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21のバガテル モノを巡るちょっとしたお話

第10番:Sweet Tea Memories
「ヴィンテージのBrown Bettyティーポット」

文:大熊健郎(CLASKA Gallery & Shop "DO" ディレクター) 写真:馬場わかな 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)

Profile
大熊健郎 Takeo Okuma
1969年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、イデー、全日空機内誌『翼の王国』の編集者勤務を経て、2007年 CLASKA のリニューアルを手掛ける。同時に CLASKA Gallery & Shop “DO” をプロデュース。ディレクターとしてバイイングから企画運営全般に関わっている。

古ければいいってものではないが現行品にはないずんぐりと丸いフォルムがお気に入りのBrown Bettyティーポット。丸ポチャの胴体に対して蓋が控えめにすっきりつくられているところがエレガント。

 コーヒーが世界を席巻している。大手チェーンは言うまでもなく、お洒落な個人経営のコーヒーショップも続々と出現し、コンビニでは挽きたてのドリップコーヒーが手軽に飲める時代である。まあコーヒー党には大変結構な時代なのでしょうね。一方、どちらかといえば紅茶党の僕は、昨今の急激な盛り上がりぶりに「みんなそんなにコーヒーが好きだったっけ?」と半ば勘ぐっていたりするのだが……。

 紅茶に関してはひとつ甘美な思い出がある。小さい頃ピアノを無理やり習わされてドロップアウトしたという話を以前書いたが、実は小学生の頃フルートも習っていた。フルートは自分からやりたいと言ってはじめたのだけど、どうしてそう思ったのかはあまり覚えていない。週に一度、家から自転車に乗ってフルートの先生の自宅に通っていた。

 先生は上品でとても優しく、そして美人だった。外面のいい子どもだった僕は先生に褒められたい一心で一生懸命練習した。レッスンにはもうひとつ楽しみがあった。お茶の時間である。毎回レッスンが終わると先生のお母さんが紅茶とお菓子を用意してくれる。その紅茶はいつもとても甘かった。最初から砂糖が入っているのだ。それが子どもながらに何ともおいしく感じられた。だから今でも紅茶は甘くして飲むのが好きである。先生は今どうしているのかな。

 3年ほど前、長くロンドンに住む古い友人を訪ねて10年ぶりくらいにイギリスに行った。そのとき友人にお願いしてイングランド南東部の港街・ヘイスティングスに連れて行ってもらった。「ヘイスティングスの戦い」の歴史的舞台として、また美しいビーチリゾートとしても知られる街だが、僕の目的はそのどちらでもなく「A.G. HENDY&CO HOMESTORE」という一軒の店だった。

 この店は家庭で使う食器やキッチン用品、掃除道具など実用的で美しく、しかもイギリスで昔から使われてきたものばかりを集めた用品店だった。今なおイギリスでつくり続けられているものに加え、オーナーがイギリス中で探してきたというヴィンテージの日用品や家具なども扱っていた。それこそ店ごと買い占めたい気分だったが遠い旅先である。あれもこれもというわけにはいかず、熟慮の末選んだモノのひとつが写真のティーポットである。

 通称Brown Bettyと呼ばれるこのティーポット。イギリスのウェストミッドランドにある陶器産業の里、ストーク=オン=トレントで量産され普及した。良質の赤土が採れたことで窯業が盛んになった土地である。このBrown Betty、17世紀後半に誕生したというから、英国の紅茶文化とその歴史を象徴する一品でもある。柳宗悦の目には適わなかったのかもしれないが、イギリスの民藝のひとつと言っても過言ではなかろう。

 写真のポットはヴィンテージのデッドストックで、実際いつ頃つくられたものかはわからない。ただ現行品に輪をかけてまんまるぽっちゃりしたボディに一目で魅せられてしまった。なんとも愛嬌があるではないか。こうして本来ならひとつあれば事足りるはずなのに、ついつい棚には友達が増えてしまうのである。

好みの「キャラ」を感じると欲しくなってしまう。左)京丹波で作陶する竹田道生さんのティーポット。中)台湾で買った中国茶用の土瓶。右)スティグ・リンドベリがデザインしたグスタフスベリ社(スウェーデン)のティーポット。

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2020/07/07

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