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猫と男 東京で生きる男と、共に暮らす猫。ふたりの距離感から垣間見える、唯一無二の物語。

BOOK GUIDE:『ねこ』/『子ねこ』

猫との生活をより豊かにするための参考書として。
あるいは癒しの読書時間のお供として。
今回のブックガイドは、ストレートなタイトルの猫本2冊を紹介します。

写真・文:加藤孝司 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)

猫

猫と暮らすことを決めてから、猫に関する本を何冊も買って読み漁った。はじめての人にもわかりやすく猫の飼い方が書かれた本から、写真集、哲学書のような本、インターネットの記事もできるだけ目にした。
そこには、はじめて猫を迎えるにあたり準備するもののガイドから、猫と暮らすための心得、お世話の仕方、年齢ごとのご飯の種類や猫の種類ごとの性格の違い、猫の病気や動物病院のことなど、いろんなことが可愛い写真や図版とともに書かれていた。ページをめくるたびに、これからはじまる猫との暮らしを考えてワクワクした。

それらの本は、ジャスパーを家に迎えてからも事あるごとにページをめくり、予定不調和なことの多い猫との暮らしの参考書に大いになってくれた。
日々の暮らしの中で猫との関係が自然と築かれてくると、「お互いが心地よければ良し」と、特に参考書の類は前ほどあまり手にとらなくなった。
代わりによく読むようになったのは、猫を題材に書かれた小説やエッセイ、何気ないひとときに手に取ってつらつらとページをめくるのが楽しいポケットに入るような小さな本だった。

猫の本

中でも文庫本サイズの「カラーブックス」の、猫にまつわる本はお気に入りのひとつ。古書店に行ってカラーブックスの棚を見つけると、猫のタイトルは他にもあるのかなとついつい探してしまうほど気に入っている。
カラーブックスは、図鑑の発行などで知られる保育社が1962年に創刊した文庫本サイズのビジュアル本。1999年までに909タイトルが出版され、買いやすい価格で当時も今も本好きに親しまれている。
鉄道から民藝、工芸、植物、昆虫、動物ものから気象系まで。図鑑のようなものから読み物が充実しているものまで、バラエティ豊かなラインナップで展開され、知りたい気持ちに応えてくれる。

猫の本

僕の家の本棚にも、もともと好きな民藝、工芸、クラフトが中心だが、カラーブックスシリーズが何冊かある。そして我が家の愛猫ジャスパーが家に来てから手に入れたものに、猫をテーマにしたものが2冊ある。
一冊はその名もずばり『ねこ』。そしてもう一冊は『子ねこ』(共に廣田せい子・山崎哲 共著)。タイトルがストレートすぎて笑ってしまうが、中身もまさにタイトル通りの愛らしい猫の写真がずらっと並ぶからたまらない。

『ねこ』は初版の刊行が1978年だから、43年前の本ということになる。以前にこのコーナーで紹介した『ズッケロとカピードに仔猫が生まれた』(草思社刊)も、この年に出版されたものだった。古くは平安時代や江戸時代にも猫が人気の時代はあったそうだが、おそらくこの頃は現代の第一次猫ブームとも言われる時代で、多くの猫本がリリースされたのだろう。

この2冊の本の特徴は、猫の魅力がさまざまな角度から美しい写真とともに紹介されているところ。エッセイや詩で、猫の歴史から芸術作品に登場する猫、猫にまつわる伝記や、十二支に猫年がない理由、迷子になった猫を探すおまじないなど、知っているつもりだった猫たちにまつわるあれこれが楽しく語られる。

なかでも面白かったのは猫の食器、うつわのお話。
猫と暮らしている家には、その家ならではの猫のご飯用のうつわがあることだろう。江戸幕府の将軍、徳川家定の御台所・天璋院が飼っていた猫は、黒塗の膳とあわび型の皿を使っていたという。かたやその時代の庶民が飼っていた猫はあわびの貝がらをうつわに食べ物をもらっていたそうだが、そのことは当時の落語や古川柳にも残っているのだとか。あわびの型のお皿やあわびの貝がらとは現代からみると豪勢に感じるが、いつの時代も猫は飼い主に大切にされていたんだなあと思う。

もう一冊の『子ねこ』は、『ねこ』と猫シリーズの姉妹編として同じ著者により1982年に刊行された。

巻頭のフォトストーリー「恋はそよ風の中で」は、アメリカのシアトルの農場で撮影された子ねこのスキャンピーとローザの冒険譚。もちろん猫は喋らないから、これはあくまで人間の創作なのだけれども、人はかようにも猫や愛する生き物に物語を投影するものだと思う。

猫の本

子ねこを育てたことのある人ならわかると思うが、猫の一生にとって子ねこの時代はほんのわずかしかない。我が家のジャスパーも、家に来た時には500gになかなかならないと言われていたけど、数ヶ月もするとあっという間にその何倍にも育った。
だから、運良く子ねこと暮らすことができたら、たくさんの写真を撮ってあげてほしい。年々も後に写真を見返すことがとても楽しいはずだから。

この本の巻末エッセイ集「ねこのいるエッセイ いつもどこかに」も、猫好きには矜持に満ちたストーリーが盛りだくさんだから、機会があったらぜひこの本を手にしてみることをおすすめしたい。

猫をテーマにした本はこの世の中、古今東西あまたあって、猫好きならずともついつい手に取っては微笑んでしまうことだろう。だから一度でも猫と暮らした経験のある人ならばなおさら、日々に小さな幸せをもたらしてくれる猫たちの存在に感謝せずにはいられないはずだ。

猫の本

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2021/07/28

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