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猫と男 東京で生きる男と、共に暮らす猫。ふたりの距離感から垣間見える、唯一無二の物語。

アンディ・ウォーホルが描いた猫
『ANDY WARHOL / CATS, CATS, CATS』

写真・文:加藤孝司 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)

ウォーホルが描いた猫の絵がある。 異才としても知られるウォーホルらしいどこか変わった猫の絵だ。
どこが変わっているかというと、 青や赤、 黄やピンクといった、 およそ現実の猫らしくない鮮やな色使い。 だが、 描かれたのは実在の猫だ。
母親の影響で幼い頃から猫好きだったウォーホル。 ニューヨーク市マンハッタンのカーネギーヒルのタウンハウスで母と暮らしていた時に飼っていたという猫たちで、 最初は1匹、 その後1匹では猫が寂しいからということでもう1匹、 そうこうするうちに全部で26匹の猫を飼っていたという。

最初の1匹の猫の名前はヘスター。 2匹目の猫はサム。 それ以降の猫は2匹の間に生まれた仔猫などで、 そのすべてがサムと名付けられたという。 当時のウォーホルの友人知人にはウォーホル家から仔猫を譲り受けた人が少なくないという逸話が残っている。

アンディ・ウォーホルの猫

ウォーホルの猫の画集は、 国内外で何冊か出版されたようだ。 この本は90年代に出版されたもの。 オリジナルは 『25 Cats Name Sam and One Blue Pussy』 という作品で、 1954年にウォーホルの母ジュリアにより私家版のリトグラフの本として190部が刊行された。 ウォーホルは 1928年の生まれだから、 26歳の時のことだ。
ウォーホルは美術を得意としていたジュリアに溺愛され、 幼いころからドローイングや切り絵など、 美術の手ほどきを受けていたという。

アンディ・ウォーホルの猫

当時のウォーホルは現在知られているようなポップアートの作家ではなく、 ニューヨークに出てきたばかりのイラストレーターだった。 のちにポップアートの巨匠として、 「キャンベルのスープ缶」 (1962) や 「25色のマリリン・モンロー」 (1962) などを描く少し前のことだ。
『ヴォーグ』 や 『ハーパース・バザー』 などの雑誌で活躍し、 その作風も、 のちのポップアートの鮮やかな色彩を彷彿とさせるものの手描きの痕跡が感じられる軽やかでいきいきとしたものだ。
これらの猫の絵を描いた商業イラストレーターから、 現在よく知られるファインアートの作家に転身したのが1961年、 33歳の時のことだ。

アンディ・ウォーホルの猫

この本のタイトルは 『CATS,CATS,CAT』。 ページを開くと片側に猫のイラスト、 もう片側にはウォーホルの日記などから引用された格言のような英文のテキスト。 猫のイラストはペン画に着色が施され、 その横にはサムという名前が書いてあったり、 ウォーホルのサインが入れられている。

アンディ・ウォーホルの猫

イラストのタッチもさまざまだが、 そのすべてに共通しているのは、 猫らしく寛いだリラックスした姿。 青年ウォーホルの傍らで過ごしていた姿を想像するのは難しくない。
だが、 この本に描かれているのはウォーホルが当時実際に飼っていたシャム猫ばかりではない。 というのも、 一節にはここに描かれている猫たちは猫写真家として著名な写真家であるウォルター・チャンドーハが撮影した猫の姿をもとに描いたもの、 という節があるそうだ (実際にこのことは当の写真家自身も言及している)。

この当時描かれた猫たちの姿は70年代に彼が確立したポップアートのシルクスクリーンによる手法で再び制作されているから、 その姿でウォーホルの猫として記憶している人も少なくないだろう。

1954年に最初の猫の本が出版されたが、 文献では1951年には 「プッシー」 という名のシャム猫についての記述がみられる。 ウォーホルが愛したシャム猫は、 当時世界的に大流行した猫種だったそうで、 ウォーホルの母は猫たちの出産 (繁殖) にも熱心でもあったという。
ウォーホルは猫に限らず動物好きで、 70年代にはパートナーの勧めで犬と暮らすようになる。

アンディ・ウォーホルの猫

ジャン・コクトー、 パブロ・ピカソ、 フリーダ・カーロ、 グスタフ・クリムト、 そしてウォーホル。 そして日本でも池波正太郎、 井伏鱒二、 谷崎潤一郎などなど、 猫好きのアーティスト、 作家の名前をあげればきりがない。

絵画だけではなく、 音楽、 映画、 出版などさまざまな活動で知られるウォーホル。 晩年には美術品や骨董品に囲まれ、 動物と暮らしたという。
僕がこの本を手にしたのは20年近く前、 学芸大学にあった古書店だ。
青い背表紙にWARHOL、CATの文字を目にして手に取った。 キャンベルスープ缶のシルクスクリーン作品などで知っていたウォーホルとは結びつかなかったけど、 ウォーホル作品としては見慣れない優しいタッチと、 穏やかな猫の表情に魅せられ持ち帰った。
そして今も本棚の中でひっそりと時々の出番を待っている本の一冊だ。

アンディ・ウォーホルの猫

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2022/10/27

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