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21のバガテル モノを巡るちょっとしたお話

第8番:Love is priceless
「オランダからやってきたハムスター小屋」

文:大熊健郎(CLASKA Gallery & Shop "DO" ディレクター) 写真:馬場わかな 編集:落合真林子(OIL MAGAZINE / CLASKA)

Profile
大熊健郎 Takeo Okuma
1969年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、イデー、全日空機内誌『翼の王国』の編集者勤務を経て、2007年 CLASKA のリニューアルを手掛ける。同時に CLASKA Gallery & Shop “DO” をプロデュース。ディレクターとしてバイイングから企画運営全般に関わっている。

左側がハムスターも走りがいのありそうな大きな回し車になっている。緑屋根の赤い家といえば北欧の田舎家を思い浮かべるが、色使いは確かにオランダ的でもある。

 最近「コスパ!」と当たり前のように口にする人が増えてなんかいやだなと思うのでありますが、安いもの、お得感を感じるもの、みんな好きですよね。と他人事のように言っているわたくしも、スーパーで「ハーゲンダッツ全品2割引!」なんて目にしてしまうとテンションが上がって、ここぞとばかりにまとめ買いしてしまうのですが……。

 一方、人は高いものに惹かれるという部分もある。つくるのに時間や手間がかかったり希少価値があったりするとモノは高くなるわけだが、単に値段を高くした方が喜ぶ人、有難がる人がいる、という場合もある。高いから欲しい、高くした方が売れる、なんて一瞬「えっ?」と思う方もおられようが誰にでも心当たりはあるはず。

 「ヴェブレン効果」なんていう言葉があるが、値段が高い方が価値や有難みを感じて購入意欲をそそられるという感覚は確かに存在する。高級ブランドと呼ばれる商品には少なからずその要素があるだろうし、アートや骨董などを求める人の心理にも大きく影響しているだろう。いずれにしても人とモノの値段の関係性というのは、もっともらしいようで実に曖昧な世界。

 さて、話は変わるのだが、上の写真はオランダからやってきたという古いハムスター小屋。15年くらい前に「ギャラリーブリキ星」という店で買ったものである。当時この店では年に一度「オランダ蚤の市」なる企画展を開催していた。確か店主の知人でオランダに在住する日本人ご夫妻が、現地の蚤の市を回って集めたものを販売するという企画だったと記憶している。

 DMの写真に写っていたこの赤い小屋を一目見たくて店に足を運んだのは企画展がはじまって2日目だった。きっともう売れているだろうなと思って店に入ると、意外にもまだ小屋は残っている。するとなぜか嬉しいような、それでいてがっかりしたような妙な気分になって結局その日は買わずに帰宅することにした。

 ただ日が経つにつれ小屋のことが気になって仕方がない。そうこうしているうちに最終日となり、半分あきらめつつ店を再訪するとなんと変わらずハムスター小屋はそこにあった。店主も最後まで残っていたのが不思議だと言う。「やっぱり僕を待ってたのかな」と今度は迷わず連れて帰ることにした。

 家に帰って改めてよく見ると、窓やドアの形、金具の付け方など細部はどこもぎこちなくて、ラフな仕上がりである。でもそこがほのぼのしていていい。「そうだ、この小屋は元々商品として売られていたんじゃなくて、きっとお父さんがハムスターを飼う娘のためにつくってあげたものに違いない」、そう思うとますます愛おしく感じられた。

 手編みのセーターを無条件に賞賛するつもりはないけれど、色々計算してきれいにつくられた商品には出せない魅力というものは確かにある。そう、「愛」なのだ。「愛」だけが生み出せる何か。それは最高の贅沢品になり得るエッセンス。たとえ小屋を手作りした一番の理由が、オランダ人のお父さんが既製品を買うお金をケチったせいだったとしても……。

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2020/06/07

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