仕事のための体力づくりで毎朝ランニングをはじめました。時々娘たちと一緒に近所を走って、3人共ちょっと痩せてダイエットになったんですよ」
 朝起きて、運動と家事を済ませると、楽器の練習のためスタジオへ。スタジオ代は自腹である。
「自分への投資です。自分のために時間を使ったら、必ず返ってくると思うから」。
 自信に裏打ちされた笑顔の眩しさと、舜君のもっていき場のないやるせない表情が対照的で印象に残った。


青春の気づき

 高2の青さんにはさらに大きな変化が。
 1年の6月、バスケ部のマネージャーを辞めた。中学3年の夏まで続けていた女子サッカーのクラブチームのコーチに、「今何やってるの?」と聞かれたのがきっかけである。
「マネージャーです」
次いで聞かれた。
「それ楽しいの?」

 ハッとした青さんは当時をこう述懐する。
「中3の最初の頃は、ユースという高校生のチームに時々呼ばれていたんです。でもしばらくすると、私より練習に来ていない子が選ばれて、私は呼ばれなくなった。今思えばそれが悔しくて、受験を理由にサッカーから離れてしまった。私はあのとき逃げたんだと気づきました」

 別のクラブチームでサッカーに打ち込む妹の瑛さんの強い勧めもあり、2月から古巣のチームに再入団した。仲間より体力も技術も遅れているため、コロナの休み中、自主練を欠かさなかった。
「コーチに相談して、毎日5キロ走っています。中学時代の私はそんなことしようとも思わなかった。シャトルランは85回。以前は40回でした。妹を誘って練習したり、母と走ったり。高タンパク低脂質のアスリート向きの食事が紹介された『ミールプレップ』という料理本見ながら、近所の仲のいいお姉さんとうちで一緒につくり置き料理もしたんですよ」

 マネージャーという任務の否定ではない。2年前、自ら「逃げた」宿題と、もう一度正面から向き合おうと決めたのだ。
 それまで寝るのが深夜1時、2時と乱れていたのも規則正しくなった。クラブ入団が今年の2月。それからコロナで、練習は休みになったが、青さんはこのかんにたくさんのものを得た。
「いつもお母さんは仕事で帰宅が遅いのですが、今は帰宅したらいる。うっとおしいこともあるけど、一緒に走ったり、たくさん話せてよかったです。断捨離をやって部屋もすっきりしました。瑛も学校や練習が休みだから家にいて、いろいろ話せていい時間でした」

 塾に受験勉強に忙しい瑛さんは、姉のことを「憧れのような存在」と語る。
「サッカーもお姉ちゃん真似てはじめたし、おしゃれや化粧も先を行ってて憧れる。学校や進路のこともお母さんより話すかな。親友といえばそうかもしれません」

 いつも和気藹々としているわけではない。ささいなことでぶつかることもある。最近も、瑛さんが「変な時間に起きてくるお兄ちゃんにイライラして」、大喧嘩になってしまったそうな。
 子どもたちがみなそういうことを取り繕わずに率直に話すのは、たづ子さんの気質の遺伝か、あるいは亡き父・涼さんか。結局、大喧嘩の結末も笑い話になるのだ。

 取材はまだ3回きりだが、この家族はいつも誰かがもがきながらぶつかりあいながら何らかの答えを見つけ、小さな成長をとげているように見える。
 今日は青さんにそれを感じた。

 次回、舜君が無事学校の友に会え、学びたかったものにうちこめていますように。そのころ瑛さんの志望校も決まっているだろう。瑛さん、将来の夢は?
「まだ何も考えていません。でもお母さんのように何かを極められるような人になれたらいいなあって思います」
 そんなふうに娘に言われる母親は、どれくらいいるんだろう。

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2020/08/06

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