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21のバガテル モノを巡るちょっとしたお話

第9番:Resonance
「ロナン&エルワン・ブルレックのL’Oiseau(ロワゾー/鳥)」

文:大熊健郎(CLASKA Gallery & Shop "DO" ディレクター) 写真:馬場わかな 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)

Profile
大熊健郎 Takeo Okuma
1969年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、イデー、全日空機内誌『翼の王国』の編集者勤務を経て、2007年 CLASKA のリニューアルを手掛ける。同時に CLASKA Gallery & Shop “DO” をプロデュース。ディレクターとしてバイイングから企画運営全般に関わっている。

ヴィトラ社から「L’Oiseau」が発売されたのは2011年。後年、同じフォルムでセラミック製のタイプも発売されている。プレゼントしてくれたこの黒い鳥の底に僕の名前を彫ってくれた。

 CLASKA Gallery & Shop “DO” をはじめた年の冬、ある雑誌から思わぬ仕事の依頼があった。海外の著名デザイナーと日本の工芸をマッチングしてものづくりをするという企画で、デザイナーと産地の間に入ってものづくりを支えるコーディネーター役をやらないかというのである。

 英語もろくに話せない自分にそんな仕事が務まるのかと思いながらも興味をそそられて「海外のデザイナーとは誰ですか?」と聞いてみた。すると先方は「ブルレック兄弟です」と言うではないか! 長くインテリアの世界にいた僕にとってロナン&エルワンのブルレック兄弟は、当時最も気になるデザイナーだったのである。

 彼らの名を知ったのはパリにあった「A-POC」(イッセイ・ミヤケのブランド)の店舗を見たのがきっかけだった。白を基調にした内装に緑色のフェルト生地がバーチカルブラインドのように垂れ下がる様子がモダンかつセンシュアルで、「新しい何かを目撃した」という興奮に僕は包まれた。それがブルレック兄弟というフランス人デザイナーの仕事だと知ってから、彼らの仕事を追いかけるようになった。

 来日したのは兄のロナン・ブルレックさん。すでに世界的デザイナーだったけれど謙虚で繊細な人だった。刃物と輪島塗の現場を見たいということで、燕三条と輪島を回ることになった。タイトなスケジュールながら編集者やライター、カメラマンの人も同行した賑やかで楽しい時間でもあった。宿泊先のホテルでは、編集者が悪乗りしてシャイなロナンにカラオケを歌わせたりしていた。

 旅の途中、ロナンが「日本の伝統的な道具や日用品の本が欲しいのだけど手に入るところを教えて」と尋ねてきた。ただ聞けば東京での自由時間はわずか数時間だけだという。書店を教えたところで気に入る本を短時間で探すのは難しいだろう。そう思った僕は「クラスカのショップに来ない? 探しているような本がいくつかあるから」と伝えると、後日通訳を連れて店に来てくれた。

 ちょうど郷土玩具の企画展「みやげもん」展を開催していた時だった。店に入りその光景を見たロナンは「撮影してもいい?」と聞くやいなや三脚を取り出し撮影大会がはじまった。展示していた津軽の下川原焼の鳩笛を手に取りなにやら興奮している。「実は今ある家具メーカーから依頼されて鳥のオブジェをデザインしているのだけどよく似てるんだ」と言う。

 それがのちにスイスのヴィトラ社から商品化された「ロワゾー」という無垢のメープル材を削り出した美しい鳥のオブジェである。上の写真はプロトタイプとしてつくったという黒に塗装されたもの。「とても貴重なんだよ」と言って後年プレゼントしてくれた宝物である。

 撮影大会が終わりやっと本題に戻ると、ロナンはいくつか手渡した本のページをめくりながら「まさにこういう本を探していたんだよ」と大喜びしてくれた。それは’60年代に出版された『かたち 日本の伝承』(美術出版社)や『日本の民具』(慶友社)といった大型のビジュアル本だった。ロナンの喜ぶ姿を見て、言葉はできなくても仕事はなんとかなるだろう、と少しほっとしたのを覚えている。

左はブルレック兄弟の作品集の一部。右は2011年にイタリアのFLOS社から商品化されたPianiというデスクランプ。実は’09年に輪島の職人たちの手によって木と漆で仕上げたオリジナルを、FLOS社がプラスチック製にして量産したものである。

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2020/06/21

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