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21のバガテル モノを巡るちょっとしたお話

21のバガテル Ⅱ
第15番:赤い再会
「ティモ・サルパネヴァのキャセロール」

文:大熊健郎(CLASKA Gallery & Shop "DO" ディレクター) 写真:馬場わかな 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)

Profile
大熊健郎 Takeo Okuma
1969年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、イデー、全日空機内誌『翼の王国』の編集者勤務を経て、2007年 CLASKA のリニューアルを手掛ける。同時に CLASKA Gallery & Shop "DO" をプロデュース。ディレクターとしてバイイングから企画運営全般に関わっている。


ティモ・サルパネヴァのキャセロール
ティモ・サルパネヴァが1959年にデザインし翌年Rosenlew&Co社より商品化された。鋳物製で表面にはこの赤、内側には白い琺瑯がかけられている。チーク製のハンドルは持ち運びだけでなく、熱くなった鍋の蓋を取る機能も備える優れもの。ヴィンテージの北欧モダンデザインを扱う店 「ELEPHANT」 で購入。

「色っていったいなんだろう?」
 こういう質問にさらっと答えられるような人に常々なりたいと思ってきたが未だ願望のまま……。それでも色が光の反射によるものだということくらいはかろうじて知っている。物体には個々の性質によって吸収する光の色と反射する光の色があり、たとえば赤いりんごだったら赤い光だけを反射してそれ以外の色は吸収してしまうから赤に見える。全ての光を反射すると白、逆に全ての光を吸収してしまうと黒に見える、なんて習いましたよね、って私は全く覚えておりませんが。

 というようなことが頭ではぼんやりわかっていても実感としていまいち納得できない居心地の悪さを中年になった今でも私は持ち続けている。 「えーそんなの嘘だよ、もの自体に色がついてるに決まってんじゃん」 という小学生の感覚のままオジサンになってしまったといってもいい。色が光の反射によるものだとすると、絵具とかペンキの色ってどうやってつくるんだろう? とか、でも最終的に色を認識するのは視覚であり脳のはず、なんて色々疑問に思えてくる。色って単純なようで実に複雑。こういう疑問に小さい頃から根気よく向き合い、考え続けられるような子がやっぱり科学者になったりするのでしょうね。

 好きな色というのは誰にでもあるだろう。私の場合その筆頭は赤である。赤と一口にいっても様々な色合いが存在するわけだが、特に好きなのが朱赤に近いやや黄味がかったコクのある赤。原点はおそらく小学生時代、スーパーカーブーム世代のひとりとして 「フェラーリ」 や 「ランボルギーニ」 といったスポーツカーに夢中になっていたことと関係があるかもしれない。その時の鮮烈な 「赤」 = カッコいい色、という印象が幼い私に刷り込まれたのか、今でも赤い車を見かけると思わず振り返ってしまう。ただ振り返るのは不思議と外車ばかり。同じ赤でも日本車の赤って何か違う、物足りないと感じてしまう。

 上の写真はフィンランドのデザイナー、ティモ・サルパネヴァがデザインしたキャセロール (鍋) 。同じくフィンランドのアンティ・ヌルメスニエミがデザインしたコーヒーポットと並んで北欧デザイン、とりわけ北欧雑貨のアイコン、象徴的存在として世に知られたもののひとつと言えるかもしれない。はじめてこの鍋を見た時、色といいかたちといい、こんな素敵な鍋があるなんてと興奮したのだが、その興奮の一番の要因はやっぱりこの 「赤」 のせいだと思う。この色がどうにも私の官能を刺激してやまないのだ。

 かつて北欧に家具や雑貨の買付に行っていた頃、この鍋を2回仕入れたことがある。自分で購入しようかなと迷っているうちに最初の一点は売れてしまい、数年後に二つめを見つけた時は今度こそと思ったが、とある事情でこの鍋をとても欲しがっていた金子國義さんにプレゼントすることになった (金子さんはたいそう喜んでくれた) 。次こそはと思ってその後も何度か買付に行ったが結局この鍋に再会することはなかった。それから20年近い歳月が過ぎた昨年、知人の店でこの鍋を見つけたのである。私の中で忘れかけていた何かが突然燃え上がった。再会の喜びと興奮、それ以上に 「好き」 という気持ちが全く変わっていなかったことがなんだか嬉しかった。

DUSYMA
こちらもフィンランドを代表するデザイナー、カイ・フランクがデザインした 「FINEL」 のエナメル (琺瑯) ボウル2種。この色に出会うと欲しくなってしまう。FINELの琺瑯シリーズは発色のいい色から落ち着いた色まで日本の琺瑯製品には見られない独特の色使いが魅力。

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2022/08/08

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